表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】異能部へようこそっ!  作者: みおゆ
第2話・学園探険
18/110

学園探険(12)

「ん〜、おいしい〜!」

「はい! わたし、あまりとんこつは好きじゃないんですが……これはすっごくおいしいです!」

「わかるよ、くるるさん。とんこつなのに味がサッパリしてるんだよね」


 米来(まいらい)の計らい(歩煎(ほせ)は強制的に米来の意向に従わされるという形)で、三人はテラス席で本日のランチメニューである、『音萌(おともえ)特製ラーメン』を食していた。


「うまいやろ! ウチがこだわり抜いた自慢のラーメンや!」


 米来は誇らしそうに胸を張って言った。


「……タコ部長、夕食の仕込みもありますし、長話は勘弁ッスよ……」


 そんな米来の背後から、歩煎が暗い表情で現れた。


「なんや、せっかく新入生が来たんに暗い顔して〜。歩煎も今日から先輩なんやで!」

「嫌だ……先輩なんて重圧(プレッシャー)かけないで……そもそもボクはこんな学園入りたくなかったんだ……なのに、なんでこんなボクが選ばれることに……きっとこの大人しさに漬け込んで、こんなブラック部活で働かせることが目的で……くっ!」


 歩煎はたちまち顔を青くして、部室内へと逃げ込んでしまった。


「あー! ちゃんと新入生ちゃんとも話さな……っ、もう! また厨房へ逃げたな! ……ごめんな、二人とも。歩煎はな、人前で話すの苦手やねん。でもな、二人のこと、嫌いっちゅーわけやないから……」


 米来は困ったように頬に手を当てていた。


「あ、あんまり学園が好きじゃないんでしょうか……」


 くるるは歩煎が消えていったほうを見ながら言った。


「ちゃうで。歩煎は元々性格(キャラ)がああなだけや。入部してきたときも、最初の言葉が『退部させていただきます』だったからなぁ」

「それはどう受け取っていいんでしょう……」


 くるるは困り顔だった。


「でもな、歩煎は表はあんな感じやけど、実際はいい子やし、優しいし、料理に対してはめっちゃ真摯なやつやねん。……ほら」


 米来は背後へと視線を送る。そこには、トレーを持って、こっそりとせつなたちの様子を伺っている歩煎がいた。さっきはただ逃げていっただけかと思われたが、本来は別の目的があったのだろうか。


「歩煎先輩!」


 せつなが言うと、歩煎は「ひっ……!」と小さく悲鳴を上げ、肩を震わせた。


「歩煎、大丈夫やからおいで」


 米来のひと声で、歩煎はゆっくりとせつなたちの前へ現れた。トレーの上には、四つのシュークリームが置かれていた。


「……しょ、しょっぱいもののあとは、甘いものがいいかなって……。食感の軽いシュークリームがオススメかと思って持ってきたんだけど……あ、でも、カロリーオーバーとかそういうのがあったら――」

「わーい! いただきまーす!」


 歩煎の言葉を待ちきれず、せつなは堪らずシュークリームを手に取った。くるるも奈子(なこ)も、せつなに続いてシュークリームを手に取り頬張る。


「……! これ、今までで食べたシュークリームの中で一番おいしい!」

「クリームが最高です〜」

「歩煎、もしかして新作? これもすごくおいしいよ! 林檎(りんご)も気に入りそうだ」


 三人から口々に称賛の声を受け、歩煎の真っ白な肌はあっという間に赤く染まりあがっていた。

 米来はそんな歩煎を温かく見守りながら、ふとシュークリームがまだひとつ残っていることに気づいた。


「およ? 歩煎、そのシュークリーム一個残っとるけど……」


 歩煎はハッとし、恥ずかしそうに目線を下に逸らしながら、おずおずと米来へシュークリームを差し出した。


「あ! もしかしてウチの分なん? おおきに〜」


 米来は早速シュークリームをひとくち食べた。歩煎はじっと、上目遣いで米来を見つめている。


 米来は食べた瞬間、パッと顔が明るくなり、


「これめっちゃウマイで! 生地の口当たりも最高や! カスタード以外にも、バリエーションが増えるといいかもなぁ」


 と、褒め言葉とアドバイスを歩煎へと送った。

 歩煎はここで初めて控えめな笑顔を見せ、そのまま部室内へと駆け込んでいった。


「あら、またどこかへ行ってしまいました……」


 と、くるるは呟いた。


 米来はまた心配の色を浮かべる後輩二人に、「ちょっと来てや」と、手招きすると、カウンター奥の扉の前まで連れていった。米来は、音を立てないようにゆっくりと扉を少しだけ開き、一同はこっそりと覗くような姿勢を取る。扉の奥は、どうやら厨房だったようだ。その片隅でひとり、懸命にメモをしながら料理をしている歩煎がいた。

 その歩煎の横顔は――さっきまでとは別人のように、やる気に満ちた表情(かお)をしていた。


「歩煎はな、一見根暗な感じ出しとるけど、本当はちゃう。スイーツ作りが大好きな、天才少女なんよ。ウチは歩煎のあの顔を見てるのが、一番好きやねん」


 米来は言って、そっと扉を閉めた。


「休みない……ちゅーのは実際ホンマや。でも、それは学園給養部(ここ)だけの話やない、ほかの部だってそうや。ソラビトから国を守るため、毎日気の抜けない日々を送らなアカン。ウチらはな、食事っちゅー形でそんなみんなの支えになるんや。それは嫌なことやない、誇るべき仕事(こと)や」


 米来は、せつなとくるるへ視線を移す。


「だからな、アンタら二人も疲れたら遠慮なくここへ来てや。ウチらの料理食べて、笑顔になってくれるのが何よりもうれしい。それは、歩煎(あの子)も同じ」


 米来は最後に、「二人とも無理せず頑張ってや」という言葉で、話を締めくくった。


 せつなとくるるは、改めて身を引き締めた思いで「はい!」と、返事した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ