初任務とハプニング(7)
せつなは雷門の前に着地していた。
そこは、何台もの救急車と逃げ惑う人々が交錯し、混乱に包まれていた。
門の向こうでは轟音が聞こえる。この先にソラビトがいるのは間違いない。
せつなはもう一度瞬間移動を使い、仲見世通りをスキップし、一気に浅草寺まで移動した。
果たして、そこにはいた。
あたり一面は銃撃戦でもあったかのように酷く損壊していた――そんな中、ソラビトはちょうど賽銭箱を持ち上げていたところだった。
せつなの訪問に気づいたソラビトは、賽銭箱を適当にそのあたりに投げ落とすと、身体をこちらへ向けた。
「………っ!」
目と目が合い、瞬間、せつなの足が竦む。
さきほどのソラビトと比べればだいぶ小型だが、せつなよりふた回りも大きいソイツは、恐怖心を与えるのに十分な見た目をしていた。人間の少女に似た造型をしているが、右腕はガトリング砲を模した銃器になっており、足首から下は硬い灰色で覆われていた。
明らかに今まで見てきた二体とは雰囲気が違う、とせつなは感じていた。
震える足を抑えるように、せつなは地面を踏みしめる。
ソラビトは何を発するわけでもなく、せつなを見た瞬間、右腕をこちらへ向けた。
「――っ!」
右腕に備わった銃口からは、次々と銃弾が放たれた。せつなは瞬間移動し、ソラビトの背後に回っていたおかげで、なんとか銃弾に晒されずに済んだ。
移動直後、せつなは鎌を横に振りソラビトの首を捉える。しかし、ソラビトはそんな銃器を右手に備えているとは思えないほどの俊敏な動きで、せつなを左手で殴り飛ばした。
あまりの力に、せつなの軽い身体は呆気なく地面の上を転がる。せつなは負けじと顔を上げるが、ソラビトはせつなへ向けて弾丸を放つ直前だった。
「――くっ!」
せつなは瞬間移動を行い、寺の屋根の上へと避難するように移動した。せつなは息を切らしながら、屋根の上からそっとソラビトを見下ろす。ソラビトはせつなを見失ったようで、キョロキョロとあたりを見回していた。
せつなは息を整えつつ、ひたすら思考する。
ソラビトを倒す方法を。
この力の差から逆転する術を。
このまま野放しにしていては、この一帯を壊滅させられかねない。
『――せつな! 生きてるか!?』
突如、奈子が遠隔で話しかけてきた。
せつなは右耳のイヤホンに触れながら、「うん、大丈夫」と答えた。
『よかった。こっちはソラビトの掃討完了したところだ。今からすぐに向かう』
「わかった。わたしも奈子お姉ちゃんが来るまで、なんとか持ちこたえてみせるね」
そのときだった。せつなとソラビトの目が合ってしまった。ソラビトは素早く銃口を向け、発砲を開始する。
せつなは瞬間移動で門の上へと回避するが、ソラビトは予想でもつけていたのかすぐさま門を銃撃し破壊。せつなはその場にいられなくなり、飛び降りるように鉛玉を避けていった。
「――せつな!」
その銃撃の音はもちろん奈子の耳にも届いていた。
奈子は身を乗り出し、運転席にいる鉄子に「早くしてくれ!」と訴えた。
「危ないからちゃんと座ってな! それに、こっちだって限界までスピード上げてんだよ……! ったく、なんだってソラビトが二体なんて……」
奈子は渋々着席し、じっと手を合わせ祈るような仕草を見せた。
「……銃撃音、聞こえたわよね」
ふと、神妙な面持ちで口を開いたのは林檎だ。
「……もしかして……まさか、相手はゲハイムニスじゃないの」
「そんなの! ……根も葉もない噂だよ。……今は、せつなちゃんの無事だけ祈ろうよ」
亜仁はぴしゃりと林檎の言葉を制止しつつも、そっとその手を握った。林檎は俯きながら「ごめんなさい」と、ひとこと謝った。
「……もし、ゲハイムニスが実在するのだとしたら」
それを聞いていた鉄子は、遠く前を向いたまま、呟くように言う。
「――国はまた、愚かな歴史を繰り返すのか……」