異能部へようこそっ! (4)
「部活、そろそろ決めなきゃいけないと思うの!」
食堂のテラスでそう切り出したのは赤髪の少女だった。
「え〜まだ別にいいんじゃない?」
気だるそうに返すのはタレ目の少女。
「いや、林檎のいうこともアリかもしれない」
キリッとした瞳の褐色の少女はそう答えた。
三人は今年音萌学園に入学してきた新入生三人だろう。今後のことについて語り合っている様子だった。
「はい、お待ち! ウチの作る米来特製『音萌』ラーメンや! 食べてき!」
そこへ、別の生徒が三人の輪へ入ってきた。
溌剌とした関西弁の少女は三人のテーブルにラーメンを置き、満足げに笑いかける。
「え……わたし、ラーメン頼んでないですけど……」
「ボクも……奈子ちゃんは?」
「いや、わたしも頼んでない」
途端に困惑する三人。するとそこへ、もうひとりの少女がやってきた。
「ちょっとタコ部長! 勝手に料理配らないでほしいッス!」
慌てた様子で米来を止めに来た糸目の少女は、「すまないッス!」と三人に頭を下げた。
「タコ部長ったら……勝手に自分の料理作ってはみんなに振舞って……!」
「いいやろ歩煎! これで料理部の名も上がったりや!」
「押し売りじゃ名も上がるどころか下がるッスよ! マジ頭どうかしてんじゃないッスか!?」
「なんやて!?」
その瞬間、たちまちケンカモードに入る二人。言い争う二人から、新入生三人はそっと距離を取り、食堂を出たあとで、赤髪の――林檎と呼ばれていた少女は呟く。
「部活動……少なくとも、料理部はやめたほうがいいかも」
「ボクも同意だなぁ」
「ああ、わたしも亜仁と同じく、だな」
校舎へ戻る中で、「まあ部活は料理部だけじゃないはずだ。ほかにも部活動を見学して回ろうか、もしかしたら気になるものと出会えるかもしれないし」と褐色の少女――奈子は提案し、残り二人は「「了解」」と声を合わせて返すのだった。
「……あれ? 『了解』?」
「ボクら普段そんなこと言わないのにねぇ……?」
「ふむ。でもなんだかすごくしっくり来たな」
三人は首を傾げつつも、すぐにそんなことを気にすることなく、部活巡りに戻った。
◇
まず向かったのは、オカルト部だ。
「あらよく来たわね! ここはオカルト部よ! わたしは部長の御宅乃木羽! あなたも未知の生物に興味はない!? あのね、この島には巨大なムカデとか、巨大な亀とか、毛玉の生物とか――」
「うぅ……部長! うるさくて昼寝できないであります!」
「此乃、ここはお昼寝をするところじゃありませんよ。……あ、わたしは練馬咲といいます。言っておきますけれど、この部に入ったら毎日この部長のオカルト話を聞く羽目になりますから、やめたほうがいいですよ」
乃木羽は今もなお未確認生物について熱く語っている。奈子たちは自分たちには合わないと判断し、部室を出た。
次に向かったのは、サバゲー部だ。
「やあ、よく来たね。わたしは部長のカナメ。高等部一年だ。……で、こっちで武器作りに集中しているのは、中等部三年の鉄子だ。ま、見てのとおり二人だけでね。サバゲー部と言いつつ、実際は武器いじりをして趣味を楽しんでるだけさ」
カナメに紹介された鉄子はゴーグルを外しながら、奈子たちを一瞥した。
「唐栗鉄子だ。お前ら、入るのは勝手だけどよ、俺の武器作りの邪魔すんなよな」
無愛想に挨拶する鉄子にカナメは注意してから、奈子たちを見た。
「すまないね、どうも気難しい性格なんだ。本当は優しい子なんだけどね」
「部長! そういうのいいッスから!」
「あはは、ごめんごめん」
奈子たちはしばらくサバゲー部について話を聞いたり見学させてもらったが、どうにも自分たちに合う感じもせず、入部はしないことに決めた。
「見学させてもらったのにすみません。でも、また遊びに来ます」
奈子はそう言って、最後にチラリと鉄子を見た。鉄子は一瞬キョトンとし、また武器へと視線を戻した。
サバゲー部をあとにし、次はどの部へ見学するか相談する奈子たち。
「文化部はやめて、運動部系行ってみる?」
「えー、でもボク、運動は苦手だよぉ……」
「……あ。そういえば、離れにプレハブ小屋があったよな。あそこも確か部室らしいけど……」
「部室? なんの?」と聞く林檎に、奈子は「忘れてしまった、なんだったかな……」と天井を見上げた。
「わからないなら行ってみようよぉ。意外とそれが縁のある部活かも」
「確かにそうね」
「行ってみるか」
タレ目の少女――亜仁の提案により、こうして三人が次に向かったのは、校舎の離れにある、海辺の近くに設置されたプレハブ小屋。
表札もなく、なんの部なのかは外観だけではさっぱりわからない。奈子は緊張した面持ちで扉をノックし、「失礼します」と中へ入った。
――中にいたのは少女ひとりだけ。
部室は小さなテレビがひとつあり、くつろげるソファスペース。本棚にはマンガが並べられており、テーブルにはいろいろな種類のお菓子が置かれていた。
少女は奈子たちが来るのを見るなり、明るい笑顔で迎え入れた。
「こんにちは! あなたたちも、部活に興味があって来たのかな?」
「はい。……えっと、ここの部活は一体何を……?」
奈子が問うと、少女はそうだったねと言って、この部について説明をしてくれた。
「ここは『異能部』。かつて存在していた異能について研究している部活だよ」
「異能……確か、昔そういう超常現象的な力があったかもっていわれてますよねぇ」と、亜仁は相槌を入れた。
「それって結局作り話よ! そんな力、どうやったって説明つかないもの! ここもオカルト部みたいなもんじゃない!」
「まあまあ林檎。『ない』というのも証明できていないんだ、そう突っかかるな。……すみません、いきなり失礼を」
少女は微笑み、「ううん。変わらなくて、安心した」と答えた。林檎は怪訝そうに「変わらない?」と眉を顰めたが、一旦受け流した。
「まあ、そんな感じなんだけど……いっしょにどうかな? 異能の力自体ってね、面白くて素敵なものばかりなんだよ。ね、いっしょに研究してみない?」
そう問いかける少女に、奈子たち三人は顔を見合せた。
「まあ……ここ、なんだか落ち着くし、ちょっとアリ……かなぁ?」
「……異能とか興味ないけど、そこにあるお菓子が毎日食べ放題なら、入ってみたいかも!」
「お菓子って……。まあ、わたしも二人が入るならここにしようかな。それに……」
奈子は少女を見つめた。
「よくわからないけど、この人といっしょにいれるのが……なんだかすごくうれしいんだ」
少女はその言葉を聞いて、一瞬唇を震わせた。
少女はそれからとびきりの笑顔を見せ、「なら、決まりだね!」と、たんと手を叩いた。
「――わたし、ここの部長の尾張せつな! ずっとひとりだけの部員だったんだけど……わたしも、また会えてうれしいよ」
せつなは大きく腕を広げ、三人をいっぺんに抱き締めた。それから、少し湿った声でこう言うのだ。
「――異能部へようこそっ!」