新たな出会いと深まる交流(13)
コンクリートの壁に囲まれた、冷たく薄暗い、且つ、最低限のものしか置かれていない寂れた部屋の隅で、一人の少女が蹲っていた――見た目から、まだ十歳くらいの子供だと推定できる。
完全に閉ざされたその部屋は、内側から開くことは不可能だった。
しかしそんな中、ふいに一筋の光が差し込み、凛とした声が響き渡る。
「――異能使いには二種類いますのよ。生まれながらにして異能の力を持つ者。そして、異能の力を植え付けられ、適合できた者」
『高潔』。そんな言葉がいかにも当てはまる、金色の髪を靡かせた少女は、小さくなりテディベアを抱きしめる痩せこけた少女と同い歳のように思えたが、その振る舞いは格の違いが大いに現れていた。
「わたくしは前者、あなたは後者」
その少女は自身を指してから、次に目の前にいる痩せこけた少女を指差して言い放った。
「そうは言ったものの、そんな後者の存在は、あなたが初めてだったりするのですわ」
少女は小さく笑うと、痩せこけた少女に手を差し出しながら言う。
「――おめでとうございます。今日からあなたは、わたくしの元で暮らすのです。奴隷のような日々はおしまいですわ」
痩せこけた少女の濁りきった瞳には、ほんの少しだけ光が灯るのだった。
これこそが、音萌学園の生徒会会長となる王樹華乃と、副会長となる淡瑞きんぎょの出会いの瞬間だった。
◇
「――きんぎょは運良く、はなのんに拾われたの」
きんぎょはそう話すと、ベッドの上へと寝転がった。
「はなのん、いい人、です」
「うん、いい人。……あ、はなのんって生徒会長のことだからね。はなのんのこと呼ぶときは、『会長』って言わなきゃダメ系だから」
「わ、わかり、ました。カイチョーって、呼びます」
コクコクと首を縦に振るヨヨに対し、きんぎょは天井を見上げる。
「ここは、きんぎょを人として扱ってくれる。あすのとも園は、きんぎょたちを物としか思ってないもんね。……所詮落ちこぼれって、そんなもんなのかなぁ」
「……きんぎょも、捨てられた?」
ヨヨは俯き加減にそう尋ねた。
「気づいたらパパはいなかった。ママは知らない男を連れ込むのが趣味だった――だから、きんぎょが邪魔になって、あっこにいれられたの。提供者は割りといいお金もらえるらしいかんね」
「……そっかぁ」
ヨヨもきんぎょに倣って、ベッドの上に寝転がった。
「国家に選ばれた人たちは幸せだよ。なんにも知らない。自分が国のために選ばれた戦士だと思って、毎日胸張って生きてる。この国が平和だと思い込んで、今ものんきに生活してる国民もそう。だけど、きんぎょは違う。はなのんも、まつりんも違う――もち、ヨヨっちもっしょ」
ヨヨは小さく頷いた。
「……ヨヨは、道具でした」
「……そっか」
きんぎょは上半身を起こし、ヨヨを見た。
「フラウドストーン、持ってるらしいじゃん」
ヨヨは病衣をポケットを隠すように握った。
「それ、持っててもしょうがないと思うけど」
「…………」
「まあいいや」
きんぎょは立ち上がり、ヨヨを見下ろす。ヨヨは身体を起こして、きんぎょを見つめ返した。
「お願いなんだけど、せっつーたちには黙っててくれないかな」
「黙る……?」
「んー……いろいろと。あすのとも園のこととかさ、本当に知らないんだ。せっつーたちは何も。せっつーたちは、人類の敵であるソラビトを倒す戦士だと思っていて、この学園はそんな選ばれた戦士だけが入学できる、国家防衛施設としか思ってないんだ」
「……本当は、ここも――」
「実質変わらないよ。ただあすのとも園と違うのは、音萌学園は未来の兵士を育ててる養成施設に過ぎない。生まれながらの異能使いは、一時的なソラビトのあとかたづけ係ってところかな」
ヨヨは唇を震わせ、そして固く結んだ。
「残念だったね、ヨヨっちも。逃げてこれたと思ったら、結局結果は変わらずに、ただ前より待遇がよくなっただけなんだから」
「…………」
「って言ったけど、今は違う。ヨヨっちは運がいいよ〜」
きんぎょはヨヨの頭を優しく撫でる。それに呼応するように、ヨヨは顔を上げた。
「あのね、今、学園変わろうとしてるの。はなのんという絶対的頂点である異能の力によって、学園だけじゃなくって、国そのものが変わろうとしてる、みたいな? 異能使いが幸せになる日が――実現しようとしてるの」
「国が……変わる……?」
「うん。こんな腐った国とはおさらば。これからは、異能使いの時代になるんだ」
「カイチョー……それに、きんぎょたち、何しようと、していますか?」
きんぎょは少しだけ口角を吊り上げ、答える。
「――この国を、異能使いという選ばれた少女たちだけの、楽園にするんだよ」