新たな出会いと深まる交流(7)
ソラビト任務を終え、学園へ戻ったせつなたち。少女を一度保健部へ預けてから、奈子と林檎はソラビト対策兼司令部へ任務報告書の提出と、山林で出会った少女について生徒会長である華乃に報告をするため、席を外した。残されたせつな、亜仁、そして鉄子は保健部に残り、さらにはソラビト兼対策司令部からやって来た此乃も合流し、少女を見守ることにした。
「……にしても、驚いたぜ。任務を終えて戻ってきたお前らが、知らねぇ少女抱えて来るんだからよ」
鉄子は、異能部を任務先へ送ったあとはヘリでひとり、異能部が任務を終え戻るまで待機していた。異能部が戻って来たときには見知らぬ少女を連れ帰っているのだから、それは驚いたことだろう。
「っていうか、なんでこんな小さな子が山林にいたわけ?」
少女の手当てを終えた輪香も話の輪の中に入るようにそう言った。
「ご両親は……この様子だと孤児、かしら……。山林近くに、孤児院があるのかしらね。その、あまりよくない施設のようだけれど……」
癒月は話しながら、少女の顔を見やった。傷だらけの皮膚に、折れてしまいそうほどの細い身体。とてもじゃないが、よい容態とはいえない。それに、着ていた服だってボロボロだった。今は服を脱がせ、保健部にあった (少女には少し大きいが) 病衣を着せている。
「ずさんな管理下だったのでしょうか……。それにしても、足についていたタグ、あれはなんなのでしょう……」
くるるは話しながら、ゴミ箱に捨ててある、元々少女の足についていた『404』という数字な記載のあったタグを見た。少女の手当ての中、輪香が「こんなパッと見胸糞悪いもの、外してやるわ!」と言って、剥いで捨てたのだ。
「とりあえず、今はこの子が無事に目覚めることを祈ろうかぁ」
「そうでありますね。早く元気に目覚めてほしいであります……」
亜仁と此乃の言葉のあと、みなは今も眠りつづける少女を見つめた。
そのときだった。眠っていた少女のまつ毛が微かに揺れ、次第にゆっくりと目を開けはじめた。
その場にいる一同は、一斉に少女を覗き込んだ。
少女はまだボンヤリとした様子で天井を見上げてから、せつなたちへと視線を移した。次の瞬間、少女は慌てた様子で身体を起こし、目元に手をやった。
「な……ないっ!」
少女は必死に目を押さえ、辺りを何か探すように首を動かしはじめた。
「ふえっ!? ど、どうしましたか!?」
くるるは心配そうに声をかけるが、少女の耳には届いていないようだ。せつなは少女の目的に気づき、少女の衣類を畳んで入れてあったカゴから、白い包帯を手に取った。
「あの、探し物ってこれかな?」
せつなは少女に差し出しながら言うと、少女はコクコクと首を縦に振った。
せつなは少女の目に包帯を巻いてやると、少女はようやく落ち着きを取り戻したようで、ホッとひと息ついた。
「あ……ありがとう、ございます。これがないと、わたし……直接目で、見ちゃダメなんです」
やや脈絡のない語り口だが、詳しい理由はさておき、どうやら肉眼で物を見てはならないようだ。だからこそ、出会ったときも少女はこの包帯を目に巻いていたのだろう。
「――! あの……わたしの持っていた、のは……」
少女はフラウドストーンことを言っているのだろう。せつなは「ちゃんとそこにあるよ」と言って、ベッド横に置かれた棚の上を指した。
「はう……よかった。わたしこれ、大切……だから」
少女は安堵の笑みを浮かべ、フラウドストーンを握りしめた。
「しっかり隠しとけよ、特に生徒会長様からはな。本当はソイツは提出しなきゃならねぇやつなんだからよ」
鉄子は少女に向かってそう言った。少女は、「セイトカイチョウサマ? テーシュツ?」と、よくわかっていないようだったが、フラウドストーンを渡すまいという意思は強いようで、鉄子からフラウドストーンを守るような姿勢をとった。その上、威嚇するように鉄子を睨みつけている。
「オレを睨むな。オレはそんなの取らねーっての」
鉄子は言って、壁に背を預けた。
「どうしてそこまでそれを大事にするのかしら〜? 見た目はきれいだけれど、結局それはソラビトの持っていたものなのよ? わたしだったら、あんまり敵が残したものを大事にしたいとは思わないけれど……」
癒月は少女に優しく問いかけるが、少女は俯いて答えない。
見かねた輪香は、「まあいいわ」と言い、少女と目線を合わせるように膝をついた。
「とりあえず目が覚めたようだし、お互い自己紹介しましょうか。しばらくはあなたを保護することになりそうだし。わたしは天野輪香よ。ここの保健部の部長なの」
輪香の挨拶を皮切りに、順番に名前を述べていく一同。最後に少女の自己紹介の番が回ってきた。
「わ……わたしは404、です。そう、呼ばれてるの……。わたし、みんなみたいに、ちゃんと名前、ない……です」
少女は落ち込んだ様子でそう話した。せつなたちは顔を見合わせる。
しばらく悩んだせつなだったが、ひとつ案を思いつき、少女にこう提案する。
「ね、じゃあ『ヨヨ』ちゃんって名前はどうかな?」
少女は顔を上げ、「ヨヨ……?」と聞き返した。
「うん! 数字の『4』を取って、『ヨヨ』ちゃん! ……ちょっと言いづらいかもだけど、パッと思いついたのがそれで……」
せつなははにかみながらそう話すと、少女はうれしそうに頬を赤く紅潮させた。
「……ヨヨ。……き、気に入りました。わたし、今日から『ヨヨ』と名乗ります!」
『404』――改め『ヨヨ』はそう宣言し、少しだけ少女の表情に、明るさが差し込んだ。