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【完結済】異能部へようこそっ!  作者: みおゆ
第3話・初任務とハプニング
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初任務とハプニング(11)

 白い天井。

 風に吹かれ優しく舞う白いレースのカーテン。

 無機質な電子音だけが響く、静かな空間。


 せつなはゆっくりと目を開けると、まず瞳に映りこんだのは奈子(なこ)の姿だった。

 奈子は起きたせつなに気づき、書き物をしていた手を止め、微笑みかけた。


「おはよう、せつな」


 せつなは笑い返すと、「……ここは?」と質問した。


「都内の病院。せつな、昨日倒れちゃってから、まるまる一日寝ちゃってたんだよ」

「昨日……」


 言われて、せつなは浅草寺でのソラビトとの戦闘がフラッシュバックした。

 最後にあの銃で、撃ち抜かれた瞬間のことも。


「――っ!」


 せつなはほとんど条件反射的に上半身を起こし、胸を押さえ込んだ。撃たれた瞬間のことは覚えていなくとも――撃たれた時の恐怖は、身体がしっかり覚えていた。


「せつな、もう大丈夫だよ」


 奈子はせつなの背をそっと撫でた。せつなもすぐに落ち着きを取り戻し、奈子へ視線を向ける。


「……昨日の戦闘で、せつなは確かに頭と胸を撃ち抜かれて死んだ。だけど不思議なことに、せつなの傷は癒えて、再び鼓動か動き出した。一応そのあと病院へ入ったけど、異常はどこにもないって」

「そ、そんなことが……」

「――普通、起こるわけない。だけど……これが異能の力だったなら、説明はつく。生き返る異能なんて、聞いたことがないけど」


 せつなは視線を落とし、自身の両手を見つめる。


「わたしの異能は、瞬間移動だけじゃなかった……?」

「……ふたつの異能が使えるなんて、今まで前例はないけど……ね。もしかしたら、せつなが初の複数の異能持ちなのかもしれないね」


 そう言われたせつなは、あまりうれしいとも言えず、しかしだからといって、嫌だというわけでもなく、なんだか複雑な気持ちだった。


「詳しいことは、おいおい乃木羽(のぎは)に調べられていくだろうね。せつなも少し覚悟したほうがいいかも」


 からかうような笑みでそう話す奈子に、せつなは頬を膨らませ、すぐに吹き出した。


 ふと、せつなはあることに気づき、奈子へ問う。


「奈子お姉ちゃん。林檎(りんご)先輩と亜仁(あに)先輩……それに、鉄子(てつこ)先輩は?」

「ああ。そろそろ戻ってくるんじゃないかな?」


 奈子は答えて、扉を見やった。ちょうどそのとき、勢いよく扉は開かれた。


「じゃじゃーん。いっぱい食べ物買ってきたよぉ」

「せつな用に、おいしいお店の塩辛買ってきたわ!」

「二年のお守りとか勘弁だぜ、奈子〜。ただでさえ東京は人多いんだからよぉ」


 扉の先には、林檎、亜仁、鉄子が、それぞれ大きな袋を両手に抱えていた。

 三人は目を覚ましているせつなに気づいたのか、たちまち笑顔が広がる――ただ、林檎ひとりだけは、耳を赤くして、笑顔を隠すようにせつなから目を逸らしていた。


「お、せつな! 目ぇ覚ましたか!」


 鉄子は言いながら、どかりとベッドの上へ座った。亜仁も林檎も、せつなの周りへと集まる。


「せつなちゃんが起きたらいっしょに食べようと思って、いろいろおいしそうなもの買ってきたんだよぉ。ほら、好きなの食べて〜」


 亜仁は言って、テーブルの上にお菓子やスイーツ、飲み物など、様々な手土産を並べ出した。


「こんなに……! ありがとうございます! ……あ、そういえば、林檎先輩、塩辛がどうのって言ってましたよね!?」


 さすが塩辛好きのせつな。林檎の言葉を聞き逃すことはなかった。

 林檎はまた顔を赤くして、ぶっきらぼうに塩辛の入った袋を突き出した。せつなはそれを受け取り、中身を覗き見る。


「わぁ! こんなにたくさん!? おいしそう〜!」


 せつなは、まるで宝石でも見ているかのように目を輝かせながら、塩辛を眺めていた。


「えへへ。あとでみんなで食べましょうね!」


 せつなは林檎へ向けて笑顔で言うと、「ま、あなたがそういうなら付き合ってあげるけど……」と、林檎は照れた様子で視線を外したまま答えていた。


「林檎ちゃん、せつなちゃんのためにめちゃくちゃ悩んで選んでたんだよ〜。優しい先輩だよねぇ」

「べっ、別にせつなのためとかじゃない! ずっと元気でなかったら、異能部の活動に支障をきたすでしよ!」


 せつなに寄りかかりながらそう話す亜仁に、林檎はとっさにそう弁明した。素直じゃない性格のようである。


 そんなとき、奈子のスマホが鳴った。スマホには、乃木羽からの着信メッセージが表示されていた。

 奈子は電話に出る。


「こちら異能部部長、三山奈(みやま な)――」

『いやいや、任務外だってのに、挨拶が堅苦しいわよ』


 電話の向こうの乃木羽はそう言って笑った。


『せつなさん、退院してオッケーだって。特に異常も見当たらないしね。経過観察ってことになったわ。……で、これは生徒会長からの伝言なんだけれど』


 一瞬、乃木羽の息の弾む音が小さく聞こえた。


『――ソラビト退治でお疲れだろうし、せっかくだから、東京観光してから帰ってきなさいだって! よかったじゃない、みんな』

「東京観光……!」


 奈子のひとことを聞いて、ほかの四人も察したのだろう。全員が期待に満ちた顔を浮かべていた。


 奈子は乃木羽に礼を述べると、電話を切り、四人を見た。


「せつなは今日で退院。それと、生徒会長からの施しを受けた。一泊二日の東京観光の許可が出たぞ」


 それを聞いた四人は、声を揃えて「やったー!」と叫んだ。


「せつな! 歩いてて知ったんだけどさ、アキバには塩辛専門店的なのもあるらしいぜ。退院祝いに早速行こうぜ!」

「塩辛専門店!? いっ、行きます!!」


 せつなは鼻息を荒くして、ベッドから飛び降り身支度を始めた。

 もうその様子は、普段と変わらない。むしろ、普段よりも元気いっぱいだった。


「……っていうか、てっちゃんたちは電車には乗らずに、アキバまで歩いていたのかい?」

「イエス! いいウォーキングだったぜぃ」


 亜仁のピースサインを受け、元気な後輩たちに笑みがこぼれる奈子であった。

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