わたしたちだけの文化祭(8)
異能部の部室である、校外にあるプレハブ小屋の前は生徒たちで賑わっていた。
「せつなー!」
そこへ元気よく現れたのはヨヨ。その後ろには生徒会の三人が。
これで、全生徒が異能部に集まったことになる。
「ヨヨちゃん! それに、生徒会のみんなも来てくれたんですね!」
生徒会の面々はそれぞれらしく反応を返す。
「あの、異能部は何をされるんですか?」
出し物の格好のままそう聞いたくるる。せつなは「それはねぇ……」と答えようとした瞬間だった。
「みなさまお集まりいただきありがとうございます。異能部の出し物は『異能体験』をコンセプトに用意した体験型アトラクションです」
――奈子により、それは淡々とお披露目されてしまった。
「ちょっと奈子お姉ちゃん! わたしが今言おうとしてたのにー!」
「ああすまない、せつな。台本どおりにそのまま読み上げてしまった」
奈子に対し頬を膨らませるせつなの横で、亜仁は「部長は台本に律儀だからねぇ」の呟いた。
「異能体験、面白そうであります!」
「此乃も異能、使えるじゃないですか」
目を輝かせる此乃に、冷静にツッコミを入れる咲。乃木羽は微笑ましそうに笑っていた。
「あら〜♡ 異能の体験って、どんなことされちゃうのかしら♡」
「きっとアンタが考えているようなことじゃないわね」
癒月と輪香はそんな会話を交わす横で、米来は真っ直ぐに右手を上げ、「はいはーい! ウチ、はよ体験してみたいわ!」と声を上げた。
「順番に案内するから待ってください〜。まあ、体験の流れの説明として、とりあえず歩煎、こっち来てよ」
突然に林檎にそう振られた歩煎は、「げっ、なんでボクが……」と、心底嫌そうな顔を浮かべたが、拒否する間もなく林檎に手を引かれ、みなの前へ立つことになる。
「体験方法はすごくシンプル。わたしたちの近くで異能を見てもらうって感じね。例えば……部長、お願いします」
「わかった」
林檎に呼ばれた奈子は、そのまま歩煎を後ろから抱き、その右手を取った。突然至近距離に詰められた歩煎は赤面していたが、奈子は歩煎の反応に気づくはずもない。奈子はリードするように歩煎の右手を林檎の前に翳すや、林檎の髪がハラハラと風に揺れ出した。
実際には奈子の自身の手で風を巻き起こしているが、奈子に手を取られた歩煎からすると、まるで自分自身が異能を使っているという感覚になる、といったとこだろうか。
「――ってな感じで、異能の体験ができるのよ」
林檎はそう説明を締め括り、「じゃあやりたい人は順番に来てちょうだい!」と案内し始めた。
「なんか思ってたより原始的というかなんというか……ね」
「異能の体験っていうかぁ、異能を間近で見ている感じ? みたいな」
異能部の説明を聞いていた茉莉ときんぎょはそれぞれ感想を口にしていた。
そんな二人の発言をせつなは聞き逃さなかった。
「二人ともそんなこと言ってますけど、わたしのは本当にちゃんと体験できますよ!」
自信満々に話すせつなに、茉莉はますます疑いの目を向ける。
「あー、茉莉ちゃん、信用してないでしょ」
「そりゃあね。だって、せつなの異能は――」
「わたしだってね、やればできるんだよ!」
せつなは茉莉の話を遮り、茉莉の手を引いてみなの前へと引っ張り出した。
「なっ、何よ!」
「今から、茉莉ちゃんにも瞬間移動の体験、させてあげる!」
「はぁ? そんなのできるわ……」
……け、と茉莉は言い切ったとき、茉莉はさっきまでいた地点とは別の場所に立っていた。
「……は? え?」
動揺を見せる茉莉。
それを見ていた周りの一同も目を丸くしていた。
「……わたし、茉莉が移動するところ、まったく見えなかった」
乃木羽は震えた声で呟いた。
一歩引いてその様子を見ていた華乃も、この事態に驚いている様子だ。
「せつな……アンタ一体何したの?」
尋ねる茉莉に、せつなは笑顔で答える。
「だから、異能体験! わたしの瞬間移動の異能を体験してもらったの!」
「それはわかってるけど! どうやってアタシを移動させたのよ!? だって、せつなの異能は、せつな自身にしか使えなかったんじゃ……!」
「あー、なんかそれがね、最近はそうでもないっていうか」
せつなは照れたふうにはにかみ、こう話す。
「わたしの異能は、『時間を操る』異能って聞いてから、ちょっとずつその感覚もわかってきたっていうか」
「……」
「数メートルくらいなら、茉莉ちゃんを移動させることができるようになったの。移動した時間を消せば、まるで瞬間移動したみたい感じるでしょ?」
茉莉は開いた口が塞がらない。
此乃の「せつな……すごいであります!」という声を皮切りに、せつなの異能体験をしてみたいと挙手をする米来と歩煎。それに続き、盛り上がりを見せる一同。
だが、生徒会のメンバーだけは静かな反応を見せていた。
特に華乃は、じっとせつなの様子を興味深く見つめていた。
「……少しずつ異能が開花し始めている。このままいけば、いずれ尾張さんの異能は、此乃を運命から救うことができる……」
華乃はニヤリと笑みを浮かべた。
「――実が熟すまで、もう少しですわね」
その呟きは誰の耳にも届くことはなく、ヒッソリと場に溶けて消えた。