任務終わりの東京観光!(7)
「申し訳ありません。本日分は売り切れとなります」
店員から放たれた言葉に、林檎は絶望の表情を浮かべていた。
「う……ウソ……まだお昼なのに……?」
「申し訳ありません。当店の商品はありがたいことに非常に人気の商品となっておりまして、開店して一時間経たずに売り切れることが多くて……」
林檎は膝から崩れ落ち、床に手をついた。
「わ……わたしのクッキー……」
「おっ、お客様!?」
「気にしないでください! すぐに引き下がるんで!」
珍しく亜仁は声を張り上げ、林檎を引き摺りながら、その場を去った。せつな、鉄子も二人を追うように撤退し、奈子は最後にもう一度謝罪し、四人のあとを追った。
店から離れ、人気のあまりない場所に移動し、亜仁は「いくらショックでも隠さなきゃ〜。人も多いんだし」と、やんわり叱った。
一同がいる場所は東京駅。いくら今が平日の昼間といえども、東京駅には多くの人が行き来していた。
「元気出せよ、林檎。また東京に来れたとき、今度は朝イチで買いに来りゃいい」
鉄子は林檎の肩に腕を回しながら、そう励ました。林檎はまだショックが癒えないようだったが、力なく頷いた。
奈子は区切りがついたのを見計らって、空気を一新するために、一度大きく手を叩いた。自身に注目を集めると、奈子は明るい調子で言う。
「さ、ここでクヨクヨしている時間はもったいない! 残された時間はあとわずかなんだ。徹底的に楽しみ尽くそう!」
四人は顔を上げ、「了解!」と声を揃えて答えた。
◇
やがて夜を迎え、一同は空港にいた。
東京で過ごす時間も、もうすぐ終わりである。
奈子、林檎、亜仁はお手洗いへ行っており、せつなと鉄子は、ロビーの椅子に座って待っていた。
「そういえば、帰りは飛行機なんですね。鉄子先輩のヘリはどうなったんですか?」
「ああ。あれなら、会長さんがテキトーに手配して回収してくれたらしい」
「そうなんですね。さすが生徒会長、準備が早いです!」
せつなは言って、周辺へ視線を向けた。
鉄子と二人きりという機会は中々ないため、少しだけ緊張していた。また何か話題を振るべきかあぐねていると、先に鉄子が口を開いた。
「……あのさ。生徒会長のこと、どう思ってる?」
「? ……えっと、学園のザ・トップって感じで、大人っぽくて、あと……美人で羨ましいなぁって」
「そうか。……せつなはさ、会長さんのこと恨んでたりはしてねぇのか?」
せつなは目をぱちくりさせ、「……恨む?」と聞き返した。
「あのゲハイムニスとの戦闘時――浅草寺で、せつなが相手取ってたソラビトがいるだろ? ソイツ相手に、会長は無茶な命令をしたっていうじゃねぇか。せつなは、なんか思ってねぇのかなって」
「うーん……。でも、あのままソラビトを放置しているわけにもいきませんし、会長の命令だったので。まあ確かに、おかげで死にかけた……というか、死んじゃった――んですよね。……死んじゃったけど、よくわからないけど生き返れたし、今、こうしてみんなと過ごせているから幸せです!」
嘘偽りのない笑顔。そんなものを見せられた鉄子は、せつなは本当にそう思っているのだと認めざるを得ない。
「――誰かがやらないとダメだった。それが、わたしだっただけです。それに、わたしはこの国のために骨を埋める覚悟はできています。わたしは栄誉のために、この学園に入学してきたんですから」
鉄子は黙って聞いていたが、ようやく「……そうか」とだけ呟いた。
ちょうどそのタイミングで、お手洗いへ行ってた三人が帰ってきた。フライト時間も近づいているため、一同は搭乗ゲートへと移動しはじめる。
しかし、鉄子だけはひとり何か考え事をするかのように、椅子に座り込んでいた。
奈子は動き出さない鉄子に、少し離れた位置から、「てっちゃん! ボーッとしてると置いてくぞー!」と声をかけた。
鉄子は顔を上げ、「悪い、今行く」と言って立ち上がった。
四人の背中を見つめながら、鉄子はふと、誰にも聞こえないように声を洩らす。
「……オレが下手に、口を挟むもんじゃねぇよなぁ」