新たな出会いと深まる交流(3)
「な……なんか、すみません……。わたしの異能のせいで、会長からとんでもない命令を……」
乃木羽の話を聞き終え、異能部部室へ戻ってきてから開口一番、せつなは先輩三人は向けてそう言った。
「……まったく、本当に迷惑しちゃうわ」
林檎はそう言いつつも、明らかにその表情は面倒くさそうに思っているわけではなく、せつなを心配してくれているのだと見て取れるものだった。
「ゲハイムニス……噂だと思っていた存在が、いよいよ本当の存在になってきたんだねぇ……」
亜仁はソファで猫を撫でながら、そう呟いた。
「…………」
奈子は厳しい顔つきのまま、テレビに映る、海開きについてのニュース番組を見つめている。
「わー。海かぁ、わたしたちもそこの海で遊びませんか? ……な〜んて。ね、奈子お姉ちゃん」
名前を呼ばれ、ようやく奈子の顔つきも和らぎ、せつなを見た。
「……そうだな。たまには海で遊ぶのもいいかもしれない。水中では、普段と違った訓練もできそうだし」
「部長〜。海で遊ぶときまで戦闘訓練ですか〜」
どこまでも異能部の部長らしい発言に、亜仁は笑って揶揄した。
「あーあ。それにしてもなんだけれど、せっかくテレビがあるんだから、ニュースだけじゃなくて、バラエティとかドラマとかも観たいわよね」
林檎は棚からお菓子を取り出しながら、そう言った。
「あまり気にしていなかったんですが、ニュースしか映らないんですか?」
せつなは聞くと、林檎は「そうよ。この番組だけ」と答え、ポテトチップスの袋を開けた。
林檎はテーブルの上にある菓子入れに、袋からポテトチップスを出し移す。ソファにいた亜仁もテーブルへ移動し、四人各々、ポテトチップスを手に取って口へ運んでいく。
「……なんだかこの学園って、ずいぶんと閉鎖的なんですね」
せつなは、思ったことをそのまま口にした。
「そうだねぇ。外部のことに関してはいろいろルールがあったり、制限があるような気もするねぇ」
そんな亜仁に対し、次に林檎が口を開く。
「でも、外出申請すれば許可をもらえて、島の外へは行けるし……まあ、許可がもらえるとは限らないけれど。……そもそも、外出申請する人もあんまりいないしね」
せつなは『外出申請する人があまりいない』と聞いて、以前、東京のホテルの露天風呂でみなと交わした会話を思い出していた。
亜仁や林檎、鉄子も家族とはあまり会いたいという様子ではなかった。ほかの生徒たちも、同じように強く帰省したいという想いがないのかもしれない。
せつな自身、家族に会いたい気持ちもあるが、それ以上に学園で成績を残したいという気持ちのほうが強かった。
家族からの期待もある。まだ一年の自分が帰省するなど、してはならないと考えていた。
「そういうと、外へ出るのは異能部くらいだな。……といっても、任務で、だけどな」
奈子は言って、改めてせつなを見つめた。
「――せつな。異能部だけなんだ。島の外へ出て、ソラビトと戦うのは。ゲハイムニスの件もある。もうせつなは、前回の東京でのときみたいに、あまり無茶はしないでくれ。どこへ行くにも、わたしといっしょに……いや、誰かといっしょに行動するようにしてほしい」
「奈子お姉ちゃん。……でも大丈夫ですよ! ほら、わたし一応何があっても生き返るみたいですし、死ぬ以上のことなんてないんですから、いくらゲハイムニスが現れようとも、へっちゃら――」
「――生き返るとかじゃないんだ。わたしはもう、仲間が死ぬのを見たくない」
奈子の真剣な瞳に、せつなは口を噤んだ。
「……せつなちゃんには話してなかったけどねぇ」
そんな中、亜仁は言う。
「去年までね、異能部にはもう一人の仲間がいたんだぁ。当時部長を務めてた、牛義聖子っていう、わたしたちの先輩が。天真爛漫でリーダーシップのある、ボクたちの大好きな先輩だった」
続いて、林檎が話す。
「本当だったら、聖子先輩との卒業式での別れ話をしたいんだけれど、残念ながら聖子先輩は、この学園を卒業できなかった。わたしたちのために、自身を犠牲にしたの」
せつなは「犠牲に……?」と呟き、同時に嫌な予感がしていた。
「――聖子部長は、ソラビトの犠牲となって亡くなってしまった。……あのとき、もしわたしが動けていたら……」
「奈子部長のせいじゃないって、何度も言ってるじゃないですか」
「そうですよ。もう自分を責めないと約束したはずです」
奈子の言葉に、林檎と亜仁はすかさずそう注意した。奈子は二人に謝り、再度せつなを見た。
せつなは知らなかった姉の辛い過去を知り、やり切れない思いを抱いていた。
みんな強く笑って過ごしているけれども、見えない過去に辛い経験が隠されていることを、初めて知ったのだ。
「……ごめんなさい。わたし、簡単に生き返れるからなんて軽いことを言っちゃって……。もう言いません。でも、これからも異能部の一員として、精いっぱい頑張らせてください!」
せつなの真っ直ぐな想いに、三人は頷いた。
そのとき、四人のスマホが一斉に鳴り出した。同時に、部室の壁掛けスピーカーから、
『こちらソラケン部なのであります! ソラビト出現であります! 異能部のみんな、急ぐでありま〜す!』
と、此乃の声が響いたのだった。