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【完結済】異能部へようこそっ!  作者: みおゆ
第10話・ソラビト
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ソラビト(4)

「――はなのんの邪魔はさせない、みたいな」


 次の瞬間、きんぎょはすでにテディベアを動かし、此乃(この)に向かって飛びかからせた。


「……ダメっ!」


 素早く歩煎(ほせ)は此乃の前へ出るや、手にしていたフライパンをフルスイングし、テディベアを殴った。


 吹き飛ばされるテディベア。それを見たきんぎょは、「それ、きんぎょのお気に入りなんですけど!」と声を荒らげた。


「ふ、副会長のお気に入りとか、今は知らないッスよ!」


 歩煎はビビりながらも反論し、横目で此乃を睨んだ。


「此乃! ここへ来た用事があったなら、さっさと済ませて行くッス!」

「! 歩煎、こ、ここは任せたであります!」


 此乃はそう言ったが、扉の前にはきんぎょがいて、外へ出れないことに気づく。


「副会長! 通すであります!」


 此乃は言うが、きんぎょはただ睨み返すだけだった。


「嫌。こののんは、はなのんの邪魔する気っしょ? こののんはわかってないんだよ、はなのんは、こののんを助けるために――」

「そんなのわかってるであります! でも、こんなの間違ってるでありますよ!」


 此乃は必死に、きんぎょに訴えかける。


「永遠に少女のまま生きるなんて、永遠に死んでるのと同じであります! そのために、奈子(なこ)先輩とせつなを不条理な目に合わせるでありますか!?」

「――しかたないっしょ。二人が、楽園を作るための鍵なんだから。それに、今更そんなこと言ったって、これまで犠牲になった少女たちはどうなるの?」


 きんぎょは暗く、重い口調で続ける。


「きんぎょたちが今まで倒してきたソラビトの中には、きんぎょの知ってる人だって、これまで何人もいた」


 此乃と歩煎は同時に息を飲む。


「みんなで協力して倒したヴァッフェやゲハイムニスも、かつての音萌(おともえ)学園の生徒。きんぎょたちは今まで何人も人を殺してきたんだ。今更、もう一人二人、犠牲になろうと関係ない。それで――これ以上、誰も理不尽に死ぬことがなくなれば」


 歩煎の横で、ガタガタと物音がし出す。さきほど吹き飛ばしたテディベアが立ち上がり、再び臨戦態勢を取りはじめていた。


「――何より、きんぎょははなのんの味方。はなのんがそうするといったらついていく。それが、どんなことでも」


 打つ手が思いつかず、その場に立ち竦む此乃。歩煎は此乃ときんぎょを交互に見やっていたが、やがて意志を決めたのか、きんぎょへ向かって走り出した。


 きんぎょは見逃すはずもなく、冷静にテディベアを駆使し、歩煎の行動を止めに動く。それは一瞬のことで、歩煎の首元には、テディベアの腕から剥き出た刃が向けられた。


「余計なことしないで、みたいな。きんぎょを突き飛ばそうなんて安易な考え、ムダ」


 歩煎は冷や汗を浮かべ、明らかに恐怖を感じている様子だったが、それでもその脅しに屈せずに、こう言い放つ。


「つ……突き飛ばすなんて、考えてない……ッス。副会長に、そ、そんな度胸、ないッスから」


 きんぎょは訝しみ、「じゃあ何?」と返した。


「ぼ……ボクが適当に副会長に向かって走れば、テディベア(コイツ)が、絶対ボクのとこに来ると、思って」

「来て、何? 歩煎がピンチになっただけっしょ?」

「うん……でも、状況を打破するきっかけにはなるかも……」


 歩煎は息を吸い込んで、テディベアに触れた。


 きんぎょは「ちょっ! 何かしたら、その手を切るよ!」と言いつつも、その刃を威嚇の状態のまま、斬りつけることはしない。


 きんぎょは元より、仲間である生徒を傷つける意志はないのだろう。


 歩煎はテディベアを引き剥がし、きんぎょへ向かって投げつけた。空を舞うその間にも、テディベアはどんどんと大きくなっていく――歩煎の『物を大きくする』異能が、ここで発動したのだ――その巨体にぶつかったきんぎょは、扉の外へと突き飛ばされた。


 開かれる出口。歩煎は「此乃! さっさと行け!」と叫び、此乃は「感謝するであります、歩煎!」と返し、厨房で目的の物を回収すると、すぐに厨房の外へ出た。


 きんぎょはテディベアをどかしつつ、走り行く此乃を見送る。歩煎はそんなきんぎょに近づきながら、「あの、怪我ないッスか……?」と恐る恐る尋ねた。


「ないよ、ティーちゃんぶつけられたくらいじゃ。ってか、結局突き飛ばすじゃん」

「ご……ごめんなさい。ボク、異能部みたいに戦うとか、無理だし、このくらいしか」


 歩煎はオドオドしながらも、走り去った此乃を確認しつつ、きんぎょにこう問う。


「あの……追わないンスか?」


 きんぎょはムスッとした顔で、「何? 追いかけてほしいの?」と返す。歩煎は「ひっ」と肩を竦めつつ、首を横に振った。


 しばしの無言のあと、歩煎は口を開く。


「……ふ、副会長、めちゃくちゃ手加減、してましたよね?」

「……」

「副会長も、実は会長のやることに、反対なんじゃ……」

「……違うし」


 きんぎょは体育座りをし、そのまま顔を膝に埋める。


「……でも、きんぎょはやっぱり、何かを切り捨てるほど強くなかった」

「……。……そういえば、ほかの生徒会のみんなは? 茉莉(まつり)とヨヨは……」

「二人がはなのん側につくか、せつな側につくかは二人次第。はなのんは、すべてを知る生徒会のみんなには選択肢を与えてくれた。それよりも、そろそろ奈子っちが……」

「……奈子先輩が、なんスか」


 そのとき、外から「ギャアアアアアアア」という悲痛な叫びが聞こえた。


 歩煎は窓の外を見つめながら、「……嘘」と呟き、きんぎょへ視線を戻す。


「……ねぇ、あれはそうなンスか? もう、助からないンスか?」

「……せつな次第って、ところ……だと思う」


 歩煎はその場に座り込み、天井を見上げた。


「……こんなの知らずに、ただ楽しい学園生活だけで終わりたかった。タコ部長に文句垂れながら料理する、毎日に戻りたい」

「……だろうね」


 きんぎょは言い、巨大化したテディベアの上に寝転がりながら、歩煎に聞く。


「……ところで、これって元の大きさに戻せないの?」

「知るか、バカ」


 歩煎は言って、きんぎょ同様テディベアに背を預けた。

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