新たな出会いと深まる交流(1)
白咲茉莉は寮の自室で一人、窓の外を眺めていた。
ほとんど街灯がないこの島はすっかり暗闇に染まり、月の光を反射する海だけがかろうじてその存在を感じ取れ、穏やかな波音が囁かに聞こえている。
「お姉ちゃんは、どこにいるんだろう」
茉莉は誰に伝えるわけでもなく、思いを口に出す。
「――会長は言っていた。『あなたのお姉様の頭を潰してしまいそう』って。……それって、お姉ちゃんがどこかにいるってことよね」
茉莉は視線を動かし、机の上に置かれた写真立てを見た。
その写真には、音萌学園の制服を着た少女と、ランドセルを背負った少女が写っていた――茉莉の姉と、茉莉本人だ。
「……いなくなってしまっていたらどうしようと思っていたけど、よかった。お姉ちゃんは絶対にいる。でも、どこに……。会長が協力してくれるわけないし、むしろ、『千里眼』の異能を手にした会長の前では迂闊に行動もできない。下手に動いた姿を見られれば、『重力を操る』異能でアタシはたぶん、きっと殺される。まさかあの会長が、『他者の能力を奪う』異能だとは想定していなかったわ」
「〈生命搾取〉、ねぇ……」と、以前会長――華乃が自称していた異能の呼び名を呟いた。
「……会長の名づけた名前を借りれば、〈千里眼を持つ少女〉と〈重力と友達の少女〉は、すでにこの世に存在しなかったことになっている。きっと彼女たちは、会長の〈生命搾取〉によって殺された……と、考えていいのかしら。それとも、彼女たちが死んでしまったあと奪われたのか……どちらにせよ、会長は直接的に、もしくは間接的に彼女たちを殺したことに違いはないわ。会長はわたしの能力を奪おうと考えている様子はないけど、急に気分が変わるかもしれない」
そのとき、小さなバイブ音が聞こえた。
茉莉はスマホから充電コードを抜き取ってから、通知を確認する。
一年生だけのグループトークルームには、せつなからのメッセージが入っていた。
『クッキー作り楽しかったね! ありがとう! 林檎先輩、すっごく喜んでくれてね、今はとっても元気だよ!』
茉莉は、せつなのメッセージを見て思い出す。
昨日、生徒会へソラビト対策兼司令部が現れ、乃木羽たちが伝えに来たことを――せつながゲハイムニスに狙われている、ということを。
せつなのメッセージから数秒後、
『よかったです〜! またみなさんで、料理したいですね♪』
と、すぐにくるるから返信メッセージが入った。
茉莉は少し考える。ただメッセージを確認するだけで終わるか、それとも、何かメッセージを返すべきか。
「…………」
茉莉は悩みながらも指を動かす。
『だから言ったでしょ。元気になるに決まってるって』
素直じゃない言葉。自分でも自覚はあるが、中々ありのままの想いを伝えるということは難しいものだ。
でも、彼女らはそんな自分を理解してくれる。それがうれしい反面、鬱陶しくもあった。初めて出会ったころ、他者を一切無視していたというのに、なおも話しかけ歩み寄ろうとしたせつなは、茉莉にとって非常に厄介である。
「本当は、関わらないでほしいのに。距離を縮めたくはないのに。だってどうせ、せつな、アンタは、きっと……」
茉莉は、思わず弱音を吐いてしまった自分の頬を叩いた。
「――そんなことはいいのよ! とにかく今は生徒会として、せつなを守りきることに専念しなくっちゃ。わたしは会長とは違う。わたしは、ただせつなを守らなくちゃ……ムカつくくらい、この学園のことを好いてくれているせつなをね」
スマホを握る茉莉の手に、力がこもる。
「……せつなだけじゃない。アタシは、学園のみんなを救い出さなくちゃいけない。アタシはそのために音萌学園へ入学したんだから。……それから、お姉ちゃんを見つけ出して、お姉ちゃんといっしょに、どこかで暮らすのよ」
茉莉は嫌悪を込めて、「ああ、そういえばわたしのこの異能を、会長はこう名づけていたわね」と前置きし、言う。
「――〈消滅への導き〉、と」