わたしたちだけの文化祭(6)
「次はソラケン部にでも行こうか」
奈子の提案の元、異能部はソラビト対策兼司令部へと訪れた。
「ソラケン部は展示なんですよねぇ」
「ああ、だからここだけ常時開催になっているのね」
部室には、異能についての歴史、これまでに確認された異能の種類、異能の解説など――異能に纏わる資料が展示されていた。
「なんか地味……だねぇ。新鮮味もまるでないし……」
「こんなのわたし、飽きるほど知ってるわよ」
「わたしたち自体、異能使いですしね……」
亜仁、林檎、せつなはもう飽きてしまったのか、三人肩を寄せ合い椅子へ座ってしまった。
「まあまあ、そんなこと言うなよ。これらは乃木羽たちが一生懸命作ったんだろうしさ」
一方、奈子だけは展示物をひとつひとつ読み、鑑賞していた。
「乃木羽先輩たちが……っていうか、乃木羽先輩だけが興奮して作ってたって、咲は言ってましたけどね〜……」
林檎は亜仁の膝の上に頭を置きながら、ひと言付け足していた。
そんなとき、奈子はある展示の前で足を止めた。
じっと見つめ、微笑ましそうにその展示を眺めている。
せつなは椅子から立ち上がり、「奈子お姉ちゃん、何見てるのー?」と、奈子の横へ移動し、その展示物を見た。
せつなはそれを見て、驚愕する。
「……こ、これ……!」
それは、せつなの写真だった。
せつな自身、いつ撮られたかわからないものばかりだ。教室でくるると茉莉と話すせつな、昼食を食べるせつな、部室で昼寝をするせつな、模擬訓練を受けているせつな……と、ビッシリせつなの盗撮写真で埋め尽くされていたのだ。
林檎と亜仁もあとからそれらの写真を覗き込む。
「うわぁ、これ……もしや、せつなちゃんの異能を調べているときに撮り溜めてた盗撮写真じゃ……」
「仮になんで乃木羽先輩はこれを展示しようと思ったのよ……って、一枚千円!? 欲しい写真を取って箱にお金をお入れくださいとか、ちゃっかり商売まで手を出してんじゃないのよ!」
せつなは恥ずかしさでいっぱいの中、ある一枚の封筒を見つけた。
その封筒には手書きで、『こちらのみ三千円』と表記されている。
せつなは気になり、封筒から一枚の写真を取り出すと――そこに映されていたのは、寮の風呂場で入浴を楽しむせつなだった。
「#&@☆◇#@!!?」
もやは人間の言葉ではない、悲鳴にも似た叫びを上げるせつな。
奈子はその写真をせつなから奪い取り、財布を取り出すや清算箱に三千円を突っ込んだ。
奈子は、せつながこれまで見たこともないような、おどろおどろしい恐怖を纏わせた笑みを浮かべていた。
「乃木羽のおイタは少々やり過ぎ、だな。文化祭が終わったあとは注意しておこう」
次にせつなたちに視線が向けられたときには、奈子はもうさきほどの笑みは捨てていて、「次は武具製作部にでも行こうか」と話して、部室を出て行った。
残されたせつなたち三人はその背に向かい、
「……あ、あれ……部長がマジでキレたときの笑顔だったよぉ……」
「わたし……初めて見ました。……というか、乃木羽先輩注意するだけなら、奈子お姉ちゃんはなんで三千円払ったんだろう……?」
「せつな、それは考えなくていいわ。見なかったことにしましょう」
――と言葉を残し、身を寄せ合うのだった。