第十六話 彼と彼女の事情
「転生について最初から話すと長くなるから端的にまとめるわね。」
オリアナはそう言いながら現在に至るまでの話を始めた。
とある企業でVRMMOのクローズドベータテストに参加した帰り、乗車していたバスが横転し這々の体でなんとか脱出したところバスに気を取られていたトラックに轢かれて死んだらしい。
死後、偉そうな爺さんにチートを授けられVRMMOの世界に転生した、とそういう話だった。
「そして、転生した私はチートスキルを駆使して冒険者としてお金を稼いでこの街の遥か上空にあるカジノにどハマりしてこの街で暮らし始めたってわけ。」
ギャンブルに溺れるような奴を転生させるなよ、と思わなくも無いが元々女子高生だったそうなので血腥い冒険よりカジノに靡くのは仕方ない事なのかもしれない。
そんな事よりここがゲームの世界というのが驚きだ。俺の居た世界ではVRMMOなんてアニメや小説でしか聴かない単語だったが、オリアナの世界では実現しているというのも不思議だ。
「実は俺は日本からの転移者だ。」
「えー?絶対嘘でしょ!私が転生者って聞いて対抗して来たの?フフッ、案外あなたってそういう子どもっぽいところあるのね。」
「いや、なんか女神っぽいやつに手違いで転移させられたんだよ。」
「ま、とにかく今後の話をしましょう。」
……コイツ!!
「まず私たちを狙う者をどうこうするにもこの街を出て冒険を始めるにもお金と人脈を作る必要があるわ。まずはこの街を仕切るフィクサーに連絡してトラブルシューターとして仕事をこなしてこのヤクザ街での信用を作るわよ。」
先程までの軽い雰囲気を消し、オリアナは真面目な顔でそう言った。
「はぁ、それでこの街のフィクサーって誰だよ。」
俺がそう訊ねるとオリアナは端末からこの街の地図を表示させる。
「この街は四つの区画に分かれていてそれぞれに派閥があるわ。」
そう言いつつ地図を操作し、区画を四つに分けた。ほぼ円形に広がる街が「エ」の字に分断された。
「つまりフィクサーは4人?」
「いえ、フィクサー自体はもっと多いわね。ただ顔役も兼ねているような信頼出来るフィクサーは数人よ。」
「どうやって連絡を付ける?」
するとオリアナはニヤリと笑う。
「私たちに興味を持てばやつらから連絡して来る。それまではそこら辺の酒場で困ってる人を"お手伝い"ってとこかしらね。」
「了解。いつから動く?」
「今日は疲れてるし、明日からにしましょう。」
そして、オリアナは、じゃあ私はお風呂に入るから、と言って席を立った。
結局俺が転移者だと信じて貰えなかった事に気付いたのはそれからしばらく経ってだった。
他人の信じられない話って信じられないよね。




