量産型少女――コピー・ガール――(9)
「きゃあっ!」
「……何っ!?」
せつなと茉莉は爆風に押されるまま同時に声を上げたが、幸いにも怪我を追うことはなかった。なぜなら――
「……奈子お姉ちゃん!」
――目の前で爆破を起こすギリギリ手前で、奈子が二人を助けに入っていたからだ。
奈子は二人を抱え、明莉とゲハイムニスからある程度距離を取ったところで、二人を下ろした。
一方、海岸近くの崖の上では弓を構えていた林檎と猫を抱えている亜仁の姿があった。
「林檎ちゃん、ちょっと力強すぎじゃない!? これ大丈夫かなぁ……。せつなちゃんたちも巻き込んじゃってない……?」
「だ……大丈夫よ! 仮にギリギリでも、部長が助けに入ってくれてるし……」
二人はそんなやり取り交わしながら、崖上から様子を伺う。
奇襲を受けた明莉は、ゲハイムニスに守られるようにして林檎の攻撃を防いでいた。
明莉は「くそっ、どこから……」と言って片目を瞑り、瞬時に「そこか!」と叫ぶや、崖上を睨みつけた。
同時に、亜仁の抱えていた猫は激しく喚き、そのまま亜仁の頬を爪で引っ掻いた。
亜仁は「いたっ!」と痛みに怯み、一瞬力が抜けたうちに、猫はスルりと腕を抜け、地面に着地する。同時に猫は、地面に溶け込むようにして消え去ってしまう。
「……なっ!」
驚く亜仁。崖下の海岸にいる明莉は「今までお世話してくれてありがとね」と嫌味ったらしく礼を呟くと、視線をせつなたちへ戻した。
もちろん、礼など亜仁と林檎へは聞こえていない。二人は猫が消えたことに混乱していた。
崖下からそれを確認した奈子は、明莉に問う。
「あの猫……君のコピー品だったのか」
「そう。それで異能部の動向をいつも見ていたわ」
「それはいつ、どこで?」
「アンタが入学してきた時点で猫はコピー品。わたしが在学中に本物とコピー品をすり替えたの。当初は学園のこと探るために……ね」
「つまり君は、元音萌学園生徒である……と」
明莉は「そうよ、あなた方よりずっと先輩なんだから、少しは敬いなさい」と吐き捨て、茉莉を見た。
「茉莉、そこをどいて。今からせつなを殺すから」
それを聞いたせつなは身を竦めた。だが、茉莉は素早くせつなの前に出て、同じく奈子も武器を構える。
「茉莉。できればあなたを撃ちたくはないの。あなたは最後まで生かしてあげる。全員の異能使いを消したら、お姉ちゃんといっしょに逝こう?」
「嫌よっ! お姉ちゃんこそ、こんなのやめて! 異能使いを消すとか意味わかんないこと言ってないで、わたしと帰ろうよ!」
「帰る? どこに? わたしたちを売ったアイツらの家にか?」
「それは……また、別のところとか……」
「……わたしたちのような少女に帰る場所なんて、もうないのよ」
「……っ」
茉莉は言い返せない様子で一度目を逸らす。
「茉莉。あなたは知っているでしょう。これから戦争が起こることを。……いえ、今もどこかで起こっているかもしれない戦争のことを」
茉莉は答えない。
「異能使いが生まれなければ――わたしたちが存在しなければ、こんな愚かなこと起きなくて済んだのよ。兵器がなくなれば、争いごとはなくなるの。だから、全部消さなくっちゃならない。そのためにはまず、せつな――あなたを消さなくちゃ。せっかく事が進んだあとで、あなたに時間を巻き戻されちゃあ困るもの……!」
明莉の気持ちに呼応するように、ゲハイムニスは銃口を掲げる。茉莉は咄嗟に「それは違う!」と叫び、再び明莉へ視線を戻し、ハッキリとした口調で言う。
「――わたしは、お姉ちゃんの言ってることに賛同できない。せつなはわたしの友人よ! 殺させたりしない!」
せつなは「友人」と言われたことに喜びの表情を見せた。明莉のほうは、悲しそうに俯き、諦観した目をしていた。
「茉莉なら、わかってくれると思ったけど……しょうがないよね」
明莉は言うと同時に、ゲハイムニスに触れてから、その手を横に大きくスライドさせた。
次の瞬間、手の動きに合わせるようにゲハイムニスが何体も出現したのだ。本体が影分身でもしたかのように、ほんの一瞬で何十体と複製された物体が並ぶ。
これが明莉の異能――物をコピーする能力か。
考える間もなく、ゲハイムニスの郡は銃を構え出す。
「――せつな! 茉莉さん! 逃げろ!」
奈子は咄嗟に危険を察知し、風を巻き起こす。
響く銃声。奈子は風で銃弾の軌道を逸らしながら、僅かな隙間を潜り抜け、ゲハイムニスたちを倒していく。
茉莉はせつなの手を引き、せつなも奈子が気がかりでありながらも、ひとまずその場を離れることにした。
奈子はこの状況から素早く、
「林檎、亜仁は会長の作戦に従え」
と通信機を使い指示を残した。
「カナメ、せつなを頼む。それ以外のすべてはわたしに任せて」
一方、明莉も「カナメ」と、ゲハイムニスに向けてそう指示した。本物のゲハイムニスは静かに頷き、せつなへ向かって走り出した。
空気が一転し、この場の局面がガラリの変化していく。
奈子は反射的に本物のゲハイムニスを追おうとするが、偽物たちによってそれは遮られてしまった。
思わず舌打ちする奈子。
明莉は数々のゲハイムニスを四方に分散させ、そのうち一体を奈子相手に向かわせた。
「――異能使いは、死ぬべきなのよ」
そう言い放つ明莉からは、決して曲げられない信念みたいなものを感じるのだった。