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【完結済】異能部へようこそっ!  作者: みおゆ
第8話・量産型少女――コピー・ガール――
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量産型少女――コピー・ガール――(17)

 事態は急転し、今や華乃(かの)とヴァッフェだけが残ったこの校庭。


「……さすが音萌(おともえ)学園の生徒。あの一度だけの指示で、みんなテキパキ動いちゃうんだから」

「わたくしの自慢の生徒たちですから。……それはそうと、あのソラビトの大群はあなたが差し向けたものなのかしら?」


 二人は互いの出方を伺い合う緊張感の中、会話を交わしていく。


「さあ、知らないわ。まあおおよそ、わたしたちに消えてほしいと願うどこかの誰かさんが、この島にソラビト(兵器)を送り込んでいるんでしょ」

「自分たちは安全な場所で、確実にわたくしたちを根絶やしにしようと、そういう魂胆ですか。腹が立ちますわね。ところで、あなたもこの島にいるのだけれど、もしあなたもソラビトの被害にあったらどうするのかしら? せっかくの貴重な兵器実験の成功例なのに」


「さあ? まあ大方、少女のまま兵器にさせたことは不都合だったと思い知ったんでしょうね。勝手に雷門で暴れた前科があるし。カナメ……ゲハイムニスのような兵器は、一体失おうとまた作れるみたいだし。お金はめちゃくちゃかかるらしいけど」

「お金の心配なんて、あの人たちはいらないわ。腐るほど蓄えているんですから」


 ヴァッフェは動かない。いや、動けないのか――華乃の異能の前では、迂闊な一歩も命取りだろうから。


「でも、あなたもかわいそうに。あなた、お偉いさんの娘なんでしょう? 父に殺されそうな気分はどう?」

「うふふ、それがなんとも思いませんの。わたくしにとって、父とは互いに利用し、利用される関係なだけであって、それ以上は興味がないからかしら?」


 華乃は笑みを浮かべつづけている。この状況の中、むしろ会話を楽しんでいるようだった――いつだって、一瞬のうちにヴァッフェを殺せる……そんな余裕が態度に現れているのだといえよう。


「……あっそう」

「わたくしの家族は此乃(この)だけで十分。親の存在なんて――至極どうでもいい」


 その言葉に、嘘など微塵も感じられない。


「さて、そろそろおしゃべりのこのへんにいたしましょう。迫り来るソラビトのこともありますし……ね」


 華乃は右の手のひらを掲げ、ヴァッフェを一瞥する。


 華乃が本格的に戦闘態勢に入ったことで、場の緊迫感が一気に増す。


 ヴァッフェの額には、薄らと冷や汗が伝っていた。


「あら、そんなに身構えないで。わたくしだって無闇にあなたを傷つけたくないのよ――まずはひとつ、わたくしの話を聞いてくれないかしら?」


 ヴァッフェは腰を低く落とし、臨戦の姿勢を崩すことはない。

 華乃は構わず、自分の話を進めていく。


「わたくしからひとつ提案がありますの。あなた、わたくし側につくのはどうかしら? その際限なく物体をコピーする能力――わたくし、素晴らしいと思いますの」


 華乃は話しながら、持っているフラウドストーンをヴァッフェへと見せつける。


「もし、わたくしの考えに賛同してくれるのなら、ゲハイムニスのフラウドストーン()は返してあげましょう」


 ヴァッフェの額に青筋が浮かび上がる。

 誰が見ても、ヴァッフェが怒りの頂点に達したという事実は明らかだった。


「カナメの命を脅しに使うなんて……そんなことをしても、わたしは考えを改める気はないぞ!」


 そう言うヴァッフェの手は、怒りかそれとも戸惑いか、小刻みに震えていた。


 華乃はそんなヴァッフェの動揺を見逃さない。


「あなた、そう言いつつ悩んでいるのではないかしら? 大切な友の命を取るか、自分の思想を貫くか」


 図星か、ヴァッフェの瞳孔が一瞬にして開き切る。


 刹那、ヴァッフェはずっと懐に忍ばせていたのだろう――服の下から銃を取り出し、華乃へ向け、予備動作もなく突然発砲した。


 華乃は一瞬ふらつく。華乃の右肩に、じんわりと赤い血が滲み出した。どうなら弾丸は華乃の肩を通過していったようだ。


 華乃は痛みに顔を歪める――のではなく、不気味にも口角を上げて見せた。


「驚きました。まさか銃まで隠し持っていたとは」

「……っ」

「ただ、狙う位置が悪かったですわね。これでは致命傷にもならない」


 華乃は右の手のひらを握り締めた。瞬間、ヴァッフェの持っていた銃の先は突如として潰れ、ヴァッフェは反射的に銃を手放してしまう。


 地面へ落ちた銃は、原型を留めないほどにコンパクトに丸まり、徹底的に使えないまでになってしまった。


「さあ、もう一度問います。ゲハイムニスの命と、無謀にもわたくしに盾つき死ぬ未来、どちらを選びますか?」


 ヴァッフェは華乃と華乃の持つフラウドストーンを交互に見やり、瞳を忙しなく動かしていた。


 やがて心が決まったか……ヴァッフェはこう答える。


「……カナメも、わたしの考えに賛同してた。だから、今更カナメにまた生きてほしいなんて、わたしは言わない!」


 ヴァッフェは高らかに叫ぶ。


「一人残らず殺してやる! 異能なんてなくなればいい! みんな! みんないなくなればいい!」


 華乃は再度右手で握り潰す動作をした。だが、ヴァッフェはその場から瞬時に動き、華乃の攻撃を逃れる。


 華乃はヴァッフェにダメージを入れようと、次々に『対象を圧縮し潰す』という、目に見えない攻撃を繰り出していくが、ヴァッフェは素早く動き回り回避を重ね、華乃との距離を縮めていく。


 ヴァッフェは覚醒状態に入っていた。ヴァッフェはただ華乃だけを見据え、ついに華乃のその細い首元に両手をかけたのだ。


「見事ですわね」


 華乃は淡々とヴァッフェを称えた。


「よくもまあそんな余裕でいられるね。忘れたの? あなたは自分以外の人たちをこの場から追いやったのよ? 今ここにはあなたとわたししかいないの。このままわたしの頭を潰す? それでもわたしはこの手を解かないわよ? その骨を折るまで――わたしは、死んでも力を込めつづけるから」


 ヴァッフェの手に力が篭もり、華乃の首が徐々に圧迫されていく。


「あな……た、間違えて、ますわ」


 首を締められているせいで華乃の喋りは絶え絶えだったが、その表情に苦しみの色は一切ない。


「一人、まだいますわよ? わたくしの……大事な生徒が」

「はぁ? だって、あなたさっきあの場にいた全員に……」



「――全員じゃない。オレは何も言われず、ずっとここにいる」


 遠くから割り込んできた、一人の声。


 刹那、パン、という何か弾けた音が響き渡った。

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