わたしたちだけの文化祭(5)
あれから一週間が経ち、いよいよ訪れた文化祭当日。
校内は少女たちの賑わいの声で包まれていた。
せつなは異能部のみなとすっかり文化祭仕様に変わった校内を巡っているところだ。
「えっと……まず最初に行われるのは保健部の出し物ですね」
せつなは文化祭のしおりを見ながらそう話した。
「人数が少ないからってのが理由だと思うけど、時間ごとに部が出し物開催して、互いにお披露目し合うって……なんかお遊戯会みたいな感じよね」
「保健部は何をやるのだろうか? 保健部らしいというと……注射体験とか?」
「部長、発想がサイコパスですよぉ……」
そんな会話を交わしつつ、異能部は保健部へ訪れた。
すでに何人か生徒たちは到着しているようで、扉の向こうからは賑わいの声が聞こえてきていた。
せつなはウキウキとした気分で扉を開けた――すると、早速目に飛び込んできたのは、ナース姿の保健部員たちだった。
そして次に目にしたものは、ベッドの上で横になる歩煎とそんな歩煎に添い寝する癒月。くるるに肩もみをされている米来に、輪香に粥を食べさせてもらっている此乃という、カオスな光景が広がっていた。
くるるはせつなが来たことに気づき、「いらっしゃいませ、せつなさん」と笑顔を向けた。
「えっと……これは、どんな出し物……?」
せつなが恐る恐る聞くと、その質問には癒月が答えた。
「保健部はぁ、『ナースに看護される患者さんの体験』ができる出し物をやることになりましたぁ♡ 保健部らしくてぇ、すごくいいと思うでしょう?」
フフ……と微笑む癒月。癒月の着ている肌露出の多い看護服は、癒月が動くたびにその豊満な乳が零れそうになっていた。
「……ったく、なんでわたしがこんなことっ……! しかも後輩にお粥食べさせなきゃならないのよ……!」
「ナース先輩〜、またア〜ンしてくださいなのでありま〜す」
此乃の催促された輪香は渋々また此乃の口へ粥を運んであげた。此乃はこの待遇に非常に満足気だ。
「此乃ったら……本当にだらしないですよね……」
そう話したのは咲だ。どうやら此乃の付き添いで来ているらしい。その隣には乃木羽もいた。
「此乃もそうだけど……一番ヤバいのはアイツよ」
乃木羽は言って、アゴで歩煎を指した。
歩煎は緩みきった表情で、癒月にに後ろから抱きかかえられるようにしてベッドに横になっている。
「歩煎ったら……この状況を一番満喫しているわね……」
「歩煎はな! 口に出さへんだけで本当は甘えたがりなんや!」
肩揉みを受けている米来は、歩煎を見やりつつそんな説明を入れた。
「歩煎〜、今度からは、ウチも歩煎に添い寝してあげたるからな」
「タコ部長は絶対拒否します」
せつなはただ困惑し、奈子を見上げた。奈子もこの状況にはついていけてないようで、せつなに苦笑いを返す。
「あ、せつなさんもマッサージされていきますか? ボク、肩揉みなら得意なんです」
「うーん、どうしようかな……。あ、林檎先輩、されていかれます?」
「わたしたぶん……されたら、くるるのかわいさにどうにかなっちゃうかも」
「ダメだ、林檎ちゃんは早くこの場から遠ざけないと……」
亜仁は林檎の発言にドン引きし、輪香は林檎の言葉が聞き捨てならなかったのか、「林檎! ウチのかわいい後輩に手ぇ出したらタダじゃおかないわよ!?」と釘を刺していた。
「――失礼します」
そこへまた新たな来客が――茉莉だ。
「生徒会です。見回りで様子を見に来ました――って、何これ……」
茉莉の表情はみるみる青くなっていくと思えば、次の瞬間、眉を吊り上げ一気に顔を赤くした。
「――こんなのコンプライアンス違反よ! ってか、事前申請と内容が全然違うし……! 生徒会として、直ちに出し物の中止を命令するわ!」
「うるさい一年! ボクはこの天国で一生暮らすと決めたんだ!」
「コラ、歩煎! 一年相手にイキるなや!」
茉莉が入ってきたことにより、どんどんと騒がしくなっていく保健部。
せつな含む異能部員たちはこの喧騒から逃げるように、その場を離れるのだった。