初任務とハプニング(3)
「課題も無事しゅーりょー! これで自由の身だー!」
先輩たちの手伝いもあって、やっと課題を片づけたせつなは、晴々とした顔をしていた。
「疲れた……こんなので、次の期末試験は平気なのかしら……」
相当せつなの相手に疲弊しきったのか、林檎は頭を抱えつつ、菓子入れからチョコレートをひとつ取り、口に入れた。
「まあまあ、期末試験なんてまだ一か月も先のことだし、心配することないよ〜。わたしたちの使命は何より、ソラビト退治のお仕事なんだからさ〜」
亜仁はソファに寝転がりつつ、そう話し、猫に顔を埋めた。
「そうだな、わたしたちが最優先すべきことは、ソラビトから国を守る――」
奈子が亜仁の言葉を取り持ち、そこまで口にしたときだった。四人全員のスマホが一斉に鳴り出したのだ。遠くから校内のチャイム音が聞こえ、同時に、部室にあった壁掛けスピーカーから、『こちら司令部! 異能部へ出動を命じる!』と、乃木羽の声が響き渡る。
『大村湾にてソラビトの信号をキャッチ。至急、異能部はソラビト掃討にかかれ! 繰り返す――』
乃木羽の指示を皮切りに、部室内の空気は一瞬で緊張感に包まれた。
せつな以外の三人は、一斉にロッカーから戦闘道具を取り出し、慣れた動きで準備をはじめる。そんな中、せつなだけは心ここにあらずといった様子で、ただ動けずに立ち尽くしていた。
「せつな! あなたもさっさと準備なさい!」
林檎の叱責で我に返ったせつなは、慌てて準備に取りかかった。
そんなせつなの背中に、亜仁は、
「せつなちゃん、入部初の実戦だねぇ」
と、声をかけた。
緊張で強ばり、言葉を返せずにいるせつなに、奈子はせつなの右耳に無線イヤホンを取り付けてあげた。
「……な、奈子おねえ――」
「せっかくてっちゃんが用意してくれたんだから、イヤホンも忘れちゃダメだよ。これは大事な連絡手段なんだから」
せつなは頷き、最後に、鉄子がくれた、あの大鎌を背負った。
これで、戦闘へ向かう準備は整った。
奈子を前にして、三人は横並びに整列する。奈子は三人を一瞥して、言う。
「これより、ソラビト掃討のため大村湾へと出動する! みな、準備に不足がないか確認は完了しているな」
三人は頷き、奈子の表情はより真剣味を帯び、大きく息を吸った。
「出発前の点呼! 一!」
奈子の点呼指示を受け、次々と、
「二!」
「三!」
林檎、亜仁の順と声を発した。そして、最後に順番の回ってきたせつなは胸を張り、答える。
「――四! 異能部全員、準備万全であります!」
奈子は力強く、「了解! 行こう、みんな!」と応え、部室を出た。
奈子につづく形で、早速現場へ向かうせつなたち。
「あ、あの……質問なんだけど……」
「せつな、もう任務は始まっている。私語は慎みなさい」
奈子に窘められ、せつなは、「な、奈子部長。質問です」と、言い直す。
「大村湾まで、一体どうやって向かうのでしょうか。今から船がくるとか……ですかね?」
ここは孤島に浮かぶ学園だ。ソラビトの現場まで、徒歩で行けるはずもない。せつなの疑問はごもっともだ。
「ふふふ、せつなちゃん。船なんかよりも、もっといい乗り物があるんだぜぃ」
亜仁は言って、見えてきた浜辺の先を視線で指した。そこには、一台のヘリコプターが止まっていた。
「へ、ヘリコプター!?」
せつなは驚きの声を上げつつ、先輩たちにつづいてヘリコプターへと乗り込む。運転席に座っていたのは、なんと――。
「てっちゃん、今日もよろしく頼んだぞ」
「いやマジ、十代の乙女にこんなことやらせるのかって話」
――鉄子だった。
「て、鉄子先輩!?」
「いちいち驚くなよ、新入生……っていうのも、もう時期違いか。ま、しっかり捕まりな。飛ばすぜ〜」
鉄子はやや気の抜けた調子で話しつつ、次の瞬間、ヘリは大空へと舞い上がったのだった。