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【完結済】異能部へようこそっ!  作者: みおゆ
第9話・わたしたちだけの文化祭
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わたしたちだけの文化祭(8)

 異能部の部室である、校外にあるプレハブ小屋の前は生徒たちで賑わっていた。


「せつなー!」


 そこへ元気よく現れたのはヨヨ。その後ろには生徒会の三人が。


 これで、全生徒が異能部に集まったことになる。


「ヨヨちゃん! それに、生徒会のみんなも来てくれたんですね!」


 生徒会の面々はそれぞれらしく反応を返す。


「あの、異能部は何をされるんですか?」


 出し物の格好(看護服)のままそう聞いたくるる。せつなは「それはねぇ……」と答えようとした瞬間だった。


「みなさまお集まりいただきありがとうございます。異能部の出し物は『異能体験』をコンセプトに用意した体験型アトラクションです」


 ――奈子(なこ)により、それは淡々とお披露目されてしまった。


「ちょっと奈子お姉ちゃん! わたしが今言おうとしてたのにー!」

「ああすまない、せつな。台本どおりにそのまま読み上げてしまった」


 奈子に対し頬を膨らませるせつなの横で、亜仁(あに)は「部長は台本に律儀だからねぇ」の呟いた。


「異能体験、面白そうであります!」

此乃(この)も異能、使えるじゃないですか」


 目を輝かせる此乃に、冷静にツッコミを入れる(さき)乃木羽(のぎは)は微笑ましそうに笑っていた。


「あら〜♡ 異能の体験って、どんなことされちゃうのかしら♡」

「きっとアンタが考えているようなことじゃないわね」


 癒月(ゆづき)輪香(りんか)はそんな会話を交わす横で、米来(まいらい)は真っ直ぐに右手を上げ、「はいはーい! ウチ、はよ体験してみたいわ!」と声を上げた。


「順番に案内するから待ってください〜。まあ、体験の流れの説明として、とりあえず歩煎(ほせ)、こっち来てよ」


 突然に林檎(りんご)にそう振られた歩煎は、「げっ、なんでボクが……」と、心底嫌そうな顔を浮かべたが、拒否する間もなく林檎に手を引かれ、みなの前へ立つことになる。


「体験方法はすごくシンプル。わたしたちの近くで異能を見てもらうって感じね。例えば……部長、お願いします」

「わかった」


 林檎に呼ばれた奈子は、そのまま歩煎を後ろから抱き、その右手を取った。突然至近距離に詰められた歩煎は赤面していたが、奈子は歩煎の反応に気づくはずもない。奈子はリードするように歩煎の右手を林檎の前に翳すや、林檎の髪がハラハラと風に揺れ出した。


 実際には奈子の自身の手で風を巻き起こしているが、奈子に手を取られた歩煎からすると、まるで自分自身が異能を使っているという感覚になる、といったとこだろうか。


「――ってな感じで、異能の体験ができるのよ」


 林檎はそう説明を締め括り、「じゃあやりたい人は順番に来てちょうだい!」と案内し始めた。


「なんか思ってたより原始的というかなんというか……ね」

「異能の体験っていうかぁ、異能を間近で見ている感じ? みたいな」


 異能部の説明を聞いていた茉莉(まつり)ときんぎょはそれぞれ感想を口にしていた。


 そんな二人の発言をせつなは聞き逃さなかった。


「二人ともそんなこと言ってますけど、わたしのは本当にちゃんと体験できますよ!」


 自信満々に話すせつなに、茉莉はますます疑いの目を向ける。


「あー、茉莉ちゃん、信用してないでしょ」

「そりゃあね。だって、せつなの異能は――」

「わたしだってね、やればできるんだよ!」


 せつなは茉莉の話を遮り、茉莉の手を引いてみなの前へと引っ張り出した。


「なっ、何よ!」

「今から、茉莉ちゃんにも瞬間移動の体験、させてあげる!」

「はぁ? そんなのできるわ……」


 ……け、と茉莉は言い切ったとき、茉莉()()()()()()()()()()()()()()()()に立っていた。


「……は? え?」


 動揺を見せる茉莉。

 それを見ていた周りの一同も目を丸くしていた。


「……わたし、茉莉が移動するところ、まったく見えなかった」


 乃木羽は震えた声で呟いた。


 一歩引いてその様子を見ていた華乃(かの)も、この事態に驚いている様子だ。


「せつな……アンタ一体何したの?」


 尋ねる茉莉に、せつなは笑顔で答える。


「だから、異能体験! わたしの瞬間移動の異能を体験してもらったの!」

「それはわかってるけど! どうやってアタシを移動させたのよ!? だって、せつなの異能は、せつな自身にしか使えなかったんじゃ……!」

「あー、なんかそれがね、最近はそうでもないっていうか」


 せつなは照れたふうにはにかみ、こう話す。


「わたしの異能は、『時間を操る』異能って聞いてから、ちょっとずつその感覚もわかってきたっていうか」

「……」

「数メートルくらいなら、茉莉ちゃんを移動させることができるようになったの。移動した時間を消せば、まるで瞬間移動したみたい感じるでしょ?」


 茉莉は開いた口が塞がらない。


 此乃の「せつな……すごいであります!」という声を皮切りに、せつなの異能体験をしてみたいと挙手をする米来と歩煎。それに続き、盛り上がりを見せる一同。


 だが、生徒会のメンバーだけは静かな反応を見せていた。


 特に華乃は、じっとせつなの様子を興味深く見つめていた。


「……少しずつ異能が開花し始めている。このままいけば、いずれ尾張(おわり)さんの異能は、此乃を運命から救うことができる……」


 華乃はニヤリと笑みを浮かべた。


「――実が熟すまで、もう少しですわね」


 その呟きは誰の耳にも届くことはなく、ヒッソリと場に溶けて消えた。

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