ミッション! 林檎先輩の笑顔を取り戻せ!(5)
せつなの提案をきっかけに、お菓子作りを始めることになった一同は、エプロンを身につけ厨房にいた。
「あー、ここのクッキーッスか。アレおいしいですよね〜。ボクも好物ッス」
せつなは、林檎のお目当てだった店の写真をスマホで見せた。実は林檎、店員に話しかける前に、ちゃっかり店の外観をスマホで写真として収めていたのだ。せつなが見せているのは、その写真が保存されている異能部の共有アルバムの一枚だ。
「歩煎先輩、食べたことあるんですか?」
「うん。学園へ来る前にね。ボクの家、ここの近くだったから。たまに母さんが買ってきてくれたんだ」
「歩煎先輩も都会人……!! ま、眩しい……!」
佐賀県民であるせつなには、歩煎は「都会人」という、まばゆいオーラを放っているようにしか見えなく、オーラから身を守るように顔を背けつつ両手をかざすポーズを取った。
「なーなー。ほかの写真を見せてぇやぁ。ウチ、まだ東京行ったことないねん。せめて写真で東京の空気を感じたいわ」
「いいですよ! ほら、これ見てください、ゴジラです!」
「すごいですね! 恐竜博物館ですか?」
「ううん。これ映画館なんだ〜。みんなでね、ヒーローのやつ観てきたの!」
そんな話から始まり、四人はせつなのスマホを囲み、東京観光の写真を見ながら話に花を咲かせはじめた。
茉莉はそれを一歩引いたところから眺めつつ、呆れ顔を浮かべていた。
せつなはそんな茉莉に気づき、
「茉莉ちゃんもおいでよ! これはね、泊まったホテルの写真――」
「――せつなたち、目的忘れてない?」
――と、せつなは声をかけたが、即座に茉莉にツッコミを入れられてしまった。
四人は同時にハッとして、いそいそとスマホから離れていく。
「……ったく。そんなことより、クッキーっていったら、まずは生地作りからでしょう? ……材料とかはあるんですか?」
四人を雑談から本来の目的へ導くように、茉莉は米来と歩煎を見つつ、そう問うた。
米来は自信たっぷりに、「基本的に材料はすべて揃ってるから大丈夫や!」と答えた。
歩煎は棚から材料を取り出しながら、
「ボク、一度食べたことあるから、味は覚えてる……。完璧とは言わないけど、再現することはできる……かも」
と、カウンターの上に物を並べはじめた。
「歩煎先輩がついていれば、レシピのことは心配ないわね。あとはアタシたちが歩煎先輩に従って作り上げていけば、特に問題はなしね」
「さすが茉莉ちゃん! テキパキしてるぅ!」
「生徒会に選ばれただけありますね!」
せつなとくるるにはやし立てられ、やや赤面する茉莉だった。
こうして一同は、菓子作りに取り掛かった。
「まずは砂糖とバターを混ぜ合わせるッス」
――歩煎の指導の元、みなは協力してクッキー作りの工程を踏んでいく。
「せつなさん、ここに薄力粉をお願いします!」
「うん! このくらいかなー?」
「ちょっと! アンタ入れすぎよ!」
――時々ミスがありながらも、順調に事は運んでいった。
「せっかくやし、色んな型とって作ろうや〜。ほら、ハート型も星型もあんねんで〜」
――そんなやり取りや会話を交わしながら、一時間を過ぎたところで、ようやくクッキーは完成した。
クッキーはかわいらしくラッピングされ、手作り感は残るものの、店で売られても遜色ないほどのクオリティに仕上げることができた。
「――で、できたぁ!」
五人な集大成を掲げ、喜びの声を上げたせつな。
「あとはこれを、林檎先輩にプレゼントするだけですね」
くるるに言われ、せつなは微笑み返した。
「これで喜んでもらえたら……それで、元気になってもらえたらいいな」
クッキーの包みを見つめながら呟くせつなに、茉莉は「元気になるに決まってるでしょ」と、声をかけた。
せつなと茉莉は一瞬見つめ合い笑みを浮かべ、そこにくるるも交じり、三人はまたじゃれ合いを始めた。
最初こそ不満げな歩煎だったが、今はそんな三人を優しく見つめていた。歩煎はなんだかんだ先輩らしい振る舞いもする歩煎に、誇らしくするような表情を浮かべているのだった。