量産型少女――コピー・ガール――(19)
「……? なんか遠くで光りませんでした?」
せつなは海岸へ向かう途中、ふと振り向きざまに校庭の方角を見ながらそう言った。
「気のせいでしょ。それよりも、今はソラビトに集中よ。……まったく、今日は散々だわ……わたし、正直もうかなりキツいわよ」
「ボクも本音をいうと、もう喉ガラガラ……あんまり意識してないけど、異能って使うたびに身体を酷使してるんだよねぇ」
林檎と亜仁は疲れ気味の様子。二人はあんまり長期戦には不向きな異能なのだろう。
「そういえば、部長は大丈夫なんですか? なんだか顔色があんまりよくない気がして……」
亜仁は奈子の顔を覗き込みながら、そんな心配の声をかけた。奈子は亜仁を見やり、微笑む。
「大丈夫。わたしもこんなに連続して異能を使うなんてことなかったから……少々疲れているだけさ」
その笑顔は、少し無理して作られているように思えた。
奈子は三人が自分を気にかけはじめたことを察したのだろう。「さあ、そんなことよりも!」と場を切り替えるように大声を上げた。
「最後にソラビト大討伐を乗り切ろう! これが終われば――今回の任務はひと段落だ! ヴァッフェの件は、きっと会長が事を収めてくれるだろうからね」
「了解」と三人は声を揃えて返答。それからせつなは、少し先を走る茉莉の背中を見た。
おそらく、この一大事の中、最もショックを受けているのは茉莉だろう。
せつなは、茉莉とその姉である明莉との関係はよく知らない――茉莉に姉がいることさえ、今日まで知らなかったくらいだ。
自分はなんて声をかけてあげたらよいのだろうと、同じクラスメイトとして、友人として、何もしてあげられない不甲斐なさを抱いていた。
「――せつな」
そんなせつなの心境を見透かしたようなタイミングで、茉莉は背を向けたまま言う。
「アタシのことは気にしなくていい。全力でソラビトを片づけにいくわよ」
せつなは頷き、前を向いた。そうだ、クヨクヨしている場合ではないと。
海岸へ辿り着いた一同は、迫り来るソラビトを一望する。
「こんなにたくさん……」
せつなは今まで目の当たりにしたことのない数に身体を震わす。
『――こちら司令部! 異能部、聞こえる?』
ちょうどそのとき、ソラビト対策兼司令部の乃木羽から通信が入る。
『幸いなことに部室の機材は動いているわ……! 確認できるソラビトはあなたたちの目の前にいる五体だけ。ほかに近づいているソラビトはいないから、ここを踏ん張れば事態は収束するわ――あと少しだけ、がんばって!』
乃木羽のあとに続き、『みなさま、よろしくお願いします』、『異能部! 生徒会! フレーフレーであります!』と、咲と此乃の声援を受け、一同の気がより引き締まる。
きんぎょは一歩前に出て、テディベアを背から降ろし、テディベアは地に足をつけるや両手から刃物を剥き出した。
「それじゃ、右側にいる小ぶり二体は林檎っちと亜仁まる二人で対処、真ん中のデカい一体はせっつーとまつりんでお願い。残り二体はきんぎょと奈子っちで片づけるから」
きんぎょは奈子を見つめ、釘を刺すように言う。
「奈子っちはできる限り異能は使わないで――体力が限界に近いんだから。基本、きんぎょに任せる形ぜんぜんオッケーだからさ」
奈子は納得のいかない表情をしていたが、渋々「……了解」と返事した。
きんぎょは全員が指示に把握したのを確認し、再びソラビトを見上げ、構える。
「じゃあ〜みんな、位置について〜……よーい、ドン〜」
スタートの合図のわりには気の抜けた声だったが、一同はそれぞれきんぎょの指示の元動き出した。
林檎は無理矢理足を立たせ、弓を引き。
亜仁は枯れる声を振り絞り攻撃を飛ばし。
せつなは瞬間移動を重ね、相手の懐に忍び込み鎌を振るい。
茉莉が弱点に向けてその手を突きつけて。
きんぎょは横目で後輩たちの動きを見守りながら、自分も目の前のソラビトへ斬りこんでいく。
「奈子っち! あとはソラビトにトドメ、お願い!」
「了解!」
奈子はきんぎょの手によって、仰向けに倒れ動けなくなったソラビトの身体の上に飛び乗り、その弱点に剣を突き刺す。
「ヒャァァァァァ!!」
響く、ソラビトの悲鳴。
これまでなんども聞いてきた、奴が消え入るときの声。
「……あれ?」
奈子は倒したソラビトからフラウドストーンを回収しつつ、自分の頬に手を当てた。
「なんでわたし、急に涙なんか……」
奈子の瞳からは、一筋の涙が伝っていた。
奈子はすぐに涙を拭い、次のソラビトへトドメを刺しに動くのだった。