わたしたちだけの文化祭(4)
異能部に戻ったせつな。そこでは、ホワイトボードいっぱいに出し物の案が書き出され、会議に盛り上がる三人の姿があった。
「おっ、せつなおかえり。どうだった?」
奈子はせつなにいち早く気づき、そう声をかけた。
「異能の許可、下りました! ……ただ、やっぱり林檎先輩が異能を使うのだけはダメでした」
「なんでわたしだけはダメなのよ!? っていうか『やっぱり』って何よ!」
「そりぁあ、やっぱり危なっかしいからじゃない〜?」
ホワイトボードに立つ奈子は冷静に、「そうなると、このへんの案は使えないな〜」などと取り消し線を引いていた。
せつなはホワイトボードに書かれた案を見て、数々のアイデアに目を輝かせる。
「――にしてもすごいです! こんなに多くアイデアが出るなんて……!」
「とりあえずやってみたいことを話し合って書き出していたんだ。あとはここから実現できそうなものを探すか……ってところだが、せつなは何か意見はあるかい?」
「わ、わたしは……」
せつなは数々のアイデアとにらめっこしながら考える。その中にひとつ、目を引くものがあった。
「あ、これとかいいんじゃないですか?」
せつなが指差したその案に、一同は深く頷いた。
「はいはーい! それ、わたしが出した案なのよ! せつな、見る目あるわね!」
「ボクも結局はそれがいいかなぁと思ってたんだぁ」
「同意だ。わたしもそれが一番異能部らしくていいと思う」
「それじゃあ……これで決まりですね!」
奈子はその案に赤丸を付け、三人を見やりこう話す。
「――では、必要な物品は生徒会へ後ほど申請するとして……明日からは準備に取りかかろう。文化祭まで残り一週間、全力で楽しむぞ!」
「「「了解!」」」
こうして異能部は文化祭へ向けて動き出したのだった。
果たして、文化祭当日はどうなるのだろうか――。
◇
「文化祭なんて……珍しいこともいうものね」
二人の人影だけが映る、夕方の生徒会室にて、一人の少女――茉莉が口を開いた。
「あら、そうかしら? 白咲さんは、あまり文化祭がお好きでないの?」
そう言い、デスクの上に腰掛け足を組み、茉莉を見下ろすは――華乃だ。
「好きとか嫌いとかじゃないわ。……ただ、今度は何を企んでいるんだろうと思ってね」
「『企む』とはどういったことかしら? わたくしはただ、みなさまに息抜きしてほしいだけですわ。……もう残り時間も少ないんですもの、みなさまには学生らしく、思い出作りをしてもらわないと……ね」
華乃は微笑んだ。その笑みは偽りらしきものは一切感じない、優しさだけが見えた。
「残り時間……って、誰の」
訝しげに問う茉莉に、華乃は目を細めた。
「――三山さんの、です。彼女の残された時間はもうあまりありません」
茉莉は目を見開いた。
「これは三山さんに向けての、最後の思い出作りともいえますわ」
「……っ、待って! 三山先輩はせつなにとって姉のような人なのよ……! どうにかして助けてやれないの!?」
「――無理です。なぜなら、尾張さんの異能は、尾張さん自身にしか適用されないからです」
「……っ」
茉莉は両の拳を握り、奥歯を噛み締めた。
「……ですが、ひとつ条件を満たせばこの異能はさらに強くなりますの」
「強く……?」
華乃は目を細め、こう言い放つ。
「――それは『絶望』です。人は窮地に追い込まれてこそ、真の力を発揮する」
茉莉は華乃を鋭く睨みつけた。
「わたくしはそのタイミングで、尾張さんの異能をいただきます。そして、学園生徒たちだけの永遠の楽園を築きあげるのです」
「何……それ」
「実現すれば、わたくしは此乃を失わずに済むことができる。学園生徒のみなさまも失わずに済むことができる――永遠に少女のまま、この学園で過ごしていけるのです」
茉莉は何かを言おうとしてか口を開きかけたが、一度言葉を飲み込んだ。
「……その理論だと、三山先輩とせつなは失われてるんだけど?」
「そんなことはありませんわ。わたくしの中で、二人は生きつづけるのですから」
「……相変わらず、頭イカれてんじゃないの」
茉莉は軽蔑した眼差しを華乃へ向けたが、華乃は一切気にする様子はなかった。
「身勝手で、自己中だわ……アタシたちのこと、どう思ってるのよ……!?」
華乃は可憐に笑い、デスクに腰を下ろし真っ直ぐ茉莉を見つめる。
「もちろん、心の底から愛していますわ。親よりも、大人たちよりも、権力よりも……国よりも」
その発言は、誰が聞いても嘘だと疑いようがないくらいに、真面目なものだった。