量産型少女――コピー・ガール――(2)
「せっつー。これ、ピンチかも――ゲハイムニス、今度は学園に乗り込んできたっぽい」
場面は、教室でゲハイムニスの襲撃を確認したせつなたちへ戻る。
普段は感情を見せないきんぎょだが、今だけは表情に焦りを浮かべていた。
「き……きんぎょ、アレ……! そんな……!」
「ヨヨっち、もう気にしちゃダメ。アレはただの兵器だから」
ヨヨはきんぎょに言われ、力なく頷いた。二人の様子を見ていたせつなは、「ヨヨちゃん、どうしたの?」と、口を挟もうとするが、それはゲハイムニスの発砲により遮られてしまう。
「きゃぁぁぁ! ど、どうしましょ!?」
「落ち着きなさい、くるる! どうするもこうするも――戦うしかないわ!」
茉莉はくるるに喝を入れ、前線へと立ち上がる。
「ここはアタシが――」
「悪いけど、ここにいる誰かが一人でも死なれたりしたら、きんぎょ、はなのんに怒られちゃうからさぁ」
茉莉が戦いの意志を見せたが、きんぎょはそれを制止した。
きんぎょはせつなたちの前に立ち背負っていたテディベアを下ろす。
ただのぬいぐるみであるはずのテディベアは足を床につけた瞬間自立し、まるでそこに意思でも宿ったかのようにその場で足踏みし動き出した。
異様なその光景に、せつなは目を丸くする。
「〈人形遊戯〉――それがきんぎょの異能。詳しいことは話せないけど、とりあえずきんぎょ、戦えるからさ」
きんぎょはせつなたちへ振り返り、指示をする。
「――みんなはとにかく安全な場所へ逃げて。ふくかいちょー命令だから」
茉莉は頷き、ヨヨの手を取った。
せつなはその場をすぐに離れようとせず、きんぎよの背に向かって言う。
「副会長! わたしだって異能部です! いっしょにたたか――」
「武器もないのに何言ってんの! それに、ゲハイムニスに狙われてるせつなが前に出ちゃダメ! いいからさっさと行って!」
めずらしく声を荒らげるきんぎょに、せつなの肩が竦む。
そんなせつなの手を取り、くるるは優しく引いた。
「先輩を信じて行きましょう、せつなさん」
せつなはそのままくるるに手を引かれるまま、教室をあとにした。
せつなたち四人は廊下を走る。その間も、遠くからは銃撃の音が聞こえていた。
「そ……ソラビト警報、今回はなかったですよね。……ソラケン部の人、大丈夫でしょうか……」
「今ほかのこと心配している場合じゃないわ。とにかく自分たちの身を守ることを考えないと……」
茉莉はそこで立ち止まり、くるるにヨヨを引き渡した。
「くるる、ヨヨのことお願い。職員室に連れていけば、とりあえず先生たちが守ってくれると思うから」
「茉莉さんはどうするんですか?」
茉莉が答えようとしたとき、前方から何かが来る音が響いた。
せつなたちの前に立ちはだかったのは――ゲハイムニスだ。
「え……ど、どうして……」
くるるは怯えた眼差しをゲハイムニスへ向ける。
しかし、考える暇も与えないというように、ゲハイムニスは銃口をくるるへと向けた。
「……え」
「くるるちゃん!」
せつなはくるるの前へ行こうとしたが、それよりも早く茉莉は動き出していた。
刹那、発砲音が響く。
くるるは堪らず悲鳴を上げたが、くるるが倒れるということはなかった。
くるるは次第に目を開き、自身の身体を見つめる。そこには風穴ひとつない状態の自分の身体があった。
「あれ……?」
くるるは呟き、前を見る。目の前に自分を庇うようにして立っていたのは、茉莉だった。
「ま……茉莉さん……!」
一気に青ざめるくるる。背を向ける茉莉はそんなくるるの状況を察したのだろう。「大丈夫よ」と気丈に伝えた。
「銃弾は消したから、アタシはなんのダメージも受けてない」
くるるは「消した……?」と、すぐに理解は及ばずといった様子だったが、茉莉は構わずゲハイムニスへと突っ込んでいく。
くるるも、もちろんそばにいたせつなとヨヨも動けずに、茉莉の行動を凝視していた。
茉莉はゲハイムニスと距離を詰め、目前といったところで腕を振り上げ、銃口のついているゲハイムニスの腕に触れた。
「ギャッ!」
ゲハイムニスは声を張り上げた。茉莉が腕に触れた瞬間、触れられた部分の腕がすっかり消え去ってしまったからだ。
ゲハイムニスが怯む隙を茉莉は見逃さない。茉莉はそのまま右手でゲハイムニスの腹を突き破った。
「…………ッ!」
ポッカリと穴の空いてしまった腹からは血液ひとつと流れずに、ゲハイムニスは仰向けに倒れ込みながら身体が崩れていき、跡形もなく消えてしまった。
「……雷門のときと同じだわ。もしかして、コイツ――」
「すっ、すごいよ! 茉莉ちゃん!」
茉莉が何か言いかけたが、そのタイミングでせつなは茉莉へと抱きついていた。
「茉莉ちゃんも異能使いだったなんて! どうして言ってくれなかったの!?」
興奮冷めやらないせつなに、茉莉は安心感からか笑みをこぼしていた。
茉莉はスカートを払いながら、「別に言う必要ないもの」と言って、改めてくるるを見た。
「くるる。さっきの話だけど、ヨヨを連れて職員室へ逃げて。アタシはこの状況をなんとか食い止める!」
茉莉は言って、今度はせつなへ視線を向けた。
せつなは茉莉が何か話すよりも早く、力強く頷いて言う。
「もちろんわたしも戦うよ! 異能部として、見ているだけなんてありえない!」
茉莉は「言うと思ったわ」と、呆れ交じりに言った。
「さぁ、うかうかしていられないわ……この感じだとたぶん、ゲハイムニスの本体はどこかにいて遠くから偽物を操っている真犯人がいる。アタシたちは真犯人をなんとしてでも見つけ出して、叩くっちゃあならないわ」
茉莉はせつなの肩に手を置き、まっすぐと目を見つめた。
「せつな。ゲハイムニスの狙いはアンタなんだから、絶対に無理しちゃダメ。今度こそゲハイムニスは、アンタを確実に殺してくるはず」
茉莉の真剣な瞳に、せつなはただ頷いた。
「……いい、わかった? ――もし、死んだりしたら、殺すから」
不器用な茉莉の声掛けに、せつなは気をより一層引き締めるのだった。