初任務とハプニング(8)
「はなのん〜、マジヤバイんですけど〜」
生徒会室へ現れて早々、華乃へと話しかけたのは、きんぎょだった。
「なんかぁ、ソラビトが二体同時に出現したらしくって〜、そのうちの一体が銃? 的なのを使うらしいんだってさ」
「銃」、という言葉を聞いて、華乃と――同じく生徒会室にいた茉莉は、即座に反応を見せた。
「……その銃使いのソラビトは、どこへいるのかしら」
「えっと〜……あ、せんそーじって、乃木羽っちが言ってた。今、せっつーがひとりで対応してるっぽいけど、大丈夫かなぁ? カメラ壊されちゃってるらしくてさ、音声しか拾えなくて、映像は見れないっぽい」
「……わかりました。きんぎょ、白咲さん、今すぐわたくしとともに、ソラビト対策兼司令部へと来なさい」
きんぎょは「……なんで〜?」と言いつつも、華乃のあとをついていく。茉莉はまだその場に留まっていたが、すぐに華乃にその態度に目をつけられ、
「聞こえませんでしたか? あなたもいっしょに来なさい」
と再度命令され、渋々茉莉も華乃についていくこととなった。
ソラビト対策兼司令部へ向かう中、華乃はいつもよりも早いペースで歩きながら、
「そういえば、きんぎょには『ゲハイムニス』の話をしていませんでしたっけ」
と、問うた。同時に、横目で茉莉を見る。
「……白咲さんは、もちろん知っていますわよね?」
茉莉は答えず、華乃を睨み返した。
華乃はまるで小さな子供を相手しているかのように、華麗に茉莉の視線を交わしつつ、きんぎょへと目を向ける。
「あ、なんかそのゲハムハム? 的な話は、こめっちから聞いたことあるかも〜」
「『ゲハムハム』じゃありませんわ、『ゲハイムニス』です」
華乃は訂正を入れてから、「その……『こめっち』とは、誰のことですの?」と質問した。きんぎょは、「米来のことだよー。給養部の」と、なぜわからないのかと言いたげな表情で答えていた。
「……凧坂さんのことでしたか。あなたは生徒たちのことをあだ名で呼ぶので、ピンときませんでしたわ……」
華乃は苦笑し、また真剣な表情を取り繕うと、ゲハイムニスについて語りはじめた。
「ゲハイムニス――人類が初めて作り上げた自律自動操縦型兵器。ソラビトが死に際に遺す、フラウドストーンを元に生み出した、兵器開発の結晶」
「へぇ〜」
「みなさまは都市伝説とばかりに思っているようですけれど、事実、それは存在しているのです。もし、完成がもう少し早ければ――」
華乃はそう言って、悔しげに下唇を噛んだ。
「……あの『肥えた兵器』に、対抗できたかもしれない」
きんぎょは「……コエタヘイキ?」と首を傾げていたが、すぐに聞き流していた。
「とにかく、あの兵器を逃してはならない。四年前、せっかく作り上げた研究の集大成をみすみす逃がしてしまった――国家の失態。それがやっと今、姿を現したのです。回収し、然るべき場所へ戻さねばなりません」
それを聞いた茉莉は「回収って……まさか、アンタせつなに――」と、そこまで口にしたが、華乃は凄みを利かせて茉莉を黙らせた。
そんな会話が交わされるうちに、目的の場所へと到着した。
華乃はノックもせずに扉を開け、部室の中へと入っていく。
物音に気づいたソラビト対策兼司令部員は、一斉に華乃へ注目した。
「業務ご苦労様。話は聞いています。御宅さん、今すぐそのマイクを渡して」
「生徒会長、一体どうしてここへ……」
乃木羽はそう言いつつも、マイクを華乃へと渡した。
「あ! お姉ちゃん……! あの、此乃……」
此乃がそんな華乃の横へ近づきながら話しかけにいくが、華乃は柔らかい笑みを浮かべ、「ちょっと待っていてね。今は時間がないの」と言い、また真剣な表情へ戻すと、そのマイクへ向けて、こう言い放つ。
「こちら生徒会会長、王樹華乃です。せつなさんへ命令します――そのソラビトを、生け捕りにしなさい」