任務終わりの東京観光!(5)
「……まったく、子供なんだからよ。後輩のめんどう見るのも大変だぜ」
鉄子は、布団の上で寄り添いながら眠る、三人の後輩を見ながら言った。
「大人から見たら、わたしらも十分子供だよ」
「へっ、どうかな? オレらは、大人に太刀打ちできるくらいの力を持ってるつもりだぜ?」
窓辺のテーブル席でくつろぎながら、奈子と鉄子は夜更かしをし、談笑していた。
「……なぁ、大丈夫なのか?」
「何が?」
「『何が?』……じゃねぇーよ。少しずつ、感じてるんじゃないのか?」
「…………」
奈子は鉄子から視線を逸らすように、点々と光を灯す、窓の外のビル街を見やった。
「――だんだんと、異能の力が弱まってきてるんじゃないか?」
「……そんなことないさ。まだ普通に戦える」
「……でも、一昨日のあのソラビト……本来のお前の力なら、あの一発で倒しきっていたはずだ」
奈子は、一瞬だけ唇を震わせた。
「――異能の力が弱まるとき、一時的に体力も落ちてきて、体調も崩しやすくなるって、輪香から聞いたことがある。すぐのぼせちまったのもそのせいだろう? 今までの異能部員たちも、そうだったらしいじゃんか」
「そう……だね。でも、これくらい今はどうってことないさ。まだまだわたしは動けるんだから。……それに」
奈子は再び鉄子へ視線を戻し、微笑んだ。
「――聖子先輩の分も、わたしは精いっぱい働きたい。この学園で、自分の役割を務めあげたい。それがたった少しでも、聖子先輩の弔いになる気がするから。……体調が悪化しようと関係ない。わたしは、この異能の限界まで動きつづける」
鉄子は深く息を吐くと、ソファから腰を上げた。
「……わかった。……でも、聖子先輩と同じ道は辿らないでくれよ」
鉄子は振り向き、その黒髪の間から奈子を見据えた。
「林檎と亜仁に、同じ悲しみを与えないでくれ。せつなには一度たりとも、そんな悪夢を見せたりしないでくれよ」
「……わかった。無理はしない」
鉄子はまだ何か言いたげな様子だったが、口をつぐみ、「あー。オレはもう寝る」と言って、自分の布団へ潜り込んだ。
奈子も自分も眠りにつこうと、ソファから離れ、立ち上がった。すぐに布団へは向かわず、また窓の外を見やる。
「――『わたしは、国のために生きている』」
奈子は誰かの言葉を暗唱するかのように、言葉を連ねる。
「――『わたしが死んで、みなが救われるなら本望だわ』」
奈子は眉を下げながら小さく笑い、目を伏せた。
「……って、聖子部長らしい、最期の言葉だったな」
奈子は窓ガラスに映る自分と目を合わせながら、問いかけるように呟く。
「わたしは、最期にどう飾って死ぬんだろうね」
奈子は布団へ戻りつつ、せつなの寝顔を見た。
「……いや、死ぬんじゃない。ちゃんとこの学園を卒業するんだ」
奈子はハッキリと意志を口にし、自身の布団で横になり、目を瞑った。
奈子に背を向けて寝ていた鉄子は、少しだけ安心したように微笑んでいた。