わたしたちだけの文化祭(7)
「武具製作部は武器の体験ができま〜す、どうかみなさん、楽しんでいってくださいね〜」
「……うわぁ、鉄子先輩、めちゃくちゃやる気ない言い方……」
武具製作部の出し物は、これまで鉄子が製作した武器を体験できるというものらしい。
「オレはこーいうの好きじゃねぇんだよ。労いってんなら、一日休みにしてほしかったぜ」
「え〜、文化祭だって楽しいじゃないですか!」
「せつなはいいよなぁ、単純で」
「……鉄子先輩、わたしのことバカにしてます?」
せつなは鉄子を睨みつけたが、鉄子はそんな視線、一切意に介してないようだった。
「んで、お前ら武器体験やってくか? 気に入ったのあったら、その武器そのままやるよ」
「わたしはいいでーす。疲れたくないし、今の武器だって別に壊れたりしてないし」
「ボクもパスします。文化祭のときまで武器握りたくないですしぃ……」
「わたしも別にやってみたい武器とかないし、またソラロボと戦うことになったらめんどうなのでいいです!」
「んー……じゃあ、わたしもやらない」
「……お前ら、何しにここに来たんだよ」と鉄子は深くため息をついた。
「っていうか、武器体験しに来る人、全然いませんねぇ」
亜仁は周りを見渡しながら言った。この場には、異能部と鉄子しかいない。
「そりゃあそんな物騒なこと、ただの好奇心でやるやついねぇよ。しおりにも書いてるだろ?」
鉄子に言われ、せつなたちは改めてしおり目を通した。武具製作部の出し物の説明欄には、『武具製作部が製作したこれまでの武器を体験できます。体験したい好きな武器を選んで、我が部開発のソラロボと戦い勝利するまでが体験内容です。ただし、負ければ死にます』と書かれていた。
「負けたら死ぬの!?」
読み終えたせつなは驚きの声を上げた。鉄子は「ああ、死ぬ」と淡々に答え親指を立てた。
「こう書けば誰も寄り付かねぇと思ったしな。俺はひとりのんびりと部室で過ごせるってわけよ」
「発想が暗いなぁ……」
亜仁はやや呆れ顔だ。
「生徒会はこれでもOK出すものなのね」
「そもそも、最早生徒会はこんなところまでチェックしてない可能性まであるな」
「確かヨヨちゃんから、しおりの監修は副会長がやってるって聞きましたし……それ、ありそうですね」
そうして雑談を交わしていると、「んじゃ、そういうわけだから帰った帰った」と鉄子は言ってきた。
せつなは堪らず不満な表情を見せ、「鉄子先輩もわたしたちもいっしょに行きましょうよー」と誘うが、鉄子に拒否されてしまう。
「俺はここでひとり武器と過ごしているほうがいいの」
「えー絶対ウソですよ〜。鉄子先輩、東京観光のときだって、わたしたちと楽しんでたじゃないですか」
「東京観光……」
鉄子は呟いて、悲しそうに微笑んだ。
「ああ……そんなこともあったな」
鉄子の思わぬ反応に、せつなは戸惑ってしまう。そこへ林檎が、「なんでそんなしんみりしてるのよ?」と口を挟んだ。
「卒業式のときのテンションみたい。……っていっても、卒業までまだ半年近くあるし。鉄子先輩、ちょっとフライングじゃないですか」
鉄子は「そうだな」と笑った。
「……まだ、卒業まで時間があるもんな」
「もう、鉄子先輩何考えてるかわからないですけど、とにかくわたしたちといっしょに文化祭回りましょう! 次はいよいよ異能部の出し物なんですから、絶対来てください!」
「わかったわかった! だからせつな、そんな引っ張るなって〜!」
せつなは鉄子の腕を引き、部室の外へ連れ出していく。
「鉄子、そんなに不安にならずとも、卒業後もわたしは鉄子と付き合いつづけたいと思っているよ」
奈子は鉄子の後ろから肩を押すようにして、耳元でそう囁いた。
「……。そんなの、オレだって同じだよ」
そう話す鉄子に、奈子は無邪気に笑い返した。
林檎と亜仁はそんな二人を追い越して、小走りに階段を駆け上がっていく。「あー! 先輩たち、待ってください!」とせつなの声が響き、少女たちのはしゃぐ声が反響し、満たされていく。
変わらない確かで平和な時間の中で、鉄子も自然と、翳りのない笑顔を取り戻していた。