学園探険(11)
奈子に案内されるまま、学園給養部へついた。
学園給養部は校舎の内のとある教室などではなく、島の敷地内に独立して建てられていた。寮の近くにそれはあり、木々の中に溶け込むように、まるで隠れ家のような佇まいであった。ライトグリーンと白のストライプ模様のオーニングの下を通り扉の奥へと進むと、観葉植物で彩られた緑あふれる空間が広がっていた。ソファ席やテーブル席などがあり、入口すぐそばにはカウンターがあった。まるで宝石が並べられたかのように美しくきれいなスイーツが、カウンターのショーウィンドウの中に並べられていた。また、部室の一面はガラス張りになっており、その向こう側には庭園が一望できる、テラス席になっていた。
部室、と呼ぶにはあまりにも不釣り合いなくらい豪華な場所だが、ここが正真正銘、学園給養部のエリアらしい。
せつなとくるるは、途端に目を輝かせた。
「オシャレ〜! こ、ここで毎日ごはんが食べられるの!?」
「贅沢すぎます〜!」
そんな二人に奈子は微笑ましくしながら、
「ここは給養部員だけに限らず、一日中好きな時間に利用可能だよ。お腹が空いたらここへ来るもよし、ちょっとおやつを食べながらのんびりしたいときとかも来るもよし、授業の時間以外だったら、いつでも自由に過ごせるんだ」
と、説明した。
「へぇ〜、なんていい設備……! 音萌学園って、やっぱり噂どおりのすごい学園なんですね……!」
くるるはこの給養部が気に入ったようで、うっとりとした表情で内観を見渡していた。
すると、カウンター奥の扉から突然、ひとりの少女が顔を出した。
「よーぉ、どしたん? こんなに集まって。今日は休みの日やで〜」
毛先を金髪にしたショートカットの少女は、エプロンのポケットに手を突っ込みながら、そう言ってきた。その髪型に加えて、ヒョウ柄のエプロンを身につけているところから、かなり派手なファションセンスを持っているのだと伺える。
少女から休みだと宣告されたせつなとくるるは、
「「えー!? お休みなんですかっ!?」」
と、声を揃えてガッカリしていた。
「お、お休みだって!?」
そんな二人とは対照的に、休みと聞いて喜んでカウンターの奥にある扉から飛び出してきた少女がもうひとり。
その子は、糸目が特徴の幸薄い顔という印象のある少女だった。目の下には、くっきりとクマもできてしまっている。さきほどの派手な少女と同様に、こちらは黒のチェック柄の落ち着いたエプロンを身につけていた。
派手な少女はそんな三人のリアクションを受けて、
「な〜んてな。休みなんてウソやで! ウチは年中無休やからな!」
と、大きな声で笑ってみせた。
喜びを取り戻すせつなとくるる、一方、糸目の少女は一気に気分が落ち込んだ様子で、この世の終わりのような表情を浮かべていた。
「……クソっ、関西人のクセにつまらない冗談言いやがって……! やっぱり、ボクらに休みはないんだ……。期待したボクがバカだった。ああ……どうしてこんなクソブラックな部に……部活ガチャミスった……」
糸目の少女は頭を抱えてしゃがみこみ、ブツブツと呟きはじめてしまう。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
せつなは糸目の少女を見ながら尋ねると、派手なほうの少女が、「あー気にせんといて! いつものことやから!」と答えた。
「そういやそこにいる二人、今日入学してきたっちゅー、新一年生やんな? ウチは三年、学園給養部部長、凧坂米来や! ここでみんなのごはん作るお仕事してるんやで〜。よろしくな!」
それからとばかりに、米来はすっかり内に塞ぎ込んでしまっている糸目の少女の肩を叩きながら、話を続ける。
「――んで、こっちが二年の墨田歩煎や。ここに並んでるお菓子は、み〜んな歩煎が作ってるんやで。すごいやろ? ウチの自慢の後輩や!」
紹介されていた歩煎は、鬱陶しそうに米来を睨んでいた。
「あ、あんまり仲良くないんですかね……?」
くるるは、せつなにしか聞こえない声で、心配そうにそう言った。せつなもそれに関しては否定することはできなかった。
「ま、こんなところで立ち話もなんやし、こっち来てや。もちろん、挨拶だけ来たわけやなくて、ごはん食べに来たんやろ?」
「ちなみに今日のランチメニューは『音萌特製ラーメン』やで」と米来は言うと、せつなとくるるは、また目を輝かせた。