表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】異能部へようこそっ!  作者: みおゆ
第8話・量産型少女――コピー・ガール――
85/110

量産型少女――コピー・ガール――(20)

 ――ヴァッフェが襲来してから、荒れていた事態はようやく収束した。


 学園は損壊し、被害は酷いものだったが、今回の件で命を落とす者はでなかった。


 現在、保健部は異能を酷使し、疲弊しきった異能部ときんぎょ、茉莉(まつり)の処置にあたっており、学園給養部は、食堂である自身らの部室へ行き、被害の再確認と片づけを行っている。


 残ったメンバーであるソラビト兼対策司令部に武具製作部、ヨヨは、ほかに危険物がないかの確認作業や荒れてしまったフロアの封鎖業務など、分担して作業に当たっていた。


 そして生徒会会長である華乃(かの)は、閉め切られた生徒会室にて、一人デスクに腰掛けていた。


 華乃はそっと自身の右肩に手を置く。保健部に応急処置を施してもらったが、ヴァッフェにやられた唯一の傷は、まだそこに残ったままだ。


尾張(おわり)さんの異能(ちから)があれば……きっとこの傷も一瞬で治してしまうのに」


 華乃はひとり呟いてから、デスクの上にスカートのポケットにしまっていたフラウドストーン二つを取り出し、置いた。


 黒く輝く宝石と、赤く輝くフラウドストーン。


「……ふふ。やっと手にしましたわ」


 華乃は黒いフラウドストーンから手に取り、楽しげにお菓子でも食べるかのようにそれを口に入れた。


「……相変わらず無味、ですわね」


 それからもう一つ、赤いフラウドストーンも手に取り口へ運ぼうとしたとき、華乃のスカートのポケットが震え出した。


 華乃はポケットからスマホを取り出す――どうやら着信があったらしい。華乃は少しだけ眉を顰め、電話に出た。


「……ごきげんよう、お父様。今回もわたくしを殺せませんでしたね」


 華乃はクスクスと笑う。どうやら電話の相手は父親のようだ。


「ああ、なんて可哀想なお父様。ほんの気まぐれでわたくしたち()()()()()を引き取らなければ――と、今も後悔していることでしょう」


 華乃は目を瞑り、なお電話越しの父へ語りかけつづける。


「お父様、一体どこへ行かれましたの? いつもいるお家には最近いらっしゃらないようですわね。わたくしに頭を潰されると思って、わたくしの知らない場所へ逃げ回っているのね……まあ、その疑いは正しいですけれど」


 華乃は目を開け、またクスクスと笑い声を立てた。


「先生方を逃がし、ヴァッフェとゲハイムニスを島へ派遣させ、完全に学園生徒だけの状態にしてから、わたくしたちを消そうとするなんて……いくらなんでも酷すぎますわ。最後なんて、ソラビトまで島へ送り込むんですもの。


「不味い状況になったら事実を隠そうとするなんて――お父様の悪い癖が出ましたわね。


「――いいですか? ……今後わたくしたちに手を出さないでくださいませ。ただし、ライフラインの提供と食料、物資の仕送りは止めないでいただきたいですわ。


「だって、わたくしたちまだいたいけな中学生なんですもの。自分たちだけでは何もしきれないの……生きていくために必要な面倒は大人たちに見てもらわないと……ね?


「もし、それを反故にするというのなら、そうですわね……ランダムに国民一人一人の頭を、わたくしの異能で潰していきます」


 ――それは、決して冗談を言っているような声音ではない。


「――異能使いの暴走。あなたは異能使いを管理しきれなかったとして、多くの人々に責められ、吊るし上げられ、国中は大混乱に陥るでしょう。そして、多くの国民が国から出ていってしまうかしら? ただでさえ、今も人が減りつづけているというのに。


「……はい、では交渉成立ですわね。


「そういえば、お父様は今後どうされるの? まだ、少女(わたくしたち)たちの異能を利用しようと考えているのかしら……。お父様は、そんなに他国と争いがしたいのですか?


「わたくしは、やはりそれは賛成ではありませんわね。国家の実験のことも正直よろしく思いませんが、此乃(この)が生き残れる方法が見つかるかもしれないのならそれもしかたないと、フラウドストーンの提供も協力してきました。


「……でも、結局あなた方は少女をソラビト化させる薬だけを生み出して、わたくしの望むものは作り出せなかった。手っ取り早くソラビト化させて、使い捨ての兵器を生み出すことしかできなかった。ヴァッフェやゲハムニスという存在まで創り出したのに――それは自分たちの都合が悪くなったからと、あんなに有力な子たちを潰した。わたくしだったら、そんなことはしませんわ……あんなに有能な子たち、見捨てたりするわけがありません」


 華乃はそう言って、赤いフラウドストーンも口へ入れた。


「……? ああ、はい。ヴァッフェとゲハイムニスのフラウドストーンはわたくしがいただきました。これで、わたくしはコピーの能力と銃の能力も手に入れたことになります。あとは一刻も早く、わたくしたち異能使いが生き延びる力を手に入れないと……。


「――もちろん、尾張(おわり)せつなさんの異能(ちから)のことですわ。


「早く彼女の異能力を引き出し、手にしないと……もう残りの時間も少ない。


「……ええ。だから邪魔しないでくださいまし。あなた方だって、わたくしがソラビト化したら困るでしょう? きっと誰も、わたくしの暴走を止められない。国だけじゃなく、世界中の人たちを殺しかねない……学園生徒の皆様なんて、きっと一瞬で殺してしまう。


「尾張さんだけが救いなのです。『時間』さえ手に入れられれば、事は平和に進みます。争いがなくなり、優秀な存在だけが残り、また一から世界は繁栄していくです。


「……え? それ以外の存在はどうなるかって? ……そんなのどうでもいいことですわ。あなたたちだって今まで、異能力を持たないただの一般の、寄せ集めの孤児で実験を繰り返してきたじゃありませんか。同じことですわ。弱者は強者に飲まれる――それだけのことなのです。這い上がれない者は、脱落していくだけ。


「お父様が教えてくれたことですわよ。


「わたくしはそんな弱者にならずに、強者になってみせた。力を求め、手に入れてきた。もう誰にも邪魔はさせませんわ。


「……もう誰も、失わない世界を作るのです。


「――あと一人を最後に、もう……ね」


 華乃はそう話しを終えると、静かに電話を切った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ