新たな出会いと深まる交流(6)
異能部がソラビト任務へ出動中と同時刻、生徒会室にて、生徒会とソラビト対策兼司令部 (無論、此乃のみ欠席)の会合が開かれていた。
「今日あなた方を呼び出したのは、ほかでもない、此乃のことについてですわ」
華乃は自身のデスクに腰掛けながら、そう切り出した。
華乃の両隣には、ガードマンの如く立ち構えるきんぎょと茉莉がいる。
乃木羽と咲は緊迫感の中、会長の次の言葉を待った。
「――此乃は、もう残り一年しか生きられません」
「「!!」」
突然の宣告に、乃木羽も咲も目を丸くした。
華乃はゆっくりと、「あなた方には教えておきます」と前置きし、言う。
「――異能は、少女だけしか使えない。それは正確には、異能使いは少女までしか生きられないということです。長く生きても、満十五歳までが寿命の限界なのです」
乃木羽はやや俯き、咲は「……そ、そんな……」と、動揺している。
「此乃の体力は日々削られている……『予知夢』という、無意識に起こる自身の異能によって。わたしは、そんな此乃を救いたいの」
乃木羽も咲も、口を挟むことなどできず、ただ会長の言葉に耳を傾けている。
「そのためにはね、前にも言いましたけれど……此乃が予知夢で見たという、ゲハイムニスから尾張さんを守らねばなりません。尾張さんの『生き返りの力』――いえ、正しくは、『時間を操る力』……でしたか」
と、華乃は言いつつ、乃木羽へ視線を向けた。
「――その力を応用すれば、異能使いを死の運命から逃れさせることが可能かもしれない。いえ、可能でなければなりません。だからこそ、尾張さんを守りきるのです。前回は急所が外れたおかげで尾張さんは異能の力を失わずに死に、生き返ることができましたが、今度ゲハイムニスが本気で殺すというのなら、まずは迷わず異能の力を潰しにかかるでしょう」
乃木羽は、
「……急所? 異能の力の根源なる部分が、異能使いにはあるということでしょうか?」
と、華乃の『急所』という言葉に引っかかったらしく、そう質問した。
華乃は「ええ、もちろん。……ここですわ」と言いながら、自身の胸を指し、それから滑らせるように下腹部へ向かい指をなぞった。
乃木羽と咲は恐怖と困惑の混じったような表情で目を見開く。
「察しがよくて大変助かりますわ。まあつまり、そういうことなのよ。その事実は、わたくしも、隣にいるきんぎょも白咲さんも変わりはありませんわ。わたくしたち異能使いは、刻一刻と、命が尽きるのを待っている状況ですのよ」
「生徒会のみなさまも、異能使い……なんですか」と、咲は言った。
「ええ。ま、そんな話はいいのよ。話を戻しましょう。とにかく、ゲハイムニスが現れるその日まで、特に外部からの侵入に警戒するように。わたくしも相手の動向を探ります。あなた方には警戒と、ゲハイムニスを捕える確実な戦略をお願いいたしますわ。わたくしはそれを伝えたかったの。……あなた方も、此乃には死んでほしくないでしょう?」
乃木羽と咲はただ黙って、難しい顔を浮かべていた。
「それと気をつけて。敵はゲハイムニスだけではありません。あの子は予知夢で、ゲハイムニスが喋ったと話していた――つまり、背後にもうひとり、誰かがいるということです。ゲハイムニスはただの兵器。話せるわけがありませんから」
華乃は席を立ち、二人に微笑みかけた。
「話はそれだけです。……そうそう。この話、此乃だけではなくて、ほかの方にも内密にしてもらえないかしら? 下手に話が広がって、めんどうなことになるのは勘弁ですから。あくまで、わたくしたちとあなた方だけのお話ということで」
乃木羽と咲は退出の挨拶をし、生徒会室を出た。
乃木羽と咲がいなくなると、早速口を開いたのは茉莉だ。
「……会長、いいんですか。あそこまで二人に話してしまって。……そもそも、生徒会だけで内密に処理すれば、リスクは低いのでは?」
「あら、あなたがわたくしの心配をしてくれるなんて、うれしいわ」
「別に、そんなつもりじゃ……!」
茉莉は咄嗟に否定を口にしたが、華乃と目が合い、また押し黙った。
「別に構いませんわ。あの子たちが何か反発しようものなら、すぐにわたくしの異能でねじ伏せられますもの。わたくしがこんな話をしたのもね、わたくし、自分が見込んだ相手には嘘偽りなく情報を共有して、ともに歩んでいきたいと考える性格ですのよ」
「…………」
「あの子たちの頭脳は素晴らしい。特に、御宅さんの異能へ対する研究心は素晴らしいですわ。今後も、わたくしの横にずっといてもらいたいと思っていますの」
華乃は茉莉を見つめて、さらにこう言う。
「あなたの異能も、わたくし、惚れ込んでいますのよ。触れたものを容赦なく消失させるその異能を。それもあって、わたくしはあなたを隣に置いている。たとえ、わたくしを恨むような相手であっても、ね」
華乃は今度は、いつも背に背負い持ち歩いているテディベアを、抱きしめているきんぎょを見た。きんぎょはその視線に気づき、顔を上げる。
「もちろん、きんぎょはわたくしのたったひとりの親友ですわ。絶対にともにいると決めていますわよ」
きんぎょは無表情のまま、「ありがと、はなのん〜」と答え、続けて、
「あ、一旦お茶にする〜? なんか話してて疲れたっしょ」
と、思いついたようにそう言い、華乃はうれしそうにその話に乗った。
きんぎょは茉莉を見て、
「まつりんはどうする〜?」
と、問うた。
茉莉はしばらく考え、
「はい。いただきます」
と、答えた。
その茉莉の答えにやや眉を釣り上げる華乃。対してきんぎょは、「りょ〜」と気の抜けた声で返事し、支度を始めた。
「……たまにはアタシだって、生徒会のひとりとして付き合いをさせていただきますよ」
茉莉は華乃を見ながら言うと、華乃はそっと目を細めた。