新たな出会いと深まる交流(11)
「ちわー」
そんな気の抜けた挨拶をしながら、保健部に現れたのはきんぎょだった。
輪香は、「あら、珍しいわね。きんぎょがここへ来るなんて」と立ち上がりながら言葉を返した。
きんぎょは「まあね〜」と言いながら、部室を見渡す。
「何か探し物?」
輪香は不審がりながら聞くと、きんぎょは小さく頷いて答える。
「えっと〜、迷子の女の子。『404』って言ったっけ? その子を探しててさ〜」
「……まさか、ヨヨを元いた場所に帰そうって話じゃないわよね?」
「ヨヨ? ああ、もしかして〜『404』のことー? 帰さないよ。はなのんが学園でヨヨっち保護するから、学生寮案内しろってさ」
輪香は、そばで二人の話を聞いていた癒月と一度顔を見合せた。
「……そう。疑って悪かったわね。ヨヨなら今、せつなとくるるといっしょに学園給養部へ行ってるわ。そろそろ帰ってくるんじゃないかしら?」
輪香が答えたタイミングでちょうど、せつなたちが帰ってきた。ヨヨは見知らぬ顔であるきんぎょを見るなりギョッとし、警戒丸出し形相を浮かべた。
「ん? この子がヨヨっち?」
「ヨヨっちじゃないです。ヨヨです」
ヨヨは即座に否定したが、きんぎょはお構いなしのようで、「いいじゃん、ヨヨっちで。愛称で呼ぶと親近感湧くっしょ?」と言ってのけた。
「アイショウ……シンキンカン……」
ヨヨは難しい顔をしていたが、とりあえずきんぎょの意見を受け入れたようだ。
「わ! 副会長がこんなところにいるなんて……! こ、こんにちは!?」
「こんちゃー。ってかせっつー、緊張しすぎじゃね?」
せつなは「ごめんなさい、あんまり顔を合わせることがないので……」と苦笑いを浮かべた。
きんぎょは改めてヨヨへ視線を移す。対してヨヨは、緊張したように身体を強ばらせた。
「ふぅん……この子が迷子の女の子かぁ。……まあいいや。アンタはこれからきんぎょたちといっしょに学園で過ごすことになるから。もち、はなのんの許可の元ね。つーわけで、よろ〜」
ヨヨは学園で過ごせることを聞き、うれしそうに頬を紅潮させ、顔をほころばせた。
それを聞いたせつなとくるるも、みるみると笑みを浮かべ、
「ヨヨちゃんも学園の生徒になるの!? もしかして、異能部の仲間入り!?」
「新しく友達が増えて感激です! あ、クラスはわたしたちといっしょの一年クラスですかね!?」
と、同時にそう発した。
「ちょちー、そんな同じタイミングで喋られてもわからんし。ま、あくまで保護だから学園の生徒になるわけじゃないけど、基本的にせっつーとおんなじ行動になるんじゃね? 異能使いだし、正式な異能部所属じゃないけど、とりま異能部にいる感じになるっしょ」
きんぎょは怠そうな口調で回答したあと、輪香が「わからないと言うわりには的確に答えたわね」と呟いていた。
せつなとくるる、そしてヨヨは、三人揃って大喜びだ。
きんぎょはそんな三人を不思議そうな顔で見つめていたが、すぐに本来の目的に話を戻す。
「ま、そんなわけだからさー。ちとヨヨっち借りるわ。部屋案内したいからさ」
「はい! よろしくお願いします!」
せつなはヨヨに目線を合わせ、「じゃ、次は副会長といっしょに行って案内してもらってね」と、優しく背中を押した。
「せ、せつな、いっしょに来ない?」
不安そうにするヨヨに、せつなは「大丈夫だよ」と声をかける。
「わたし、このあと武器のメンテナンス出すために、鉄子先輩のとこへ行かなきゃだから。またあとで会おう?」
せつなにそう言われたヨヨは、意を決した様子で力強く頷き、きんぎょへと向き直り、「よ、よろしく、お願い、します」と、一礼した。
「ん。じゃ、行こか」
きんぎょに連れられ、保健部を出ていくヨヨ。ヨヨは保健部を出る直前もせつなを見て、手を振っていた。
二人の姿が見えなくなったあと、
「ふふ。せつなさん、すっかりヨヨさんに好かれてますね」
と、くるるは言った。
「えへへ。わたしってば、頼りになるお姉様に見えてるのかなー?」
「まさか。むしろ頼りないからこそ、ヨヨ自身がお姉ちゃんになって懐いてるのかもよ?」
「えー! どうしてですかっ!」
輪香の茶々に頬を膨らませたせつなだったが、すぐに笑顔に戻り、保健部の扉に手をかけた。
「それでは、わたしも武具制作部のほうへ行ってきます。失礼しました!」
せつなは最後にそう言い残し、保健部をあとにした。
残されたメンバーだけになると、輪香は「そういえば……」と口を開く。
「きんぎょのやつ、ヨヨのことをハッキリと異能使いって言ってなかった? まだ誰もそんなこと言ってないし、ハッキリとわかっているわけでもないと思うんだけど……」
癒月とくるるは、「確かに」と口を揃え発言し、輪香の疑問に同意したようだったが、
「ま、いっか。そんなこと気にしたって、大したことないもんね」
という輪香の発言により、二人もこの疑問を水に流し、いつもどおりの日常を過ごしはじめるのだった。