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【完結済】異能部へようこそっ!  作者: みおゆ
第4話・任務終わりの東京観光!
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任務終わりの東京観光!(1)

「あっちもビル! こっちもビル! そっちもビル! うぅ、ビルジャングルに遭難した〜!!」


 開口一番、せつなはそう叫んだ。


 病院で一晩過ごし、無事に今日退院したせつなは、異能部のみなと鉄子(てつこ)とともに、東京観光を始めていた。


「おっ、落ち着きなさい! わたしたちにはこの地図アプリがあるんだから! ええと、ルミネは……こっち?」

「違うよ、林檎(りんご)ちゃん。ルミネはもうそこだよ〜」


 林檎は亜仁(あに)に指摘され、左側に視線を動かした。そこにはお目当ての商業施設の入口が確かにあった。


「え、駅から出たばっかりなのに……」

「ほぼ駅にあるようなもんだよねぇ、こういうのって」

「さすが東京出身の亜仁先輩は違います! わたしたち田舎者とは格が違うというか!」

「せつなといっしょにしないで! わ、わたしは田舎者じゃないもん!」

「林檎ちゃん、千葉もまあまあ田舎だって〜」

「むむむむ……!」


 せつな、林檎、亜仁は東京観光というのもあってか、テンションが高く会話は盛り上がっていた。対して、奈子(なこ)と鉄子は微笑ましくしながら、その光景を眺めていた。


「楽しそうだな〜。オレは昨日はしゃぎ過ぎたせいか、今日は眠い」

「ははは。なんだかんだ、昨日は後輩のめんどうを見てくれていたもんね」

「そうだぞー。どうしてオレが異能部の後輩を〜。……ま、楽しかったけどさ」


 二人はそんな会話を交わしていると、どうやらせつなたちは商業施設の中へ入っていくようだった。

 奈子と鉄子は後ろから見守るようにあとをついていった。


 その後、ウィンドウショッピングを楽しんでいた一同。せつなはあるブティック店の前で足を止め、最初に目に入った服を手に取った。


「この服かわいい!」


 手に取ったのは、これからの季節にピッタリな涼しげな白のワンピースだ。


「い、いくらくらいするんだろう……?」


 せつなは恐る恐る値札を確認する。次の瞬間、表記された値段を見て目を丸くした。


「い、一万円……」


 絞り出すように紡がれた言葉には、畏怖と絶望が込められていた。


「こ、こんな高い服見たことない……そもそもわたし、だいたい奈子お姉ちゃんのお下がりもらってたし……」

「いいじゃないか、たまには。せつなも新しい服を買ってみるのも」


 震えるせつなに奈子は優しくアドバイスした。しかし、せつなはまたハッとした顔をして、


「な、奈子お姉ちゃん! わたし、そもそもお金持ってない!」


 と、根本的なことに気づき、涙目でそう訴えた。


 そんなせつなを見て、鉄子はせつなの肩に手を回し、耳打ちするようにこう教える。


「知ってか、せつなぁ……。オレらには魔法の生徒手帳があるんだよ……」

「ま、魔法の生徒手帳?」


 鉄子はブレザーの内ポケットから生徒手帳を取り出し、せつなに見せる。


「音萌学園の生徒はな、端的に言えば、全国民の税金で支えられてんだ。日々のソラビト防衛任務があるからな。その報労金の一種として、この生徒手帳がある。買い物のとき、これを見せりゃ学園のほうに請求がいって、代わりに払ってくれるわけよ。つまり、オレらは一切痛い思いをせず、これを好き放題買えるってわけだ」

「す、すごい……! まさに魔法の生徒手帳ですね……!」

「――といっても、使い過ぎると生徒会長からお咎めを食らうから注意しなさい」


 せつなと鉄子の間に入るように、林檎はそう注釈した。


「そう、林檎ちゃんのようにね!」


 そのあと、すぐに亜仁が余計なひとことを言い、林檎に「余計なこと言うなぁ!」と、追いかけまわされていた。


「そもそも、電車に乗った時点で不思議に思わなかったか? 生徒手帳を見せるだけで改札を通れるとか……」


 奈子がせつなに問うと、せつなは「言われてみれば確かに……!」と唸っていた。せつなは今まで、その点に関しては気にしていなかったのだ。


 服を手に取ってから、しばらく悩んだあと、


「……んー。……じゃあ、これ買っちゃおっかな」


 と、決めたせつな。奈子と鉄子は笑顔で頷いた。




 ◇




「……およ」


 生徒会室にて、きんぎょはパソコンの画面を見て呟いた。


「あら、どうされたのです?」


 華乃(かの)は聞くと、きんぎょはパソコンの画面を見せながら言う。


「また異能部がなんか買ったみたい〜。いいな〜、きんぎょもワンピ欲しい〜」

「じゃあ今度、いっしょにネットショッピングしましょうか」

「ネットショッピングもいいけど、きんぎょも東京行きたかった〜。……ま、ムリか。ところでさ、そろそろ止めとく? そこそこ金額いってるけど」

「いいですわ。この子たちが使う額なんて、たかが知れてますから。……それに、楽しめるときには、楽しまないといけませんわ」


 華乃は一度言葉を区切り、紅茶をひとくち飲んでから、再び口を開く。


「――わたしたちの青春は、今しかないんですから」


 華乃は視線を落とすと、カップの中に映る、物思いにふける自分と目が合った。

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