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【完結済】異能部へようこそっ!  作者: みおゆ
第10話・ソラビト
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ソラビト(6)

「さあ、お見せなさい――あなたの異能の、真の力を」


 唐突に突きつけられた真実に、せつなの頭はどうにかなりそうだった。


 これは夢なんじゃないかと思い、何度も自身の太ももを抓るが、現状に変化など何一つない。


 目の前では、悲鳴に近い鳴き声を上げるソラビトしかいなかった。


「アアアアアアア!!!」


 ソラビトの叫びとともに強い風が吹き、砂が舞い上がる。


 猛攻を振るいだしたソラビトをそのままにしておくわけにはいかない。早くこの状況を収めないと、事態はさらに悪化していくだろう。


 だが、そのためには――。


「……奈子(なこ)お姉ちゃんの姿に戻さなきゃ」


 せつなはふらつく足に力を込め、奈子の元まで一気に瞬間移動で近づく。その身体に触れようとするが、強い風を巻き起こされ、せつなは遠くへ吹っ飛ばされてしまう。


「奈子お姉ちゃん! お願い、目を覚まして! わたし……せつなだよ!」


 ソラビトの中に奈子の意識があると信じて、せつなは何度も近づき声を掛け続ける。


 しかし、ソラビトが反応する気配はない。


 せつなを鬱陶しそうに何度も払い除けるばかりだった。


 これで何度目だろうか、ソラビトに突き飛ばされたせつなは砂浜の上を転がり、力なく倒れる。


「奈子お姉ちゃ……」


 それでも顔を上げ、ソラビトを見つめるが――次にせつなは、華乃(かの)のほうへと視線を向けた。


「……会長は、ずっと知ってたんですか」


 せつなは砂を握り締め、怒りの形相を華乃へ向けた。


「ずっと知ってたのに、今まで何にも教えてくれなかったんですか!? 奈子お姉ちゃんがこうなること、知っててずっと見過ごしてたんですか!? それに、今まで倒したソラビトも、全部全部本当はわたしたちと同じ……。……っ、そうやって、わたしたちに人殺しさせ続けてたんですか!?」


 華乃はまったく動ぜず、


「はい、そうです」


 と、ただ答えた。


 呆気に取られ、目を見開くせつな。


「しかたなかったの。これも国を守るため……いいえ、大切な生徒をこれ以上失わないためだったのですわ。でもね、ようやくこの悲劇にも終止符が打たれるの。あなたの異能によって……ね」


 華乃は不意に右手を振り上げたかと思えば、次の瞬間力強く振り下ろした。


「ギャッ!!」


 直後、悲痛な叫びをあげたのは奈子であったソラビトだった。頭がぺしゃんに潰れ、ピクピクと体を震わせながら、海面に倒れ込む。


「……いやっ! 何するんですか!!」


 悲鳴に近い声を上げながら、せつなは華乃へ向かって走った――これ以上、奈子に手を加えさせないために。


 ――しかし。


「……っ、ああっ!」


 華乃が拳を捻ると同時に、せつなの右足が潰れる。バランスを崩したせつなは華乃を目の前にして倒れ込んだ。


「……っ!」


 痛みで顔を歪めるせつな。

 無惨にも潰れた足は目を当てられない状況だったが――それは数秒にして、さきほどまでのきれいな足へと戻っていく。


「ハァ……ハァ……」


 苦しそうに激しく呼吸するせつな。一方で、華乃は興味深そうにその光景を眺めていた。


「素晴らしいですわ。その再生能力……いえ、正確にはリセット能力、ですわね。潰れた足さえも、血にまみれた靴下も靴も、すべて元通りになっているんですから」


 華乃は膝を屈め、うつ伏せに倒れるせつなの顔を覗き込む。


「その異能を此乃(この)に――いいえ、此乃だけではありません。みなさまに使いつづければ、わたくしたちだけの永遠の楽園が創れますわ」


 せつなは上半身を起こしながら、「……楽園って、なんの話しですか」


少女(わたくし)たちだけの平穏な世界のことですわ。争いも、死もない永遠の世界です。わたくしは、それを創りあげるのがずっと夢だった」


 足に力が入らず、座り込んだ状況で華乃を見上げるせつな。


「――そのためにはあなたの異能が必要なのです。あなたの『時間を操る』異能が必要なのです。しかし、あなたはまだ自分自身に対して時間を操れない――いえ、()()()()()()。それが今、他者にまで影響を与えられるようになりましたね」


 他者まで影響――せつなは、文化祭で茉莉(まつり)とともに瞬間移動してみせたのを思い出していた。


「あなたはもっと異能を開花させられる。時間を戻すだけじゃない、時間を永遠に止めることだってできるはずです。そうして、あなたが完全に異能に目覚めた時点で、わたくしはあなたの異能を奪おうと画策しています。もし、あなたがわたくしの夢に賛同してくださるのなら、そんなことはいたしません。ともに楽園で過ごしたいと願っています」


 なぜ、華乃は手の内を明かすのか。

 なぜ、華乃は平静と夢なんか語っていられるのか。

 なぜ、華乃はすぐそばで呻く、かつての仲間に対して――心配のひとつもせず、むしろ痛めつけることができるのか。


 せつなの中で次々とそんな疑問、嫌悪、怒りが湧き上がる中、まず問いかけたのはこれだった。


「……なんで、その楽園に奈子お姉ちゃんはいれてもらえなかったの」

三山(みやま)さんももちろん連れていきたかった……けれども、異能使いが眠る異能を目覚めさせる条件は、『絶望』しかありませんから」


 華乃は立ち上がりながら、「しかしあなたはまだ――しっかりと『絶望』しきっていないようです」と言って、ソラビトへ視線を移す。


「それはまだ、可能性が残っているからですわね」

「待って、何を――」


 華乃は両の手のひらを合わせ、捻じる動作をした。


 次の瞬間、巨体であるソラビトの身体はいとも容易く捻れ、潰れる。


「……え」


 一瞬、思考がフリーズするせつな――だが、直後に瞬間移動を用いて、急いでソラビトの元へ向かった。


「いやっ! やだ! そんな! な、奈子お姉ちゃんが……っ!」


 必死になって崩れていく身体を集めようとするせつなだが、塵になり消えていくソラビトを捕らえることはできず、空をかくばかりだった。


 唯一残ったのは、青いフラウドストーン、ただひとつ。


「……奈子……おねえ……」


 せつなはフラウドストーンを握り締め、胸に当てて祈った。


 時間よ戻れと、また奈子の姿を見るために必死になって力を込めた。


 だが、フラウドストーンが変わる気配は少しもなく。


「…………」


 突然奈落の底に叩きつけられたような気分のせつなにとって、最早涙も流れなかった。

 瞳の光は失われ、ただ空虚を覗いているようで。


「フラウドストーンだけになってしまったら、もう異能の力は及ばないのかしら?」


 一方で、華乃は冷静に今の状況を分析していた。

 彼女にはもう、自身の目的しか見えていないようだった。


「まあいいですわ。明らかに、尾張(おわり)さんの雰囲気も変わりました。そろそろ、わたくしも彼女の異能を……」


 華乃が次の行動へ移そうとしたときだった。

 それは、ある者によって阻まれてしまう。


 ――ある者からの、不意の攻撃によって。


「……此乃」


 華乃は掠れた声を洩らす。


 ある者――此乃は、手にしている包丁を、姉である華乃の背に深く突き刺していた。

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