量産型少女――コピー・ガール――(14)
――華乃がヴァッフェと対峙している一方で、こちらでもゲハイムニスとの戦闘に追われていた。
「わー! ゲハイムニスが大量発生してるであります! 異能部! 此乃たちをしっかり守るでありまーす!」
「うるさいわね! だからこうして守ってやってるんでしょうが!」
此乃と林檎が応酬を交わす中、ゲハイムニスは手を止めることなく、この場にいる一同の息の根を止めにかかろうとしていた。
そんな中、異能部である林檎、亜仁はソラビト対策兼司令部を護衛する形でゲハイムニスの殲滅に取りかかっている最中であった。
「はぁ〜……イライラする! コイツら、ずっと追いかけてくるんだもの!」
「でも、だいぶ数は減らせたよねぇ。あと目の前の三体倒せたら、やっとボクらも落ち着けそうだよぉ」
亜仁はスゥと深く息を吸う。温和な瞳の色が変わり、ゲハイムニスを鋭く睨みつける。
「――〈圧縮〉!」
亜仁の発した直後、ガコンと缶を凹ましたような歪な音を立てて、三体のゲハイムニスの頭が潰れた。
ゲハイムニスたちは一瞬ふらつくが、しかしすぐに体勢を持ち直し、銃を構える。
「――〈止まれ〉!」
亜仁は続けて異能を繰り出したが、ゲハイムニスの動きは止まらない。
林檎は「みんな、一歩下がって!」と指示し、素早く前に出てるや、矢を取り出し弓を引いた。
放たれた矢はゲハイムニスの足元に着地し、瞬間、爆発を巻き起こす。
「ひゃあ!」
みな、無事に爆発に巻き込まれずに済んだが、此乃だけは爆風に身を仰け反らせていた。咲はそんな此乃を守るように、すかさず自分の腕の中へ収めていた。
「……相変わらず亜仁は命中率、林檎は威力のコントロール力が難点ね」
ゲハイムニスが消え去り、落ち着いたところを見計らって乃木羽は二人をそう評価した。
林檎はムッとした表情を浮かべつつも、緊張の糸が切れたのかふらっと倒れかけ――慌てて亜仁が林檎を支えた。
「ああ、あと林檎は燃費が悪いことも難点ね……」
「乃木羽先輩……今はそんな異能の分析なんていいでしょ……」
普段はもっと声を張り上げ言い返している林檎だが、今ばかりは体力が足りず力なかった。
「……ふぅ。とりあえずひと安心なのであります。異能部、褒めて遣わすであります!」
「此乃、ちゃんとお礼言いなさい」
「……か、感謝するであります」
此乃と咲のそんなやり取りを経て、乃木羽は言う。
「さぁ、あとは急いでせつなたちの元へ向かうわよ。もう林檎も亜仁も異能を使えるほど体力はない……今ゲハイムニスと出会おうものなら、ここにいるみんな全滅よ」
「わたしたち、まったく戦えませんからね」
「体力はからっきしであります……」
そんなとき、遠くから向かいから走ってくる五人の姿が。
「おーい! ウチらやでー!」
――それは、学園給養部と保健部のみなだった。
「米来にみんな! 無事だったのね!」
林檎は言うと、米来は自慢げに胸を張った。一方、歩煎は「ぼ……ボク、頑張った……だから助けて……」と、途端に林檎に縋りついた。
林檎はくっついてくる歩煎を放置し、異能部副部長らしく、「現在の状況は?」と問うた。
「こっちのほうはひととおりゲハイムニスは殲滅したわ――っていっても、最後は会長が助けてくれた形だけど」
「会長の助けがなかったら、わたしたち撃たれて死んでいたわねぇ♡」
「副部長〜軽々しく言ってますけど、わたし、本当に寿命縮みましたよぉ〜……」
輪香、癒月、くるるが次々と報告し、林檎の隣で話を聞いていた亜仁は、「大ピンチだったんだねぇ……」と呟き、とりあえずみなが無事なことに胸を撫で下ろした。
「んで、そっちはどうなん?」
「米来先輩に言われずとも、こちらの処理も完璧なのであります!」
「なんで特に何もしていないあなたが率先して得意げに答えるのですか……」
此乃のマイペースさに、咲はやれやれと頭を振っていた。
「さあ、お互い状況把握ができたなら次へ移動するわよ。わたしたちにはお喋りしている時間なんて今はないんだから」
みなが集まったことにより気が緩んだ空気をまた締め直すように、乃木羽は手を叩いてそう言った。
「予定通り、ゲハイムニスをすべて殲滅したわたしたちはせつなたちのいるほうへ移動するわ。次はみんなでこの惨事を起こした張本人である、〈量産型少女〉を追い詰めるのよ」
一同は「了解」と口を揃えて返答した。
それから此乃は「あ、聞きたいのでありますが」とかわいらしく右手を上げ、こう質問する。
「〈量産型少女〉のところへ行くにしても、どこにいるのかワケワカメであります……」
「それは大丈夫よ。あなたのお姉さんが、すべて指示を出してくれるんだから」
乃木羽が答えた瞬間、歩煎の身体が何かに反応し、震える。耳元を押さえたところを見るに、ちょうどよく華乃から通信が入ったのだろう。
「わ……お疲れ様です、会長……」
「みなさま、ゲハイムニスの殲滅、大変ご苦労さまですわ。あとは最終段階です、校庭に集合してください。わたくしもすぐに向かいますわ」
華乃はそう言い残し、通信は切れた。
歩煎はみなを見て、「こ……校庭へ集合……だって」と伝えると、みなの顔は一層引き締まった。
「校庭って、学園から少し離れた広場みたいな場所ですよね?」
「そうよぉ♡ 体育の授業でたまぁにしか使わないから、あんまりわたしたちも行かないところ♡」
次へ行く場所が決まった一同は、校庭へと移動しはじめた。
道中、此乃はこんなことを口にする。
「此乃、わからないであります。どうして、学園は襲われたでありますか。どうして、先生たちはいなくなったでありますか。……お姉ちゃんは、一体何を見ているのでありますか?」
それに対して、乃木羽と咲は黙り込んだ。対して米来は、「確かにようわからんよなー」と此乃に同調した。
「わたしたち……相手の目的もわからないまま、ただ戦っていますよね」
「そうね。でも相手は、わたしたちを殺そうとしてきているのよ、ロクなやつじゃないわ!」
「困ったものねぇ……」
保健部の三人も、口々とそんなことを話した。
歩煎は不安な表情を浮かべながら、乃木羽に向かってこう問いかける。
「よくわからない……けど、ボクたちは、会長の指示どおりにしていれば問題ない……よね?」
乃木羽は一瞬口を噤んだが、優しく微笑みを浮かべ答える。
「ええ。会長に着いていけば問題ないわ。わたしたちが生き残ることを、今は考えましょう」
咲も頷き、乃木羽の意見に賛同していた。歩煎はそれを聞き、少し安心したようだ。
しかし此乃だけは、未だ腑に落ちないといった表情を浮かべていたのだった。