新たな出会いと深まる交流(5)
退治したソラビトの跡には、親指サイズの小さな宝石が転がっていた。
奈子はそれを拾い上げ、ウエストポーチの中へしまう。
「さて。ほかにソラビトもいないようだし、そろそろ帰ろうか」
奈子の指示を受け、一同はその場を去ろうとしたときだった。突然、「――待って!」と、亜仁が呼び止めたのだ。
「……思うんだけど、今回はあまりにもアッサリしすぎてない?」
亜仁の心配する声に、林檎は涼しげな様子で「そんな日もあるでしょ〜」と言いながら、さきほど使用した弓を背にかけている。
『そうでありますよ! フラウドストーンも手に入れたってことは、確実にソラビトも倒しきれたということでありますし、深く考える必要ないであります!』
ドローンは上下に動きながら、そう話した。
亜仁は「……そっかぁ」と、納得しかけたときだった。
ズズ……ズズ……と、何かが地面を引き摺るような音がしたのだ。
一斉に周囲を警戒するせつなたち。
ズズ……ズズ……
音は少しずつ、せつなたちのほうへと近づいてくる。
次に葉の揺れる音がし、そちらのほうへ注意を向けると、その方角にあった木の後ろから現れたのは、ひとりの少女だった。
目を白い包帯で覆っているのが特徴の、儚げな少女だった。
「だ……誰?」
せつなが呼びかけると、少女は顔を上げゆっくりと答える。
「え……えと、わ、わたし……は……」
そのときだった。少女の背後から複数のソラビトが現れたのだ。
「――危ないっ!」
奈子はすぐにソラビトの元へ走り出し、林檎もすぐさま動き出し、少女を抱きかかえ、その場から救出した。
迫り狂うソラビトたち。亜仁はすかさず、
「――〈止まれ〉!!」
と、拡声器越しに命令し、ソラビトの動きを止めた。奈子はすばやくソラビトたちを倒していくが――しかし。
「ちょっと! 一体止めきれてないわよ!」
林檎の言うとおり、ソラビトのうちの一体だけは亜仁の異能が効かず、少女への猛進の勢いが止まっていなかった。
亜仁は以前話していた。亜仁の命令する異能の効果は百パーセントではないと。どうやらここへきて、ハズレを引いてしまったらしい。
奈子は自身の異能を使い風を起こし、逃した一体も掴み取ろうとするが、ソラビトは風をすり抜け進んでいく。
なんとしてでも少女を守らねばならない。せつなは地面を蹴りあげ、一瞬のうちに少女の前へと瞬間移動し、鎌でソラビトを切り裂いた。
ソラビトは悲鳴をあげながら、身体の形を崩し、空へと消えていく。
同時に、フラウドストーンが地面へと落ちた。少女はそれにすぐさま反応し、林檎を振り払い、フラウドストーンを拾い上げる。
「ちょっ、危ないでしょ!」
再び林檎は少女の肩を引き、ソラビトと距離を取った。少女はそれでも大事そうにフラウドストーンを握りしめていた。
「……ってか此乃! 司令部なんだから、ちゃんとソラビトが来てないか見てなさいよっ!」
『ふえぇ〜。ご、ごめんなさいであります、安心しきっていたであります〜……』
林檎の叱責に、涙声の此乃。亜仁はそんな林檎を宥めてから、「此乃ちゃん、もうソラビトはいなさそう〜?」と、聞いた。
少しの沈黙のあと、『……はい! もう安全であります! 異能部は帰ってくるでありますよ〜』と、此乃は答えたが、問題はまだ一つある。
「……こ、この子、どうしましょう……?」
せつなは、少女を見ながら言った。
奈子は少女へゆっくりと近づき、地面に膝をつき目線を合わせる。
せつなたちよりも幼く、見た目は小学校低学年くらいの少女だった。奈子は優しく、少女へ問いかける。
「……君はどこから来たのかな? こんな山奥に……迷子だったりするのかい?」
奈子の言葉を聞きながら、せつなは、こんな山奥で迷子なんてあるのだろうか……と、疑問を抱いていた。
そもそもこんな幼い子が、迷い込むような場所じゃない。
少女は、包帯越しにせつなたちが見えているのか、一人ひとりの顔を見ながら、答える。
「わ……わたしは、404です……。ごめんなさい……大人しく帰ります、だから……でも、これ、だけは、取らないで……ください……」
少女はすっかり怯えてしまっているようで、肩を震わせながら、それでもフラウドストーンを胸の前で必死に握って離さないようにしている。
「……なんか怖がっているようだけど、もしかして、どこかから逃げてきた、とかじゃないかなぁ……。裸足だし……それに、この子の足首、変なタグがついてるよ」
亜仁は奈子にそう言った。確かに、少女の右足首には、『404』と書かれた白いタグが付けられている。裸足でここまで来たせいで、足元は切り傷だらけだった。
着ているグレーのワンピースも、裾がボロボロになってしまっている。
「……とりあえず、お姉ちゃんたちといっしょにおいで。手当をしてあげよう。それから、いろいろと君のことを――」
奈子が話している途中、奈子自身の胸に少女は倒れ込んで来たため、話はそこまでとなった。
少女は体力の限界が来てしまったのか、意識を失ってしまったらしい。
「……とりあえず、この子を連れて学園へ戻り、保健部で手当してもらうことにしよう」
こうして、謎の少女を連れて一同は学園へ戻ることになったのだった。