新たな出会いと深まる交流(12)
きんぎょはヨヨを学生寮へと案内していた。
一階のメインロビーについて軽く説明してから、階段を使い二階へと進んでいく。
階段から一番離れた奥の部屋の前へ到着すると、きんぎょはスカートのポケットから鍵を取り出し、鍵穴へと差した。
ガチャリ、と鍵の開く音が響く。きんぎょは扉を開け、ヨヨに言う。
「ん。着いたよ。ここが今日からヨヨっちの部屋」
きんぎょはそう伝えたが、部屋の奥へと入ろうとしないヨヨ。きんぎょは、「いいよ、入りな〜」と声をかけると、ようやくヨヨはゆっくりと足を進め、部屋の中へと踏み入る。
部屋全体を見渡したヨヨは、みるみるうちに笑顔を浮かべ、「わぁ〜……!」と感嘆の声を洩らした。
「きょ、今日から、ここ、ヨヨの部屋、ですか!」
「いえ〜す。部屋にあるものは好きに使っていい系だから。じゃ、これ鍵ね〜」
きんぎょはそう言って、持っていた鍵をヨヨへ投げ渡した。一瞬慌てるヨヨだったが、なんとか鍵をキャッチし、うれしそうに握りしめた。
「失くしたら、はなのんのお説教と反省文あるから、ちゅーいね」
「……! 気をつけ、ます」
ヨヨはしっかりと確認しながら、鍵を服のポケットへとしまい込んだ。
「……ってかさ、ヨヨっちって目隠ししてるけど、どうやって見てんの? いちお、その感じだと見えてんだよね」
きんぎょの質問に、ヨヨは恥ずかしそうに答える。
「……ヨヨ、自分でもよくわかってない、です。目隠ししてても、なんとなくわかるです」
「ふーん。じゃあさ、そもそもなんで目隠ししてんの?」
「…………」
ヨヨは一瞬口を噤んだが、それでも話しはじめてくれた。
「ヨヨの目、ほかの人と違うから。ヨヨ、そのまんま誰かを見ちゃうと、ヨヨに見られた人、動かなくなっちゃう……の」
「あー……メデューサ的な? 見ると石になっちゃうやつ」
「……めでーさ、ヨヨ、知らないです。でも、ヨヨのは石に、なりません。ヨヨのは、動かなくなって……冷たくなります。氷みたいに、なっちゃいます」
「……へぇ」
「せ、先生は、三秒相手を見ればいい、言われました。三秒見れば、その人は……」
ヨヨはそこまで話すと、涙を堪えるかのように、一度強く唇と噛み締めた。
「……ヨヨ、だから見ちゃいけないんです。ヨヨのせいで、何人も冷たくなりました。もう誰も、この目で見たく、ありません……誰も……」
きんぎょはヨヨをベッドに座らせ、自身も隣に座り、ヨヨを落ち着かせるように優しく背を撫でながら、神妙な面持ちで口を開く。
「……『あすのとも園』」
「……!」
きんぎょの言葉に、ヨヨは目を見開いた。
「……ヨヨっちが逃げてきた、孤児院の名前っしょ」
「……し、知って――」
「もち。だって、きんぎょも昔、そこにいたから」
「……き、きんぎょ、も?」
「うん」
きんぎょは、振り返りたくもない遠い記憶を掘り返しつつ、視線を下に落とした。
「――きんぎょはそこで、異能使いにさせられたから」