任務終わりの東京観光!(2)
「わ! 何あれ!? 恐竜がいるよ!」
「ご、ゴジラだわ! ゴジラがいるわ!」
せつなと林檎は、映画館に飾られているオブジェを見上げ、興奮した様子ではしゃいでいた。
「せつな! しゃ、写真も撮っておきましょ! 学園へ帰ったら、二度と巡り会えないかもしれないし!」
「はい!」
林檎はスマホを内カメにして、せつなと肩を組み、ゴジラも入るようにセルフィー写真を撮った。
「林檎先輩! あとで写真、送ってくださいね!」
「ええ、もちろん!」
「二人とも、もう満足したなら映画観るよ〜。こっちはすぐに満席になるんだから〜」
映画館の手前から動かないせつなと林檎の手を引き、ズルズルと引き摺るようにして、亜仁は二人を連れて歩いていった。
「……せつな、すっかり異能部に馴染んでるよな」
後輩三人を見つめながら、鉄子は奈子にそう話しかけた。
「ああ。亜仁はともかく、林檎と仲良くできるか不安だったときもあったが……あれなら大丈夫そうだ」
「せつなに構ってもらえる機会が減って、お前は残念だろうけどな」
「……まさか、そんなことないさ」
鉄子は「ふーん」と言って、ニヤニヤしながら奈子を見ていた。そんな鉄子に、奈子は少しムッとしつつも、特に何も言い返せないのであった。
◇
映画鑑賞を終えたあとも、一同は時間の許す限り東京を巡り楽しんだ。
――渋谷では、念願の相手と出会えたり。
「ハチ公!」
「はじめてみたわ!」
「せつなちゃん、林檎ちゃん、そんなに撫でるもんじゃないよぉ……」
――原宿では、見た目が派手やかな食べ物を食べてみたり。
「見てみろよ! 向こうにクソ長ポテトが売ってたぞ!」
「鉄子先輩! わたしなんてロングトルネードポテトですよ!」
「わ、わたしはケバブ買ったわ!」
「わたしは唐揚げ買ってみた」
「う、ウソでしょ……。竹下にきたら、普通クレープだったり、タピオカだったり買わない……? ボクだけがズレてるのか……?」
――池袋へは、鉄子の買い物に付き合ったり。
「すごい! 八階まである!」
「こんなになってる内装のエレベーター、はじめてみたわ」
「鉄子先輩、何買ったんですか〜?」
「ふっ、これはお前らにはまだ早いんだぜ……」
「てっちゃん、こっそり貯めてたお小遣いで買うあたり、抜かりないよな……」
――五人で過ごす時間は、あっという間だった。
夕日も地平線の向こうへ傾きはじめた頃、一同は、最後にライトアップされたスカイツリーを見上げていた。
「スカイツリー……間近ではじめてみた……! キレイ〜!」
「……けっ、ハウステンボスのほうが百倍輝いてるね」
「なんで鉄子先輩、そこ張り合うんですかぁ……。ってか、ハウステンボスはズルいですって」
亜仁の言葉の直後、演説らしき声が遠くから聞こえてきた。
途端に、せつな以外の四人は顔を曇らせた。せつなはそんな四人が気にかかり、よくない雰囲気を感じながらも、演説がよりハッキリ聞こえるほうへと移動しはじめた。それに気づいた奈子は止めようとするも間に合わず、四人はせつなのあとを追うことにした。
演説の聞こえるほうへ進むと、広場へと出た。噴水の前で、ボトルコンテナをひっくり返し、その上に立つ仁王立ち姿の、マイク片手に力強く演説をしている成人男性がひとりいた。
その両隣にも大人の男女がひとりずつ立っていて、『税金の無駄! 未来はない!』、『音萌学園の廃校を!』と、書かれた看板をそれぞれ掲げていた。
せつなの胸がチクリと痛む。人々が演説を無視し素通りしていく中、せつなだけは金縛りにあったかのように立ちすくみ、彼の演説に耳を傾けていた。
「音萌学園は悪魔の学園です! 年端もいかない特定の少女だけを集め、彼らは己の欲望をぶちまけ、さらには、その少女を利用し、軍事展開を企てているのです! 我ら国民の血税で、国はまた、繰り返してはならない悲劇を起こそうとしている! 今こそ国民一丸となって立ち上がり、国家を翻すときがきたのです!」
せつなはただ呆然と彼の言葉を聞いていた。
「しかし、少女たちに反抗心はありません。なぜか? それは幼い頃から国家への忠誠心を植え付けられているからです! これは立派な洗脳、犯罪です! 我ら真実を見ることのできる大人が、少女たちを目覚めさせるのです! ――未来ある少女に、自由を!」
彼の演説はまだまだ続く。そのとき、「せつな!」と、せつなは奈子に肩を叩かれた。
「奈子お姉ちゃん……。あの人、おかしなこと言ってるよ。わたし、学園で酷いことなんて、されてないのに」
「聞くんじゃない……いるんだよ、こういう妄想を話す輩が一定数、ね」
奈子は優しくせつなに話し、演説をする彼を見た。
「異能使いはこの国の救世主と国は持て囃しているが違う! そもそも、異能使いさえ生まれなければ、この国があの得体の知れない輩に襲われることはなかったのです! 異能の力が、宇宙人を引き寄せているに違いないのです! 国はそれに気づいているが、未だに策を打たず、異能使いを保護しつづけている、これには、それ相応の理由があるのです! ――そう、少女と宇宙人を巻き込んだ、大戦争です!」
林檎は、演説を聞き入ってしまっているせつなの手を引き、この場から強引に引き剥がす。ほかの三人も、せつなを守るようにして取り囲み、静かに去っていく。
「異能使いの根絶を我らは求めます! そして再び、異能を持たない人々の住まう、平和な国を取り戻しましょう! 畏れも争いもない、平穏な日々を送りましょう!」
せつなは去り際にまた、彼のほうを見た。
彼は左腕を振り上げ、声高らかに宣誓する。
「――未来ある少女に、自由を!」