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【完結済】異能部へようこそっ!  作者: みおゆ
第8話・量産型少女――コピー・ガール――
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量産型少女――コピー・ガール――(9)

「きゃあっ!」

「……何っ!?」


 せつなと茉莉(まつり)は爆風に押されるまま同時に声を上げたが、幸いにも怪我を追うことはなかった。なぜなら――


「……奈子(なこ)お姉ちゃん!」


 ――目の前で爆破を起こすギリギリ手前で、奈子が二人を助けに入っていたからだ。


 奈子は二人を抱え、明莉(あかり)とゲハイムニスからある程度距離を取ったところで、二人を下ろした。



 一方、海岸近くの崖の上では弓を構えていた林檎(りんご)と猫を抱えている亜仁(あに)の姿があった。


「林檎ちゃん、ちょっと力強すぎじゃない!? これ大丈夫かなぁ……。せつなちゃんたちも巻き込んじゃってない……?」

「だ……大丈夫よ! 仮にギリギリでも、部長が助けに入ってくれてるし……」


 二人はそんなやり取り交わしながら、崖上から様子を伺う。


 奇襲を受けた明莉は、ゲハイムニスに守られるようにして林檎の攻撃を防いでいた。


 明莉は「くそっ、どこから……」と言って片目を瞑り、瞬時に「そこか!」と叫ぶや、崖上を睨みつけた。


 同時に、亜仁の抱えていた猫は激しく喚き、そのまま亜仁の頬を爪で引っ掻いた。


 亜仁は「いたっ!」と痛みに怯み、一瞬力が抜けたうちに、猫はスルりと腕を抜け、地面に着地する。同時に猫は、地面に溶け込むようにして消え去ってしまう。


「……なっ!」


 驚く亜仁。崖下の海岸にいる明莉は「今までお世話してくれてありがとね」と嫌味ったらしく礼を呟くと、視線をせつなたちへ戻した。


 もちろん、礼など亜仁と林檎へは聞こえていない。二人は猫が消えたことに混乱していた。


 崖下からそれを確認した奈子は、明莉に問う。


「あの猫……君のコピー品だったのか」

「そう。それで異能部の動向をいつも見ていたわ」

「それはいつ、どこで?」

「アンタが入学してきた時点で猫はコピー品。わたしが在学中に本物とコピー品をすり替えたの。当初は学園のこと探るために……ね」

「つまり君は、元音萌(おともえ)学園生徒である……と」


 明莉は「そうよ、あなた方よりずっと先輩なんだから、少しは敬いなさい」と吐き捨て、茉莉を見た。


「茉莉、そこをどいて。今からせつなを殺すから」


 それを聞いたせつなは身を竦めた。だが、茉莉は素早くせつなの前に出て、同じく奈子も武器を構える。


「茉莉。できればあなたを撃ちたくはないの。あなたは最後まで生かしてあげる。全員の異能使いを消したら、お姉ちゃんといっしょに逝こう?」

「嫌よっ! お姉ちゃんこそ、こんなのやめて! 異能使いを消すとか意味わかんないこと言ってないで、わたしと帰ろうよ!」

「帰る? どこに? わたしたちを売ったアイツらの家にか?」

「それは……また、別のところとか……」

「……わたしたちのような少女に帰る場所なんて、もうないのよ」

「……っ」


 茉莉は言い返せない様子で一度目を逸らす。


「茉莉。あなたは知っているでしょう。これから戦争が起こることを。……いえ、今もどこかで起こっているかもしれない戦争のことを」


 茉莉は答えない。


「異能使いが生まれなければ――わたしたちが存在しなければ、こんな愚かなこと起きなくて済んだのよ。兵器がなくなれば、争いごとはなくなるの。だから、全部消さなくっちゃならない。そのためにはまず、せつな――あなたを消さなくちゃ。せっかく事が進んだあとで、あなたに時間を巻き戻されちゃあ困るもの……!」


 明莉の気持ちに呼応するように、ゲハイムニスは銃口を掲げる。茉莉は咄嗟に「それは違う!」と叫び、再び明莉へ視線を戻し、ハッキリとした口調で言う。


「――わたしは、お姉ちゃんの言ってることに賛同できない。せつなはわたしの友人よ! 殺させたりしない!」


 せつなは「友人」と言われたことに喜びの表情を見せた。明莉のほうは、悲しそうに俯き、諦観した目をしていた。


「茉莉なら、わかってくれると思ったけど……しょうがないよね」


 明莉は言うと同時に、ゲハイムニスに触れてから、その手を横に大きくスライドさせた。


 次の瞬間、手の動きに合わせるようにゲハイムニスが何体も出現したのだ。本体が影分身でもしたかのように、ほんの一瞬で何十体と複製された物体が並ぶ。


 これが明莉の異能――物をコピーする能力か。


 考える間もなく、ゲハイムニスの郡は銃を構え出す。


「――せつな! 茉莉さん! 逃げろ!」


 奈子は咄嗟に危険を察知し、風を巻き起こす。


 響く銃声。奈子は風で銃弾の軌道を逸らしながら、僅かな隙間を潜り抜け、ゲハイムニスたちを倒していく。


 茉莉はせつなの手を引き、せつなも奈子が気がかりでありながらも、ひとまずその場を離れることにした。


 奈子はこの状況から素早く、


「林檎、亜仁は会長の作戦に従え」


と通信機を使い指示を残した。


「カナメ、せつなを頼む。それ以外のすべてはわたしに任せて」


 一方、明莉も「カナメ」と、ゲハイムニスに向けてそう指示した。本物(オリジナル)のゲハイムニスは静かに頷き、せつなへ向かって走り出した。


 空気が一転し、この場の局面がガラリの変化していく。


 奈子は反射的に本物(オリジナル)のゲハイムニスを追おうとするが、偽物たちによってそれは遮られてしまった。


 思わず舌打ちする奈子。


 明莉は数々のゲハイムニスを四方に分散させ、そのうち一体を奈子相手に向かわせた。


「――異能使い(わたしたち)は、死ぬべきなのよ」


 そう言い放つ明莉からは、決して曲げられない信念みたいなものを感じるのだった。

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