異能部へようこそっ! (2)
「もう! 早く走りなさいよ!」
「ご、ごめんなさい〜、片づけに手間取っちゃって〜」
寮での準備に手間取り、時間ギリギリとなってしまったが、なんとか入学式に間に合ったくるると茉莉。
指定された席に着席し、二人はホッとひと息ついた。
「まったく、アンタってばのろいのよ」
「む〜。でも茉莉さんだって、明莉先輩にベッタリしてたじゃないですか」
「……」
茉莉は押し黙り、目を逸らしてしまった。そんなとき、後ろから何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「あ、それもしかしてお菓子〜?」
「ダメ! これはあげないわよ! 長ったらしい校長の話に耐えるために食べるんだから!」
「こら、そもそもお菓子を持ち込むなんてダメだろう、わたしが没収する」
やいやいと後ろで騒ぐ三人組。
茉莉は最早注意する気にもなれず、深いため息をついた。
「あんなのが同じ新入生なんて恥ずかしいわ……」
「あはは……まあ、仲良さそうで何よりじゃないですか」
そのとき、講堂の電気が落ちた。入学式が始まったことを察した茉莉とくるるは意識を壇上へ向ける。後ろの三人組もすっかり静かになっていた。
舞台袖からひとりの少女が現れ、その姿は照らされた。照明は少女の歩みに合わせて移動し、やがて演台の位置でピタリと止まる。
演台に両手を置き、新入生を見つめる少女。その瞳には力強さがあり、凛とした佇まいはある種の風格を感じられた。
「新入生のみなさん、はじめまして。わたくしは、この音萌女子学園の生徒会長、王樹華乃です」
大人びた顔立ちと美しい声に、新入生一同は息を飲んだ。
華乃は新入生の面々を見て微笑みを浮かべ、スピーチをはじめる。
「まずは、ご入学おめでとうございます。わたくしたちは、あなたたちを学園の一員として――仲間として、暖かく迎え入れます。
この学園はひとりひとりの個性を尊重するという校風を掲げ、これまで多彩な活動実績を残してまいりました。現在もその志は変わらず、みなさまが伸び伸びと過ごせるように日々サポートしていきたいと考えております。
生徒会では学園の様々な相談やリクエストも受け付けておりますので、何かありましたら遠慮なく申し付けてくださいまし。あ、もろちん風紀が乱れるようなことはいけませんよ?
……なんてね、うふふ。わたくしたちは、新たなみなさまと仲良く、楽しく手を取り合っていきたいと思いますわ。
では、わたくしの話もここまでに。以上で、生徒会長の言葉を終わります」
華乃は乱れぬ礼をし、最後に、「次は、小学部による校歌合唱ですわ」と言い残し、新入生の拍手に包まれながら袖裏へと消えていった。
「えー! 生徒会長めっちゃ美人じゃない!?」
「も〜声でかいってぇ……」
「合唱かぁ、楽しみだな」
会長の言葉が終わるや、またはしゃぎ出す後ろ三人に茉莉は頭を抱え、くるるは少し困り気味に笑った。
そんな中、壇上にはぞろぞろと小学部の子たちが並んでいく。整列が終わったあと、代表者のひとりが緊張した面持ちでマイクを持ち、挨拶をはじめた。
「ご、ご入学、おめでとう、ございます! 心、込めて歌う、ので、聴いてください!」
挨拶を終え、礼をする白い髪の小さな少女。その際、勢い余ってマイクにおでこをぶつけ、ゴチンという音が講堂に響いた。
講堂は温かな笑いに包まれた。少女は少しばかり緊張が解れたのか、さっきよりも柔らかな顔を浮かべ、歌を披露していた。
ちょっとしたハプニングはありつつも、その後も問題なく行事は進められ、無事入学式は終わりを迎えた。
その後は割り当てられた各クラスの教室へと向かいホームルームを過ごしたあと、いよいよ学園生活は本格的に始まったのだった。