表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】異能部へようこそっ!  作者: みおゆ
第8話・量産型少女――コピー・ガール――
76/110

量産型少女――コピー・ガール――(11)

「『――〈量産型少女(コピー・ガール)〉とゲハイムニスは生け捕りなさい。これは、生徒会長命令です』」


「イヒヒッ……! タコ部長、こんなときに何やってるンスか。似てないし、面白すぎッスって、顔!」


 学園敷地内の森の中、給養部二人の笑い声が響く。米来(まいらい)華乃(かの)のモノマネをし、歩煎(ほせ)は珍しくそんな米来を咎めることなく、面白がっていた。


「ちょっと! あなたたちこんな状況でなにやってるのよ! 緊張感持ちなさい、緊張感!」


 そんな二人を見ていた輪香(りんか)はたまらず注意した。歩煎はまたいつもの調子で身体を小さくし、「ひっ! ……す、すみません……」と謝るが、米来は「チッチッチッ」と、反省の色を浮かべることなく、人差し指を振る。


「こーいうときこそリラックスが大事や。ガチガチに緊張してても、上手くいかへんやろ」


 米来の言い分に、輪香は深くため息をつき頭を抱えた。


 それを見ていたくるるは「それにしても……」と話を変える。


「上手くいくでしょうか。あの二人を生け捕り……なんて。だって、ボクらは異能を持たない丸腰の状態なんですよ? ほ、歩煎先輩は異能が使えるようになったみたい……ですけれど……」


 と、くるるは横目で歩煎を見た。歩煎の心に、後輩からの頼りない視線が突き刺さる。


 癒月(ゆづき)はくるるの肩に手を置き、


「まあ、大丈夫よぉ。武具制作部から借りた護身用の武器もあるし♡」


 と励ましたが、「でも、武器の扱いなんて無理ですよぉ……」と、くるるはまた弱音を吐いていた。


「くるる、そんな弱気になってちゃダメよ。いつも異能部が外で戦ってきてくれているように、せめて、わたしたちも学園内では頑張るのよ。会長の作戦をしっかり実行しなくっちゃね」


 くるるは部長である輪香の言葉に深く頷いた。


「えと……会長は学園の屋上から全体を監視している……って感じなんですっけ。とにかく、ボクらは会長の指示どおりに動けばいいンスよね」

「せやせや。なんやそのイヤホンみたいな通信機、歩煎の分しかないんやから、聞き逃さずにちゃんとウチらにも伝えてや」

「……うぅ、わかってますって……。変にプレッシャーかけないでほしいッスよ。ったく……」


 歩煎は米来に文句を言ったときだった、歩煎の耳元にノイズが走ったのだ。

 歩煎はイヤホンに手を当て、耳を澄ます。


『こちら華乃です。みなさま、準備はよいですか?』

「はい、給養部と保健部、指定の場所で準備完了してるッス……してます」


 歩煎はこの場にいるみなに目配せし、華乃の次の言葉を待つ。


『了解ですわ。現在、本物のゲハイムニスは尾張(おわり)さんと白咲さんを追いかけ、〈量産型少女(コピー・ガール)〉は一人の状態です。今のうちに彼女を捕らえるのです』


「わ、わかり……ました」


『彼女も尾張さんたちのあとを追おうと、あなた方のほうへと走ってきています。彼女が見えましたら、墨田(すみだ)さん、まかせましたわよ』


 華乃にそう言われ、身体を震わせる歩煎。華乃は電話越しに怯える歩煎を察したか、それとも自身の『千里眼』の異能で直接歩煎の姿を確認したのかはわからないが、通信機越しに軽やかに笑うと、落ち着かせるようにこう言う。


『大丈夫です、あなたの周りには仲間がいます。それに、わたくしもこの場からサポートいたしますから』


 歩煎は「……はいぃ。が、がんばりま――」と言いかけて、目を見開いた。


 視線の先には目標である、〈量産型少女(コピー・ガール)〉――ヴァッフェがこちらへ迫ってくる姿が見えたからだ。


「き、来ちゃった!」


 歩煎は声を上げ、場にいる一同は不慣れながらに武器を構える。


「あ、相手はコピーしかできひん奴や! ウチらの力合わせれば、どうってことないで!」


 米来の鼓舞に、全員は自身を奮い立たせ立ち向かう。


「作戦どおりにいくわよ! ――癒月!」


 輪香は声を張り上げ、呼ばれた癒月は「は〜い♡」と返事し、おもむろにバズーカを撃ち放つ。弾は地面に当たり弾け、中から大量の白い煙幕が発生し、辺りの視界が一瞬で奪われる。


 図らずともこの瞬間、ヴァッフェへ煙幕の仕返しをすることとなったのだった。


「うふふ、わたしたちもなぁんにも見えないわねぇ♡」

「な、なんで副部長はそんな余裕なんですかぁ……」

「そんなことよりくるる、把握して!」


 輪香に指示され、くるるは作戦の実行に意識を戻し、目を瞑り耳を澄ます。


 くるるは僅かな脈動からメディカルチェックを得意としていた。視界を奪われた今であっても、ヴァッフェの心臓の鼓動を聞き分け、居場所を突き止めることは可能だ――というのが、華乃の理論だった。無茶だとくるるは思ったが、やるしかない。必死になって神経を鼓膜へと集中し、明莉の姿を追う。


 彼女の鼓動は――ここだ。


「米来先輩! 三メートル前にいます!」

「よっしゃ、きたぁ!」


 米来は構えていたパチンコを放つ。視界が見えないのはこちらも同じ。だが、いくら煙幕が張ったといえど、薄らと浮かび上がる人影なら捉えることができる。


 果たして、パチンコの弾はヴァッフェに当たったのか。


「残念、ハズレよ」


 煙幕はそう長く持たず、徐々に晴れてきた。


 ヴァッフェは米来の攻撃を避けており、飄々としていた。


「それはどうかいな?」


 米来の返答に眉を顰めるヴァッフェ。次の瞬間、ヴァッフェを外し地面に落ちた弾はさらに弾け飛び、四方八方へ飛散する。


「――なっ!」

「へへっ、鉄子(てつこ)はなぁ! ウチらの武器の扱いなんて信用してへんってこっちゃ! 失敗しても補えるようにしてるんやで!」


 ヴァッフェは咄嗟に木の後ろへ隠れ、身を防ぐ。多少傷はできたが、大したダメージにはなっていない。


「バカなやり方を……! そういうアンタたちもダメージを受けるじゃない!」


 そう言ったヴァッフェだったが、木の後ろから米来たちを見ると、大きなステンレス材のような盾の後ろに身を隠していた。


「ひぃぃ……う、うまくできてよかったぁ……」


 攻撃を予測していた歩煎が、鍋の蓋を巨大化させ、みなを散弾から防いだのだ。


「……『お前の分だけ武器がないから、そのへんの鍋でなんとか凌げ』って、鉄子先輩に言われたときは、さすがに殺意沸いたけど……」

「鍋の蓋も役に立つな!」


 恨み言を洩らす歩煎に対し、米来は楽しそうにそう言った。


「ハッ、多少なりとも知恵を使うようね。こっちもちょっとは真面目にやらないとダメそう」


 ヴァッフェはそう言いつつ、誰にも聞こえない小さな声で、「……しかし、一人はもう異能使いか」と呟いた。


「……よし、この調子で攻め立てて、なんとかあの子を仕留めるわよ!」


 輪香は言い、自身の武器であるトンファーを握り締める。


 ヴァッフェは米来たちを囲むように走りはじめた。スピードを上げていく彼女に、米来たちの目は追いつかない。


「……悪いね、みんな」


 ヴァッフェは死角に入り込み、ポケットに忍ばせていたナイフを手に取り、その急所を狙う。


「いずれ兵器になるあなたたちも――消さなくちゃならない」


 明莉は誰の耳にも届かない謝罪を囁いて、一人目を倒しにかかる。


「――っ!?」


 最初にナイフが選んだのは――保健部部長である、輪香の首だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ