初任務とハプニング(5)
異能部一同がヘリコプターから降りたときには、すでにソラビトは県道ヘ足を踏み入れていた。
地面を這うように移動するそいつは、全身青い鱗で覆われており、所々、太陽の光を反射させ輝いていた。その全長は軽く十メートルは超えているであろう。以前、せつなが対峙したソラビトよりも、ひと回り大きい。
ただその巨体ゆえか、動きはあまり早いとも言い難い。これなら、三人と協力すればせつなでも倒せそうなものだった。
『――こちら司令部、練馬咲です』
そのとき、咲からの音声が四人のイヤホンへと飛び込んだ。
『周辺の住民の避難は完了しています。なんとしても、ここでソラビトを食い止めるよう、お願いいたします』
四人は「了解!」と返答し、奈子は一歩前へ出て、指揮を取る。
「林檎は前方へ回り込み道を塞げ! わたしとせつなはソラビトの体力を削る! 亜仁、都度サポートを頼む!」
奈子はひととおり指示を出し終えると、林檎、亜仁は素早く動き出した。
残された奈子とせつな。奈子はソラビトを見据えながら、せつなに話しかける。
「四足歩行型のソラビトだな、動きものろいし、狙いも定めやすい。……だが、倒しにくい点がひとつある。何かわかるか?」
奈子はせつなへと視線を向けた。ソラビトの知識を問われていると理解したせつなは、奈子の質問に答える。
「コア――奴の心臓は腹部にあるため、まずはその隠れたコアを露にさせなければなりません」
「そう、そのとおり。前にせつなはソラロボと模擬戦闘をしたと思うけど、あのセンサーの位置は、実際のソラビトの弱点の位置に倣ったものだったんだ」
奈子はそう悠長に説明するが、せつなは目の前のソラビトに気が気でしかたなかった。今度は、せつなから奈子へ話を投げかける。
「……でも、腹部の下には回り込むのは不可能です。どうやら、おなかを引きずった状態で歩いているようですし……」
せつなの不安の声に、奈子はまったく絆されることなく答える。
「――それは、我が部のエースが解決してくれる」
奈子の視線の先には、ソラビトより先に回り込んでいた、林檎がいた。
林檎の手には弓が握られていた。林檎は狙いを定め、ソラビトの足へ向けて矢を放つ。矢は、ソラビトの足首であろう部分に突き刺さるや、大爆発を巻き起こした。たちまちソラビトは仰け反り、低い悲鳴を上げた。
だが、ソラビトはそれだけで倒れることはない。すぐに地に足をつけようと、体勢を戻しはじめる。
「……っ、もう一発……!」
林檎は再び矢を取りソラビトへ向けるが、ソラビトは攻撃を察知したか、対抗するように背中から蔓のようなものを出し、林檎を襲いはじめた。
「――〈断裂〉」
そのとき、拡声器を通し、亜仁の言葉が放たれる。刹那、ソラビトが伸ばした蔓は、亜仁の言葉通りにバラバラに刻まれた。
「ナイス、亜仁」
林檎は呟き、再び矢を放った。矢はソラビトの胸元部分に突き刺さり、再び爆発が起こる。
二発目は相当堪えたか、ソラビトは絶叫し、身体を翻した。
背中から倒れ、無防備になるその身体。
瞬間、「せつな、今だ!」と、奈子は叫び、双刀を鞘から抜いた。せつなも慌てて大鎌を握りしめ、奈子の言葉を合図に、瞬間移動を使い、ソラビトの真上へと移動した。
一点だけ赤く石化しているものが見えた――その奥に輝いているのがコアだ。すべてを打ち砕く気持ちで、せつなは思い切り鎌を振り下ろした。
手応えはあったが、コアの手前の石化した部分――バリアにヒビが入っただけで、破壊までには至らなかった。せつなは悔しげに顔を歪める。
「上出来だ、せつな」
だが、そんなせつなへ奈子はしっかりとフォローをし、自身の異能を使い、高く舞い上がった。重心を下方へ傾け、風の力を使い加速し、ソラビトへ向けて一直線に剣を叩き込む。
バリアは砕け散り、ソラビトは最後の足掻きの如く咆哮し、脱力した。
奈子は軽々と地面に着地し、三人は奈子の元へと集まる。
「す、すごいです! 奈子部長!」
せつなは目を輝かせながら言った。対して、奈子は――いや、ほかの三人は、未だ戦闘態勢を崩さず、厳しい表情をしていた。
せつなはその雰囲気を察し、緊張状態を取り戻す。
「せつな。まだ気を抜いちゃダメ」
林檎はせつなを制すと、直後、ソラビトの足がピクリと動いた。
「まだコアは生きている……みたいだねぇ」
亜仁は呟き、拡声器を構えたときだ。
『緊急連絡であります! 非常事態でありま〜す!』
と、四人の耳に此乃の焦る声が飛び込んできたのだった。