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手違いだらけの異世界転移  作者: ザッコン
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第五話 呪われカボチャの就活

やっと退職出来たー!

  「おい、朝だぞ起きろ。」


衛兵に肩をゆすられて俺は目を覚ました。石の床で寝たせいか全身がバキバキに痛い。


「お前が銅板を見つけた経緯を聞きたいと、今朝連絡があった。何か予定があったかもしれんがとりあえず付いて来てくれ。」


「経緯って言われてもな……。どこに行く事になるんだ?あ、冒険者ギルドとか?」



振り返った衛兵は呆れた顔をしてため息を吐き、いいから黙って付いて来い、と呟くと再び歩き始めた。


詰め所からしばらく歩くと鉄骨の柱に囲まれた金網の籠の前で立ち止まった。籠の前には青く光るパネルが立ててあり、パッと見は工事現場の武骨なエレベーターのように見える。


衛兵が制服の内ポケットから金属板を取り出して、パネルにかざすと籠が……いや、どう見てもエレベーターが上がって来た。


エレベーターに乗り込むと取り付けてあるディスプレイに女性が表示されこの街の案内が始まった。


 この街、ネオカブキシテイ(NKC)は今から150年前に異世界から来た勇者が皇帝からエルステリア山を買取り1人で開拓し建てた街で、勇者は街を建てるだけ建てて後は商人たちに街の運営を任せ消息を絶ったそうだ。


ネオカブキシティ……ネオ歌舞伎シティ……ネオ歌舞伎町!?東洋に似た場所ってまさかそういう事!?

と脳内では若干パニックを引き起こしつつも説明は続いていく。


街に使われている技術は再現不能なものが多く、いま利用しているものが壊れてしまうと街が大変な事になるらしい。ホントは細かい話があったのだが、ニュアンスでしか理解出来なかった。

街は縦に三層構造になっており、それぞれ下からブルーエリア、グリーンエリア、レッドエリアという名称が付いている。



そんな説明を聞いているうちに俺たちはグリーンエリアに到着した。ごちゃごちゃとネオン輝く雑居ビルが立ち並ぶその光景はさながらサイバーパンクな世界観だ。


 グリーンエリアの中心にあるガラス張りの高層ビルが今回の目的地だったようで、ビル前の看板にはネオグランツソーシングと書かれてあった。


衛兵は受付に何かを話しながら俺の方を見て、手招きで呼んだ。


 「じゃあ、害獣駆除を担当する部署の室長との話が終われば後はお前の好きにして良いからな。ただ、各エリアの移動には許可が必要だから気を付けろよ。じゃあな。」


 元々いた世界とそう変わらない内装のビルに呆気に取られ、気付いたら室長の部屋へ通されていた。



「おーい、大丈夫かい?」


気苦労の多そ……否、人が良さそうな顔をしたスーツ姿のおじさんが俺の方を心配気に見つめながら声を掛けて来た。


「すいません、この建物に驚いてしまって。問題ないです。」


「あぁ、外から来た人だったね。初めはみんなそんなもんさ。ところで、話辛いから悪いがそのカボチャを外して貰っても良いかな?」


衛兵がまったく気にした様子が無かったので忘れていたが、言われてみれば俺はカボチャ被ってたんだ、と思い出す。


「申し訳ないが外したくても外す事は出来ないんです。」


「ほぅ?まぁ、無理なら仕方ないな。では、早速だがこの認識票を手に入れた経緯を詳しく教えてくれないか?」


 俺は衛兵に話したように自分のチートや異世界から来たというのは伏せてゴブリン集落での話をした。

どうやら見つけた銅板、否、認識票はここの部署に所属する社員たちのものだったようだ。

ゴブリン討伐に出た社員が予定日以降も戻らない為、駆除班を2つ新たに送り込み社員の安否確認に行かせその報告待ちだったようだが、俺がこうして呼ばれたという事はミイラ取りがミイラになったということだろう。


「君のお陰で社員の安否も確認出来たし、これ以上犠牲者を出さずに済んだ。ホントに助かったよ。」


「いえ、たまたま幸運に恵まれただけですから。」


「幸運でも助かった事に変わりないさ。この後は何かあるのかい?」


「あー、仕事と住む場所を探そうかなと。」


「決まってないならうちで働くかい?社宅もあるし、この街で暮らす気なら良い条件だと思うんだが。」


カボチャのまま就活出来るか不安しか無かったがまさかのスカウト、だが、しかし俺は二度とゴブリンに襲われるような恐怖は味わいたくない。


「ありがたいですが、街の外で戦えるほど強くは無いので、出来れば街の中で完結するような仕事をしたいなと考えておりまして。」


たとえば、事務職とかな!このサイバーパンクな街ならそういう仕事もあるはずだ。


「街の中か……ならうちだとフィクサーだな。あー!君の装備見覚えがあると思ったがフィクサーの制服か!とりあえず社宅は用意しておくからフィクサーの部署まで行って入社の手続きを済ませてくれ。」


え?フィクサーってなに?と思いつつ、俺はあれよあれよという間にフィクサー部の人事部長の前に座らされていた。


「あの、ホントに自分入社決定ですか?」


人事部長として紹介されたパンツスーツ姿の女性は俺の質問には答えず、書類とペンを渡して来た。


どのみち、仕事も住む場所も必要な俺に選択肢は無いので質問を諦めて、入社の手続き書類と社宅の賃貸契約書類にサインをする。


 後々、もしもこの時フィクサーの業務内容をしっかり確認していれば、と思うことになるのだがこの時の社会人経験が圧倒的に不足していた俺は知る由も無かったのだった。

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