わたしたちだけの文化祭(1)
〜ここまでのあらすじ〜
国立音萌学園。
ここでは国から選ばれた少女たちのみが通う特別な学園。
さらにこの学園にはもうひとつの顔があった――それは、宇宙から飛来してきていると考えられている、地球に危害を加える『ソラビト』から国を守るための防衛施設。
少女たちはそれぞれ所属する『部』の役割を担い、ソラビトから日々国民を守っていた。
――そう信じていた日々だったが、それは偽りだった。
ソラビトの正体は、異能使いの成れの果て。
生徒会はその事実を知りながらも、ある目的のために国に従っていた。
そんな中、ヴッフェとゲハイムニスの襲来により学園は危機に晒される。
「異能使いは全員死ぬべき」
そう考えるヴッフェだったが、学園側は真っ向否定。無事ヴッフェたちに打ち勝ち、学園は再び平穏を取り戻し始めていた――。
ヴッフェ襲来から数ヶ月。
この間ソラビト警報が鳴り響くことはなく、学園生徒は校内の修繕や片づけなどをして過ごし、元通りとはいわないものの、日常を過ごせるほどまでには回復し、平和的に過ごしていた。
結局かつていた教師たちは戻ることなく、生徒だけとなった生活だったが、それでも勉学を怠けることはしなかった。
生徒会長である華乃が率先して教壇に立ち、学年で隔てることはなく、ひとつの教室で学園生徒全員と学ぶ機会を確立させたのだ。
せつなはそんな異常な事態に、最初こそ不安を抱いていたが、次第にこの状況に慣れてきてしまっていた。
むしろ、今は少し楽しいとさえ思っている。
襲撃後については、せつなたちは深く話を聞かされることはなかった。
会長から言われたことはただひとつ。
――『安心してわたくしについてきてください。いかなる状況であっても、どんな形になろうとも、わたくしはあなたたちを見捨てません』。
せつなはただその言葉を信じた。
ほかの生徒も、せつなと同じような反応を見せていた。
あの事態を収めたのはほかならぬ生徒会長である以上、その言葉に反発する必要がないと、せつなを含め、みな心の中で思っていたのかもしれない。
そんな中、せつなにはひとつ気がかりが残っていた――茉莉のことだ。
前回の襲撃の犯人は茉莉の姉、明莉だった。茉莉はそんな明莉と決別し、明莉はその後会長に敗北し、逃げ帰ったと話は聞いている。
茉莉へ話しかければいつもの調子で話してくれるのだが、時折茉莉の見せる寂しげな顔に、せつなは毎回胸が痛んでいた。しかし、だからといってせつな自身は何もしてあげることもできず、そんな茉莉を見過ごすばかりで不甲斐なさを一方的に感じる日々が続いていた。
◇
そんなある日、学園生徒たちは生徒会に呼ばれ講堂に集合していた。
「生徒会が呼び出すって、なんの話しだろう?」
「また怖いことが起きるとかだったら嫌ですよね……」
せつなとくるるはコソコソと話をしていると、壇上に華乃が現れた。
華乃は生徒たちを一瞥してから、背筋を伸ばし話しはじめる。
「みなさま、先日は大変な任務を遂行してくださり、ご苦労さまでございました。みなさまのおかげでこの学園は守られ、ここにいる愛しい生徒たちを誰ひとり失うことなくここまで来ることができました。そこでわたくし、ひとつ労いの行事を開催しようと思いますの」
せつなは「行事?」と、華乃の次の言葉を待つ。
「わたくしはこの度――学園において初の、文化祭を開催することを決定いたしました」
――『文化祭』。せつなはその言葉を聞いて、期待に胸が膨らむのだった。