第八話 過去から来た男[side X]
謎の人物視点です。別視点って他の人の小説で読むとワクワクしますよね。私のもそうだと良いんですけど。
ジャックが部屋に閉じ込められたのを確認してから私はオリアナとチルの前へ姿を晒す。
「カボチャ野郎の次はピエロマスク野郎か、今日はサーカスでも来てんのか?とりあえずこっちは、やる事やったぜ。」
チルは私を見て面白く無さそうにそう言うとオリアナに顔を向ける。
「えぇ、ジャックが入るのは見ましたし、普段の力量から考えてもあそこから抜け出すのはまず無理でしょう。」
「なぁ、ピエロマスク、あんな完全に密閉された部屋を作るのはおたくらが思ってるよりも大変だったんだ。報酬に色付けてくれても良いんじゃねぇか?」
確かに大変だろうが、チルの奴がトップに立つ為のサポートも資金も十分に提供している。
まったくこれだから馬鹿どもは困る。
「既に契約は果たされている。これ以上を求めるのなら次は君があの部屋を試す事になる。」
チルもダメ元くらいの感覚で言ったのだろう。舌打ちをしただけでそれ以上要求する事は無かった。
「失礼ですが、ミスターX。ネオグランツはここで手を引きます。部下を2人失いましたので、これ以上は対応出来かねます。」
あぁ、ネオグランツのオリアナを忘れていた。最初からネオグランツのやつらはジャックを運ばせるだけの存在でしかない。だから、
「ミスターX……その筒はなんです?」
ここで処分しても何ら問題ない。
私は銃口をしっかりと彼女の頭に狙いを付けて引き金を引いた。
「あの……聞いていますか、ミスター……」
発砲音が彼女の言葉を消した。そして、二度と彼女の言葉が続く事は無い。スーツが返り血で汚れたがまぁ、良い。どうせこんな衣装は二度と着ないからな。
「チル、では、そろそろジャックを見せてくれ。今度こそキチンと死に様を確認しなくては。」
これまでにもダメージ無効化という特異体質者に出会った事がある。最初こそ無敵かと思われたが窒息させる事で意識を奪える事が分かった。そして、呪いが効果的である事も。意識を奪い、呪い殺す。それがバケモノの狩り方だ。
しかし、ジャックも面倒な男だ。ゴブリン討伐に紛れて首を切り落としてやった後に私がシャレで置いてやった頭代わりのカボチャを付けて蘇るとはな。
そんなことを考えつつ扉を開くとカボチャ頭の男とそれに折り重なるようにして死んでいる男の死体が中央にあった。目論見通り意識は奪えたようだ。上に折り重なる男を部屋の隅へ退かせ、私はまじまじとカボチャ頭を観察する。
間違いなくジャックにくれてやったカボチャだ。
「呪具を寄越せ。」
「お、おい。扱いには気を付けろよ。一度きりだがかなり強力な呪具だって話だぜ。」
「魂を破壊する為の呪具だ。分かっているから寄越せ。」
私はチルから半ば奪う様にハンマーを受け取る。
「ジャック、地獄へ送り返してやる。」
私がそう言ったタイミングで横を向いていたカボチャ頭が私の方に目を合わせる。
「馬鹿な!もう意識が!?」
「二度も友人を殺すなんてな。過去からは誰も逃れる事は出来ない。分かってるだろ、ゼ……」
「黙れぇぇぇ!!いつだって私が上、貴様は下だ!貴様さえ地獄に戻れば、私の地盤は揺るぐことはない!」
私はチルに止められるまでジャックの身体が原型を留めていない事にも気付かず。一心不乱にジャックの身体にハンマーを振るった。
手を止めて改めてジャックの身体を見ると徐々に灰になっていた。恐らく魂を失った事で肉である事すら維持出来なくなったのだろう。良いザマだ。
「まったく、手間を掛けさせる。だが、過去に打ち克つ事は出来た。恐る程でも無かったか。」
私はスーツからペンを取り出しチルに契約完了のサインをくれてやって、帰路に着いた。




