学園探険(6)
せつなと奈子は、地下へと続く階段を降りていた。
「が、学園に地下があるなんて珍しいね」
少ない明かりだけで照らされた、薄暗い道。せつなはいつも以上に、奈子の手を強く握っていた。
「ああ、次へ向かうのは『武具製作部』だ。わたしたちがソラビトと戦うための武器や装備を製作している部だよ。作業上、地下のほうが好都合らしい。騒音も外へ漏れることはないしな」
地下一階へ降りた先には、すぐに鉄製の扉が見えた。木造造りの学園だが、ここだけへコンクリートの壁と床で覆われた無機質な空間が広がっていて、ここだけ見たら誰も学園の施設のひとつだなんて思わないだろう。
扉には、『無許可で立ち入ることを禁ずる!!』と、荒々しい筆文字で書かれたポスターが貼られていた。せつなは、「……入っても大丈夫なの?」と奈子に聞いたが、「ああ、平気さ」と、答えただけで、ポスターのことは特に気にも留めていないようだった。
奈子は扉を解き放つ。
「やあ! てっちゃん、遊びに来たよ」
「〜〜〜〜〜!!!」
突然の訪問を受け、声にもならない叫びをあげた、「てっちゃん」と呼ばれた少女。
作業服を身にまとい、右手にははんだごてが握られているのを見るに、何か作業中だったのだろう。
少女はゴーグルの奥から奈子を睨みつけ、一度作業を中断し、ガントレットを脱ぎ捨てながらズカズカと奈子の前に立ちはだかった。
「――奈子! お前は扉にあった文字が読めないのか!!」
「紹介するよ。新入生の尾張せつなだ」
「おい! 無視するな!」
喚いていた少女だったが、次第に諦めがついたのか苛立つのをやめ、代わりに深いため息をついた。それから、すっかり奈子の後ろに隠れてしまったせつなを見て、こう言う。
「三年、唐栗鉄子だ。えーっと、見てのとおり、たったひとりの武具製作部員だ。……で、せつなだったな。お前、所属は?」
奈子に優しく肩を叩かれ、せつなは前に出て、「一年、異能部所属、です」と答えた。
鉄子は、「奈子に連れられているから、そうだと思ったよ」と呟いた。
「無愛想な奴だなー。そんなにわたしらがここへ来るのが嫌だったのか」
「違う! 作業中に邪魔されたのが気に食わないんだ! こっちは扉に注意書きまでしてあったのに!」
鉄子は言い切ったあと、肩で息をしていた。
「あの、何を作ってたんですか?」
せつなは少しでも鉄子のことを知りたいと、勇気を出してそう質問した。
その質問がよかったのか、鉄子はたちまち笑みを浮かべた。
「あれか? 実は武器の新作を作っていてな。……そうだ! 今年も無事、異能部の新入部員が入ってきたことだし……せつな! この試作品を使ってみてくれ!」
「えぇ!? わ、わたしがですか!?」
「ほらほら!」
せつなは鉄子に手を引かれ、ガラスの向こうに見える、さらに奥の部屋へと案内された。
「……!」
その広さに、せつなは圧巻された。
ここもコンクリートの壁に囲まれた特に何もない場所だが、通常の学校の体育館二つ分はあろうかという広さに、ただ天井を見上げてしまっていた。
「こんな広い場所があるんですね……!」
「異能部が実戦でも動けるようにな、武器を使った演習をする場所だ。いわば『訓練室』ってやつだよ。同時に、ここで武器の試作の出来も確認している」
「ここは訓練するための設備がいろいろと整っていてね、ソラビト出ない日は、基本的に異能部はここで活動することになる」
「そうな……そうなんですね!」
思わず奈子の言葉を受けて、口調を崩してしまいそうになったせつなだったが、慌てて敬語に直し、返事した。
「んじゃ、ちょっくら武器の仕上げに入るからさ。終わったら、試作品の試しに協力してくれ」
「わ、わたし、できますかね……?」
「むしろ、できてもらわなきゃ困るよ。異能部に入っちまったんだ。どうせいずれはソラビトと戦うことになるんだからさ」
鉄子は言って、作業場へと戻っていった。鉄子にそう言われてはしかたないと、せつなは腹を決めた。
「そういえば、奈子お姉ちゃんもちょっと変わった靴履いてるね。保健部に向かっている時も、確か『てっちゃんの功績』とか言っていたけど……これも、鉄子先輩が作ったの?」
鉄子不在もあってだろう、せつなはすっかり『奈子お姉ちゃん』呼びだ。しかし、せつなの言うとおり、奈子は学園指定の革靴ではなく、白が基調の天使の羽のようなデザインが施されたスニーカーを履いていた。
「あ、そういやそのまんまで来ちゃった。……そうだよ。てっちゃんが一年の時にさ、当時いた武具製作部の部長から教わりながら作ってくれたんだ。このおかげで異能の力を効率よく足へ運んで、高く飛び上がることができるんだ。今じゃわたしの宝物だよ」
「……わたしも鉄子先輩にステキな武具、もらえるかなぁ」
「てっちゃんのセンスは絶対さ。楽しみだね」
そんな会話をしていると、鉄子が戻ってきた。
「よし、完成したぞ! 早速だが、使ってみてくれ!」
鉄子が手にしていたのは、鉄子の背丈と同じくらいの一丁の大鎌だった。