第九話 Jack
仕事が12時間固定労働に
目を開くといつの間にか俺はローチの死体の上に覆い被さって意識を失っていた事を知った。それに妙な感じがする。一人称視点の映像をテレビから見ているような、どこか他人事な感覚だ。
そして、俺の身体が勝手に動き、幻術スキルを使いローチの死体を俺の姿に変えた。誰かに身体をジャックされているような不気味さを感じていると扉が開いて誰かが入って来た。
俺はその間も動くことはなく、ローチの死体の上からチルの手により部屋の隅へ運ばれた。オリアナが助けに来てくれたのか?と考えていると低い男性の声が聞こえた。
「呪具を寄越せ。」
「お、おい。扱いには気を付けろよ。一度きりだがかなり強力な呪具だって話だぜ。」
チルの声は強張っており、相手がチルの逆らえない相手である事が分かる。
「魂を破壊する為の呪具だ。分かっているから寄越せ。」
魂を破壊する呪具なんて物騒なもんもあるのか?それにしても何故そんなものを必要とするんだ。
「ジャック、地獄へ送り返してやる。」
勝ち誇った男の声が聞こえる。何故俺を狙うんだ。と混乱している間にも俺の身体は勝手に幻術スキルを使い俺の死体に扮したローチの顔をその男の方へ動かした。
「馬鹿な!もう意識が!?」
その男の声を聞いた俺の顔は俺の意思と反してニヤリと口角を上げ、幻術を用いてローチの死体から声を届ける。
「二度も友人を殺すなんてな。過去からは誰も逃れる事は出来ない。分かってるだろ、ゼ……」
俺の意思に反して出た声は俺の元々の声より幾分か低く、多少合成音声のような不安定な声だ。
「黙れぇぇぇ!!いつだって私が上、貴様は下だ!貴様さえ地獄に戻れば、私の地盤は揺るぐことはない!」
男は俺の言葉を遮り、一心不乱にローチの死体をハンマーで殴り付ける。チルもその異様な光景に気を取られている。
俺の身体はまたしても勝手に動き出し、幻術で自分を隠蔽し誰にも気付かれないまま部屋を抜け出した。
人目につかないルートを通り、スランバーから無事に脱出した俺はグリーンエリアにある見知らぬ部屋に辿り着いていた。部屋はいつから手入れされていないのか埃が被って真っ白になっていた。
俺はそんな事を気にする様子も無くクローゼットへ向かう。元々着ていた服とカボチャを脱ぎ捨てて革ジャンにダメージジーンズという格好に着替えた。
最後に、鏡の前に立った俺の顔は蒼白になり、次の瞬間には妙な違和感が消え自分で身体を動かせるようになった。
「おい、一体お前は誰なんだ!何故俺の部屋に居るんだ!」
背後から男のダミ声が聞こえ、振り返るとクローゼットの前の床に転がるカボチャと同じカボチャを被った男が立っていた。




