学園探険(10)
「ああ〜! オレの18号が〜!」
訓練室の床下へ向かって、悲痛な叫びを上げているのは鉄子だ。
床下へ落ちていったソラロボは、その形を崩してしまい、それぞれのパーツがバラバラになってしまっていた。
「まったく! 床下に落としていいなんてルール、なかっただろ!」
「床下に落とすな、というルールもなかっただろ」
「ムキー!」
鉄子は文句を言ったが、すぐに奈子に一蹴されてしまい、その場で地団駄を踏んだ。
奈子はそんな鉄子を無視して、せつなを見た。
「にしても、鉄子のイジワルに対して、よくあんな返し思いついたな」
「えへへ。火事場の馬鹿力ってやつかな?」
奈子に褒められ照れるせつなに、鉄子は「どっちかっていうと窮すれば通ず、だろ」と横槍をいれると、ソラロボに対してもう吹っ切れたのか、部室内へと戻っていった。
せつなと奈子も鉄子に続いて部室へと移動すると、鉄子はせつなのほうを振り向いた。
「……ま、協力ありがとう。武器の威力、耐久力……いろいろ見れたよ。十分、実戦でも使える武器だとわかった」
「いえ! よかったです! ……では、これはお返しします」
せつなは武器を返そうとすると、鉄子はそれを拒んだ。
「……いい。それはお前にやる。なんだかんだ相性よさそうだしな」
「いいんですか!?」
「元々異能部の新入部員が来たら支給しなくちゃいけないやつなんだ。持ってけ持ってけ」
せつなは自分の与えられた武器をもらい、喜びで胸がいっぱいになった。
「後日、ほかの装備品は完成次第支給する。……ま、なんだ、これから実際にソラビトと戦うことになるだろうが……頑張れよ」
せつなは「はい!」と返事し、奈子とともに武具制作部をあとにした。
◇
武具制作部を出てから、プツンと緊張の糸が切れたせいか、途端に力の抜けたせつなは奈子にもたれかかった。
奈子はそんなせつなを見て微笑みながら、
「……本当によくできました。たくさん異能を使ったせいで疲れただろう」
そう言葉をかけ、せつなの頭を撫でた。
「……うん。それに、なんかお腹空いちゃった。わたし、朝ごはんは塩辛丼二杯しか食べてないんだよ」
「結構食べてると思うが……塩分摂取量が心配になるな」
奈子は苦笑いを浮かべてから、自身の腕時計をチラリと見る。時刻はもう十三時を回ろうとしていた。
「じゃあ、次はランチにしようか」
「ごはん!!」
奈子は、あまりのせつなの食いつきっぷりに笑った。
一階へ移動すると、ちょうどくるるの姿が見えた。
くるるもせつなたちに気づいたようで、「あー! やっと見つけましたー!」と声を上げながら、二人の元へ駆け寄った。
「此乃先輩からやっと解放されたと思ったら、二人がいなくなっててさびしかったです〜。一体、どこにいたんですか〜……」
涙目で訴えるくるるに、せつなと奈子は口を揃えてただただ謝った。
くるるは「まあ別にいいですけれど……」と言いながら、ふと目線をあげたとき、ようやくせつなの持っていた大鎌を認識したのか、「わわっ!? し、死神!?」と驚いた。
「死神じゃないよー! いわれてみれば、そう見えるかもだけど……」
せつなは自分より頭一つ分も大きい鎌の刃を見つめて、そう言った。くるるの言うとおり、その武器のイメージから、『死神』といわれてもしかたないのかもしれない。
せつなは気を取り直して、さきほどまでのことを話しはじめる。
「実はね、奈子お姉ちゃんと武具製作部へ行ってきてたの。この武器はね、武具製作部の鉄子先輩からもらったの!」
「武具製作部? ……というかせつなさん、先輩ですよ!」
「あ、ごめん!」
せつなは慌てて口に手を当て、奈子を見た。奈子はやれやれと肩を竦めて笑った。
「えっと、奈子おね……部長は、昔からお姉ちゃんみたいな存在で……そのへんはあとで話すね。あ、そうそう! わたしたち、今からお昼ごはんを食べに行くんだ! くるるちゃんもいっしょに行こう!」
くるるはパァっ、と顔を明るくさせた。
「わたしもお腹ペコペコだったところです。ぜひ連れていってください!」
こうしてくるると合流したせつなたちは、この学園の食堂だという、『学園給養部』へと向かった。