量産型少女――コピー・ガール――(12)
「「部長!!」」
輪香のピンチに、癒月とくるるの叫びが共鳴した。
輪香はナイフの気配を感じつつ、だが為す術なくこのまま刺される覚悟を決めたが――ガキン、という重い、金属が擦れるような音が鳴り響き、次いで、
「……ッ、あぁ!!」
――という、ヴァッフェの悲痛の声がした。
ヴァッフェを見れば、ナイフはありえない角度に折り畳まれており、ナイフを握っていたであろう右手は見るに堪えないほどに潰れていた。
「ありがとうございます、会長」
輪香は感謝を口にし、ヴァッフェへ立ち向かう。
華乃がもたらしたくれた、一瞬の隙。
輪香は逃すまいと、トンファーでヴァッフェの後頭部を狙い、打撃を加えた。
「――っ……」
ヴァッフェはバランスを崩し、うつ伏せに倒れ込む。
「…………」
「後頭部の奥にね、小脳ってのがあるのよ。身体の動きを担っている器官なの」
輪香は動けなくなったヴァッフェにそう説明し、ヴァッフェの顔を覗き込む。
「……詳しいね……もしかしてアンタ、保健部?」
「……え、えぇ。悪いけど、お喋りに付き合う気はないわ。あなたには会長の元へ来てもらうから」
「わかった。だけど、会長の元へ行く必要はない。わたしはもうすでに、会長の元へいるからね」
「それってどういう――」
輪香は言いかけて、息を飲んだ。目の前のヴァッフェの身体は原型を崩し、砂状に変化していったからだ。
「――あとは任せたよ、お前たち」
ヴァッフェはそう言い残し、消失した。
「……こ、この人も偽物だったってことですか……?」
「自分自身までコピーできるってアリかいな!?」
「そ、そんなことより、ヤバいって!」
歩煎はくるるの肩を掴み、周辺を見るよう促した。
ほかのみなも辺りを見回し、戦慄する。
「これ……絶体絶命ってやっちゃな」
米来がそういうのも頷ける――一同は、すっかり複数のゲハイムニスらに取り囲まれてしまっていたのだ。
すべてヴァッフェの異能によるコピー品だろう。
「やられたわねぇ。もしかしてさっきの子は、この状況に追い込むための囮だったのかしらぁ?」
ゲハイムニスは一斉に銃を向けた。
逃げられやしない、この状況。
「――と、とりまみんな、ボクのとこに集まって!」
歩煎に集合をかけられ、みなは歩煎を中心に身体を寄せ合った。
歩煎は巨大化した鍋の蓋をゲハイムニスへ投げつけるように捨て、次に、被っていた鍋の本体を手に取る。
「これで、なんとか……っ!」
歩煎は目を瞑り、鍋を掴む手に力を込めた。次の瞬間、鍋は一瞬で歩煎たちを覆い被せるほどに大きくなり、彼女らを守る防弾の箱と化したのだ。
放たれる銃弾。
鍋に着弾するたび、恐怖の輪唱が続く。
鍋の内側には、着弾の痕が無数に浮かび上がっていく。なんとか持ち堪えている状態だが、この壁も長くは持たなそうだ。
銃弾の雨に身を縮こませながら、歩煎は呟く。
「うぅ……だ、誰でもいいから早く助けに来てぇ……」
みなは身体を寄せ合い、運命が好転することを願うだけだった。