任務帰りの日常光景!(2)
「はい! くるるちゃん、茉莉ちゃん、東京土産だよ!」
午前中の授業も終わり、昼休憩を迎えた教室で、せつなはクラスメイトのくるると茉莉に東京土産を手渡した。
「わあ! ありがとうございます〜!」
くるるはうれしそうに、袋を受け取った。早速中身を開けてみると、そこに入っていたのはレース調の洋服のようだった。茉莉もせつなから受け取った袋の中身を取り出してみる。くるると同様に、それは洋服だった。しかし、くるるとはまた違った、クール系のテイストのものである。
「……ありがとう。服がお土産なんて珍しいわね」
茉莉は隠しきれていない喜びを滲ませながら、礼とともにそう言った。
「えへへ〜。お土産どうしようかな〜って思ったときに、くるるちゃんと茉莉ちゃんも新しいお洋服がいいかもって思ったんだ! 学園だと、新しいお洋服も自由に買えないしね。実はわたしも、向こうで自分用の新しい服を買ったんだよ!」
くるるは「いいですね〜」と言いながら、せつなの話に耳を傾けつづける。
「――だから、ね。また外出許可がもらえたらさ、みんなでこの洋服を着て、遊びに行こうよ!」
くるるは満面の笑みで「はい! もちろんです!」と答えた。一方、茉莉は頬を紅潮させ、目を見開いていた。
そんな茉莉に、せつなとくるるは視線を向ける。
茉莉は視線を受け一瞬だけ目を伏せたが、また二人と目を合わせた。
「……うん。絶対に行くわ」
せつなとくるるはそんな茉莉の返事が相当意外だったのだろう。目を丸くして、ポカンと大きく口を開いていた。
自身の返答に喜ぶでもなく、むしろ驚きを見せる二人に、茉莉は「……な、なによ」と、怪訝そうにする。
「い……いやぁ……。まさか、こんなに素直に、茉莉さんが『行く』なんて言うと思わなくて……」
「うんうん。茉莉ちゃんならまず最初に、『アタシはそんなのキョーミないから! ま、そんなにいっしょに来てほしいなら行ってあげなくもないけど!』……って言うのかと思った」
口々に話すくるるとせつなに、茉莉は、「アタシのことどういうふうに思ってるのよ!」と、ツッコミをいれた。
「……ま、生徒会として先に言っとくけど、そんな簡単に外出許可なんて出せないわよ。いつソラビトが出てくるかなんてわからないんだから」
せつなは「ケチ〜」と唇を尖らせた。くるるはその隣で笑っている。
茉莉はそんな二人を見て、顔を綻ばせていた。
「……じゃ、アタシは先に行くわね。一旦、寮へ戻るわ」
「え〜ごはんいっしょに食べに行こうよ〜」
「あとから合流する。汚さないように、先に服しまっておきたいのよ」
合流、という言葉を聞いて、せつなとくるるはうれしそうだ。茉莉は、せつなの「わかった! 待ってるね!」という言葉を背に受けながら、扉を開いた。
教室を出る前に一度足を止め、茉莉は振り向く。
「……せつな。異能部での生活は、楽しい?」
せつなはそんな急な質問を不思議に思ったが、笑顔で、
「うん、楽しいよ! 異能部のみんなも、学園のみんなも大好き!」
と、答えた。
茉莉は、「そう。……なら、よかった」と言い、教室を一歩出たが、また振り返って、「……あのさ!」と呼びかけた。
無垢に首を傾げるせつなとくるる。茉莉は何かを言おうとして、また喉の奥に引っ込めたようだった。
「……ううん。任務お疲れ様。くるるも、このあと頑張るのよ」
代わりに、茉莉はそれだけ言い残し、教室を出ていった。
「くるるちゃん、このあと何かあるの? 『頑張れ』って……」
「えぇ……と。あ! 明日は異能部員さんの身体検査がある日です! それに、このあとも保健部で先輩のケアをするんでした。……実は林檎先輩、東京観光から帰ってきたら倒れちゃったらしくて、今日は保健部でお休みしてるんです」
「えぇ!? 林檎先輩、あんなに元気だったのに!?」
驚くせつなに、くるるは、
「部長曰く、東京観光中はそっちに夢中で、体力の衰えの影響も一時的に出ていなかったみたいです。帰ってきた途端、緊張の糸が切れて燃料切れになっちゃったみたいで」
と、事情を話した。
せつなは、まさか自分と別れたあとでそんなことになっていたのか、と途端に心配を覚えた。
「お昼ご飯食べ終わったら、保健部へ様子見に行きますか?」
「うん、そうする。……もう、林檎先輩ったら子供なんだから〜」
冗談めかして言うせつな。内心、そんな平穏の時間は何よりも尊いものなのだと、改めて噛み締めていた。