量産型少女――コピー・ガール――(18)
音の元を辿れば――茂みからクロスボウを構えた鉄子が顔を出していた。
「地下室に引きこもるたった一人の武具製作部のことなんて、お前忘れてただろ」
ヴァッフェの首筋には、一本の注射器のようなものが突き刺さられていた。
「何……を、やったの?」
ヴァッフェは問う。
華乃はニコリと微笑み、答える。
「わたくし、あなたの異能はとても素晴らしいと思っていますのよ――そりゃあ、食べちゃいたいくらいに」
ヴァッフェの力が緩む。華乃はその瞬間を逃さずヴァッフェを押し退け、立ち上がり、スカートを払いつつ、折り目を正し、制服を整えた。
華乃は膝立ちのまま呆然とするヴァッフェから数メートル距離を取り、再び彼女と対峙する。
「唐栗さんに即興で、『活性化進行薬』を武器へ改良し、打ち込んでもらいました」
ヴァッフェはゆっくりと視線を動かし、鉄子のほうを見た――それから、一瞬だけフッと柔らかい笑みを浮かべる。
その笑みの理由はわからない。ただいえるのは、どこか安心感を抱いたような笑みだった。
ヴァッフェは再び華乃を睨みつけながら、ヨロヨロと覚束ない足で立ち上がり、首元に刺された注射器を抜き取り捨てる。
「こんなの、わたしにやったって意味ないわよ。だってもうわたし、とっくに兵器にさせられてしまったのよ?」
「それは結果を見ないことにはわかりませんわ」
ヴァッフェは「何を根拠にそんな――」と言いかけて、突然咳き込んだ。ヴァッフェの手のひらにな赤いものがついていた――喀血したのだと、ヴァッフェもすぐ理解したようで目を丸くする。
さらにヴァッフェは身体の力が抜けていったのか膝から崩れ落ち、手足の先から肌が鱗のように割れ、剥がれ落ちていく。
鉄子は固唾を飲んでその様子を見守り、華乃はワクワクとこの状況を楽しむかのように、ヴァッフェの変化を見つめていた。
ヴァッフェの身体は足元からみるみるうちに崩れていく。最終的に唯一原型を留めたその顔は、最後に絶望の表情を浮かべるわけではなく――穏やかに微笑んでいた。
「ああ、なんだわたし……まだちゃんと、少女だったんだ」
直後、ヴァッフェの身体が発光し、一帯の視界が奪われる――次に辺りを視認できるようになったとき、華乃の前には、何十本もの手足を生やし巨大な尾を生やした、まるでトカゲのような風貌の巨大なソラビトが出現していた。
鉄子は唖然とし、ヴァッフェだったソラビトを見上げていた。
一方華乃は、ごちそうを前にした子供のように、無邪気に舌なめずりをした。
「あら、これは食べる甲斐のあるソラビトですわね」
言って、華乃は両手を合わせた。
「いただきます」
刹那、ソラビトの頭は縦に潰れ、消失した。
身体を支えることができなくなったソラビトは、そのまま後方へ倒れていく。
「……こんなアッサリ終わっちまうなんて」
鉄子はその有様を眺めながら、一人悔しげに呟く。
「……あんまりにも、あんまりだ」