新たな出会いと深まる交流(15)
ヨヨがこの学園に来てから数日経った日のこと。
学園生徒たちは講堂に集められていた。
「講堂へ来る度に、入学式のことを思い出しちゃいますね」
そう話すくるるに、せつなも笑顔で頷いた。
「あれ? そういえば茉莉ちゃんがいないね」
せつなは空いた右隣の席を見ながら言った。
「茉莉って子なら壇上の裏にでもいんだろ。ほら、アイツ生徒会だろ?」
そのとき、そう後ろから鉄子の声がかかった。
「あ、そういえばそうでした。……えへへ、なんだか生徒会って、会長と副会長だけなイメージがあって……」
「それ、茉莉さんが聞いたらほっぺを膨らませながら怒りそうですね」
せつなとくるるは小さな声で笑いあった。
「……三人とも、仲いいんだな」
ふと言われた鉄子の言葉に、せつなとくるるは不思議そうな顔で鉄子を見つめ返す。
鉄子はそんな二人の視線に気づき、笑いながら言う。
「……別に、深い意味はねぇよ。ただ見ててそう思っただけだ」
せつなとくるるは顔を見合わせたとき、ちょうど講堂の明かりが落ちて、壇上にスポットライトが当たった。
一同は壇上への注目し、会の始まりを見届ける。
舞台袖から生徒会長である華乃が現れ、演台の前につくとゆっくりと口を開く。
「ごきげんよう。今日は新しい仲間を紹介しようと思いまして、生徒集会を開きましたのよ。……といっても、もうみなさま存じ上げていると思いますけれど、形式上、この場を持ってきちんとお伝えさせていただきますわ。早速ですが、紹介いたします――」
華乃は舞台袖に視線をやった。その合図を受けてか、舞台袖から恐る恐るといった様子で、新調したての音萌学園の制服を身に纏った少女――ヨヨが登場した。
華乃の横についたヨヨは、緊張した面持ちで座席に座る生徒一同を見上げた。
「さあ、ここへ来て、自己紹介なさって」
華乃は優しく演台へと誘導する。そのままでは演台に頭が届かないヨヨは、慎重に演台手前の階段を使い頭を出し、マイクの前へと立った。
大きく息を吸い、緊張を落ち着かせてからヨヨはマイクに手をかけた。
「よ……ヨヨは、ヨヨです。今日、から……この学園に、お世話になる……なり、ます。えと……ヨヨは、異能があるけど、みんなみたいに、まだ上手に使えません。……でも! 迷惑かけないように、ちゃんと目隠しをしているので、こ、怖がらないでくれたら、うれしい、です。……よ、よろしくお願い、します!」
ヨヨは自己紹介を言い切り頭を下げた――次の瞬間、ヨヨの「あうっ!」という声と衝撃音が、マイクを通して響く。ヨヨは最後の最後で、マイクに頭をぶつけてしまったのだ。
「あらあら、かわいいわぁ〜♡」
そんなドジっぷりを見て、癒月は頬に手を当て微笑ましそうにしていた。
ヨヨの隣で自己紹介を聞いていた華乃も微笑みを浮かべてから、生徒一同を見やる。
「以上、今日から我が学園の仲間となるヨヨさんの自己紹介でしたわ。みなさま、新たな仲間を迎え入れる拍手を!」
華乃の一声を機に、講堂は温かい拍手の音に包まれた。
拍手が止むと、また華乃は話を再開する。
「今回特例での入学となりましたが、みなさま新たな後輩ができたと思って、いろいろと教えてあげてくださいね。……さて。次は彼女のつく部ですが……」
せつなは込み上げてくる気持ちを抑えながら、華乃の発表を待った。
ヨヨは異能使い。つまり、十中八九異能部への所属になるだろうと、せつなは睨んでいるのだ。
正直気が早いが、もう後輩を持ち、ヨヨと部活動をともにできることに、うれしさを感じていた。
せつなはスカートの裾を握り締め、壇上に立つ華乃を見つめた。
「――ヨヨさんを、『生徒会』に任命いたします」
「ええーーー!?」
ヨヨの所属する部が発表されると同時に、せつなの驚きの声が響き渡った。
席から立ち上がって呆然とするせつなに、奈子は慌てて近づき、席に座らせる。
「せつな! 集会中になぜ大声を……! 申し訳ありません、生徒会長! 後ほど彼女にはキツく注意しておきますので……」
「ご、ごめんなさい〜……。だけど、ヨヨちゃんは絶対異能部に入ると思ってたから……」
奈子に頭を押えられながら、せつなはそう言った。
奈子は呆れ交じりにため息をつき、壇上からせつなの様子を見ていた華乃は可憐に笑った。
「あなたの期待を裏切るようなことをして申し訳ありませんわ。だけれどね、異能部はソラビトと戦う最前線の部隊。そんな部へ、まだ小さなヨヨさんを入部させられませんもの。だから、ヨヨさんには生徒会でのお手伝いをしてもらおうと、わたくしたちのところへ任命したのですわ」
華乃の説明に、せつなも渋々ながら納得した。部活が離れ離れになる現実には、まだショックは癒えずにいたが……。
とにかく、せつなが今言うべきことはただひとつ。
「突然声を上げて、すみませんでした……」
華乃の「いいのよ」という、柔らかい許しとともに講堂には囁かな笑いが起こり、せつなの気持ちとは反対に、和んだ空気がしばらく続いたのだった。