学園探険(8)
ソラロボは床を蹴りあげ、今にもせつなにのしかかろうとしていた。
「…………っ!」
せつなはとっさに右に避け、ソラロボの攻撃を回避し、
「落ち着けわたし! わたしには、この異能があるんだから!」
と自分を鼓舞し、その場から姿を消した。そして次の瞬間には、せつなはソラロボの背後を取るように、天井高くの位置に移動していた。
実際に瞬間移動移動を目の当たりにした鉄子は、「おぉっ!」と驚嘆の声を上げた。同時に、鉄子の『いっしょに武器も瞬間移動するのか』という疑問は解消されたことになる。せつなは瞬間移動後も、しっかりと武器を構えたままだったからだ。
一方、奈子は、せつなの次の動きを、じっと見守っている。
「やあぁぁぁぁあぁっ!!」
せつなは重力に従って落下しつつ、ソラロボの背中に鎌を振り下ろした。鎌は背中に傷をつけることには成功したが、根本的なダメージにはなっていない。
「……っ、まだまだ!」
せつなは床に降り立つとともに、次の行動へと打って出る。
「せつなの異能の影響で、武器にも何か異常が出るかと思ったが、それはなさそうだな」
「ああ。武器は問題ないが、せつなの武器の扱いはまだまだだ。力の入れ方がなってない。あれじゃ、ロボットの塗装を剥がしているだけだ」
鉄子はコントローラーの手を動かしつつも、真剣に後輩を見守る奈子を横目でチラリと見た。
「……言うようになったな。お前も一年のときはダメダメだった癖に」
「それを言うなら鉄子だってそうだろ。……しかし、来年からはどうなるんだろうな。せめて来年には武具製作部に新入部員が入ってもらわないと、それこそ異能部の武器が供給されなくなってしまう」
「そうなったら素手で戦うしかないだろ。……もしくは、今度はしっかりと雇用という形で、オレが武具製作部に就職してもいいぞ」
「はは。それはいいな。そしたら、わたしも……」
奈子はそこまで話して、言葉を切った。
「……異能は、少女だけしか使えない。……だったっけ」
鉄子に言われて、奈子は静かに頷いた。
「思春期を迎える一部の少女にのみ、突如異能が使えるようになる。……だが、思春期を過ぎるとともに、この異能はなくなる……原因は未だに解明されていないけど、不思議な現象だよね。……わたしも、今年いっぱいでこの異能ともお別れかな」
奈子は話しながら、懸命にソラロボと戦うせつなを見つめた。
「……ま、いつかあのオタクメガネが、異能を永遠に使えるようになんて発明を思いつくかもしれないぜ? 今もあそこから、せつなの様子を観察しているんだろうしさ」
そう言って、鉄子は訓練室の天井隅にある、一台のカメラに視線をやった。
「よく生徒会長は、防犯カメラの映像を観る権限をソラケン部に渡したものだね」
「まあ、訓練室の映像だけだけどな。あのオタクメガネなら、異能に関する新情報を発見をしてくれるかもって思ったんじゃないか? 国家もそれを期待して、アイツを入学させたんだろうし」
鉄子は、「そんなことより、今は新入生ちゃんとのバトルだ」と、再度コントローラーを握る手に力を込めた。
◇
――場面は変わって、ソラビト対策兼司令部にて。
「キャー! これはすごいわ! 瞬間移動は異能力者の触れる範囲すべてに適用されるのね……。でも、よく考えたらそうよね。瞬間移動の効果が異能力者本人だけだったら、彼女は異能を使う度に、服はその場に留まってしまって、移動先で全裸になっているはずだもの! ふむふむ、この異能が応用できれば、あのどこでも行けちゃうドアだって作れちゃうかも! ……はっ、も、もし、わたしが彼女と手を繋いだ状態で異能を使ったらどうなるのかしら? 武器が大丈夫なら、わたしもいっしょに瞬間移動移動することが理論上可能……よね? ……うふふ、今度彼女と手を繋がせてもらわなくっちゃ。……いえ、この際だわ。身体検査も兼ねて、手を繋ぐだけじゃなくて……うふふふふ」
「副部長! 部長がひとりでブツブツうるさくて、気持ち悪いであります!」
「いつものことですから、放っておきなさい。くるるさんとは、仲直りしましたか?」
「とりあえずは許してやったであります! 此乃は先輩なので、あのちんちくりんよりも寛大なのであります!」
「寛大なのはくるるさんでは……。いえ、なんでもありません。今日のお昼ご飯、何を食べましょうか」
せつなが訓練室でソラロボと奮闘する中、そんな会話が繰り広げられていた。