新たな出会いと深まる交流(4)
異能部一同はソラビトが出現したという、ある山林へと出動していた。
今日は曇り空な上、木々が重ねる葉のせいでなおさらこの場は薄暗い。異能部は足元に注意を払いながら、ソラビトがいるという場所へと向かう。
山林一帯は獣とはまた違った独特の高い鳴き声が響いていて、不気味さも醸し出している。
「みんな、ここで止まれ」
奈子の指示で、ほかの三人も一斉に近くの木の裏へ息を潜め隠れる。
一同の視線の先には、頭と胴体の区別もつかないほどまんまるに膨れ上がったような体型をした、数メートルあるような巨体のソラビトがいた。
「アウアウアウアウ」
ソラビトは動き出す気配もなく、ただその場で鳴き声を発していた。目を凝らせば胴体と頭の境目が認識でき、さらに胴体とアンバランスな小さな頭をよく観察すれば、微妙に俯いているのだと確認できた。
「今回は弱っそうな敵ね。部長、わたしでよければさっさと片づけてしまいますけれど」
林檎はソラビトを一瞥してから、奈子へそう言った。奈子は「ダメだ」と、静かに否定する。
「どんな敵でも決して油断してはならない。何より、林檎ひとりだけ危険な目に遭わせるなんてこと、あってはならないからな」
林檎は大人しく身を引き、再びソラビトへと視線を向けた。
そのとき、小さな羽音のようなものがせつなの背に聞こえた。
せつなは一気に警戒を高め、音の方角を睨みつける。
そこにはいたのは――小型のドローンだった。
『まっ、待つであります! 此乃は敵ではないのであります!』
ドローンから、聞き覚えのある声が聞こえた。この声は――そもそも、「此乃」と言っているのだが――ドローンの向こう側にはソラビト対策兼司令部所属である、王樹此乃がいるようだ。
『このドローンはソラケン部のものであります! こんな山林に学園の監視カメラなんて設置できていないでありますから、今回はドローンカメラからみなさんを見守っているでありますよ!』
せつなは警戒を解き、ようやく緊張を緩めた。
「此乃先輩とは気づかず、すみませんでした。ところで、今日は此乃先輩だけなんですか?」
せつなはドローンへ向けてそう質問した。いつもならこちらへ語りかけてくるのは乃木羽か咲と決まっているため、少し疑問を覚えたからだ。
『えっへん。今日は此乃が指揮を取るであります! 実は、部長と副部長は席を外しているでありまして、今は生徒会にいるであります。部長にひとりでお留守番しているように頼まれたでありますよ!』
亜仁は此乃には聞こえないような小さな声で、「ちょっぴり不安だねぇ」と呟いた。
「乃木羽と咲は生徒会、か……。一体、何があったんだ?」
不安そうに問うた奈子。一方、此乃はそれほど二人が生徒会へ赴くことを気にしていなかったようで、
『んー、わからないであります。なんか大事な話があるからって、行ってしまったでありますが……。どうして此乃だけ仲間はずれなのでありますか!』
「此乃ちゃんはやっぱり、ねぇ」
『な! それはどういう意味でありますか!』
目的がブレてきた此乃に、奈子は咳払いをし、注意を自身へ向ける。
「――此乃さん。今はソラビトの件が先だ。どうやら動く様子はないようだけれど、このまま倒しても問題はないかな? 周りにほかの敵が近づいているとかは、確認できるかな?」
『ノープロブレムであります! 今は周りに敵も確認できないし、何より目の前にいるのはノロそうなソラビトであります。問題なしでありますよ!』
自信満々に答える此乃に続き、
「なら、いいわよね? さっさと倒しちゃいましょうよ」
と、林檎はさっさとカタをつけたいのかウズウズしている様子だ。
『そうでありますね! さあ、異能部のみなさん、ソラビトを退治し、フラウドストーンを回収してくるでありま〜す!』
此乃の合図とともに、異能部は戦闘モードへと切り替える。
運がよいことに、ソラビトは弱点となる腹をこちらに向け、ソラビトの心臓ともいえるコアが無防備状態だった。
「……下手に戦いにいくまでもない、か。林檎、その弓でコアを狙えるか?」
「ええ、もちろんです。五十メートル離れてようと、わたしは矢を正確に当てられるもの」
林檎は背に携えな矢を一本取り出し、弓にかけ、引く。
「喰らいなさい、ソラビトめ」
林檎は弦から指を離し、矢は目にも止まらぬ速さでソラビトのコアに突き刺さり、そこから爆発を起こした。
林檎の異能は『触れたものを爆弾に変える』もの。矢が刺さった瞬間、それは爆弾に姿を変え爆発し、腹部を破壊したのだ。
ソラビトが倒れていくのをみて、喜びの声を上げる一同――もちろん、ドローン越しに此乃の歓喜の声も聞こえていた――が、亜仁だけは違かった。
「あのソラビト、泣いていたように見えたのは、気のせいだったのかな……」
と、ひとりだけ複雑そうな表情を浮かべていたのだった。