第七話 息の詰まる様な
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
約束通りオリアナと倉庫前で合流し、彼女を裏道からブルーエリアでパッチギャングが仕切るクラブスランバーへと運んだ。いつもならここで俺の仕事は終わりだ。何せ運ぶ以外出来ないんだからな。
「ありがとう、ジャック。さすがの腕だわ。」
「仕事だからな。ところでパッチの連中はうちの掌握下にあっただろ、ローチがトラブルなんて有り得るのか?」
「つい、昨日連中のトップがリジーからチルって男に変わったのよ。」
「それで?チルってのが条件交渉でも言い始めてトラブったってわけか。」
「先代と契約して後は荷物を受け取るだけって物も白紙に戻すとかふざけた事を言い出したからローチに"話し合い"に行って貰ったってわけ。」
「それでやられてちゃ世話ねぇけどな。しかし、その新しいトップもまったくどこがチル(落ち着く)なんだか。」
「つまり、ここは敵地なの。ローチの身柄を受け取りに来ただけだから早々揉めないと思うけど、あなたも着いて来て。」
俺はかなり渋ったが、ここで待っていてもリスクは変わらず、黙って立っているだけで十分だ、とも言われたので諦めて彼女の後ろについてクラブスランバーへと入る。クラブには見るだけで息が詰まりそうなほど客がひしめいていた。
パッチの連中は名前の通り自分の身体の至る所にゴーレムをパッチ(継ぎ接ぎ)していた。腕が4本のやつや目が6つあるやつ、足が刃物のように鋭いやつ、どこを見回してもそんな奴らばかりで俺のカボチャが霞んじまうレベルだ。
「連中の中に居ればあなたはまだ普通って感じになるわね。ただのカボチャだもの。」
うるせぇな!と思いつつも無言で進む。
しばらくクラブの中を歩き、身体検査をされた後にVIPエリアへ通された。オリアナの護身用の片手剣は没収されたのが不安で仕方ないがここまで来たら最早腹を括るしかないだろう。
俺たちは両腕が鎌になっている男の案内でとうとうチルって男のもとへ辿り着いた。
「よぉ、オリアナぁ、待ってたぜぇ?そっちのミスターパンプキンが、例の?」
「えぇ、彼がジャック。ジャック・ウィリアムよ。」
なんだ?何故俺の話を?
「そうか、無敵のミスターパンプキンに会えて光栄だ。約束のもんはそっちの部屋にあるぜ。」
「ジャック、悪いけど部屋を確認して来て頂戴。正しいものがあると分かれば、適当なところで手打ちにして帰りましょう。」
何か違和感があるが早く帰りたかった俺はソファから席を立ち、言われた通り部屋を見に行く事にした。
窓ひとつない頑丈さだけが取り柄といった内装の部屋にはローチが倒れていた。俺は慌てて駆け寄る。
「おい、ローチ!大丈夫か!?ローチ!」
いくら呼び掛けても返事はなく、顔は紫に変色している。
「チアノーゼ……青酸カリ?いや窒息か?」
ハッ、と気付いて振り返った時には遅かった。重たい金属の扉を閉められてしまっていたのだ。
無敵の身体だから焦る必要なし?大丈夫?ハッ!このカボチャを忘れたのか、まったく。"ダメージじゃなければ無効化されない"んだ!
つまり、呼吸が出来なくなった俺は一時的にか永久にか身体機能が止まっちまう可能性が高いって事だ!
なるべく頭を低くして動かないように浅く呼吸をして、耐えていたもののどうやら限界らしく、徐々に視界は狭まり、俺はローチの上に折り重なるようにして意識を失った。




